上川氏の主演する舞台『蛮幽鬼』の公演真っ只中である、11月某日。都内のスタジオで次回主演作『ヘンリー六世』のポスター撮影中の同氏に、今作にかける意気込みを伺った。
──意外にもシェイクスピアは初めてだそうですが、今のお気持ちは?
上川 身構えてはいません。そんなにたくさん見ているわけではないにせよ、どの作品を拝見しても、やっぱり面白いのがシェイクスピアなんですよね。その大半が蜷川(幸雄)さんが演出された作品なんですが。既存のウエルメイドな脚本の作品に出るような気持ちで、今はいます。
── 『ヘンリー六世』の3部作を凝縮するとはいえ、大変長い上演時間ですよね。大作に出演するということについては?
上川 それに対しても、不安は正直、ないですね。直接比較すべきかどうか、わからないですけど、『表裏源内蛙合戦』でも、マチネとソワレを合わせれば8時間ですから。『蛮幽鬼』でも3時間の芝居のマチネ、ソワレを今、やっていますしね。『ヘンリー六世』は剣を振るうこともありませんし(笑)。
── その長さに耐える体力は、どうやってつくるんですか?
上川 あまり耐えている感はないんですよね。鈍感さがいいように作用しているんじゃないでしょうか。そういうことに対して、あまり神経質に捉えないというか。長くても、その時間全部が楽しいんですよ、やっぱり。例えば、『蛮幽鬼』でも、壮大な音楽と作り込まれた映像が流れるその幕の裏側にスタンバイしながら、毎回新鮮ですし、ワクワクします。そこで、「ああ、また今日も3時間やらなきゃいけない」という思いに駆られることはないんです。とても幸せな時間を毎回、迎える感じなんです。
── 『源内〜』で蜷川作品はご経験済みですが、蜷川演出に対してどう思われましたか?
上川 テレビ番組で、なぜか動物と仲よくなっている飼育員とかが、紹介されることがありますよね。特に餌を与えて懐柔するわけでもなく、叱責して従えるわけでもないのに、動物が意のままに動く。すごくいい関係が成立している、魔法のような飼育員、みたいなのが紹介されていることがあると思うんですけれど、そんな感じです。
── 飼育されているんですか(笑)。
上川 「こうやれ」と示唆されるわけでもなく、「いいね、いいね」と持ち上げられて、蜷川さんの思惑に近づくわけでもないのですが、出来上がってみると、蜷川さんの作品の中にいつの間にか、いるんですよ。あれよあれよ、というのが、一番端的でわかりやすいかもしれません。
── 原作を圧縮して上演するシェイクスピアは蜷川さんも初の試みです。その新しい冒険に参加するお気持ちは?
上川 先日、新国立劇場で9時間の『ヘンリー六世』を作拝見してきたんですけれど、純愛以外は全部あるような感じがしたんですね。作品の中に悲劇も喜劇もある。さらに今回は6時間に凝縮してお届けするので、結構、贅沢な経験になりそうですね。僕にとっても。
── ヘンリー六世という役については?
上川 むしろ想像がつかなくなりました。浦井健治さんのヘンリーが無垢でイノセントだったものですから。僕自身は到底、ああはなれないという思いのほうが強かったんです。ただヘンリーの無垢さや、殉教への思いを、例えば、ヨーク公やグロスター公が持っている出世への欲や、サフォークの持っていた色に対しての欲と同じように「業」と捉えると、ちょっとわかりやすくなるかな、というふうに今は思っています。
――ヘンリー六世も、また業を抱えていると?
上川 ヘンリー六世の崇高であろうとした思いも、これまたカルマなんじゃないかという気がするんですよね。責められる要素が少ないだけで。でも強い思いであるという点では、例えばサフォークの「女を手に入れたい」というのと一緒だと思うんですよ。キリスト教で言う「七つの大罪」じゃないですけど、その大罪の中に入らない罪がある気がするんです。彼がやっていることは、正当性があるかって言ったら、疑問だと思うので。隠された「八つめの罪」の中に足を浸していた男なんじゃないかな、って。
――とても楽しみになってきましたが、共演の方については、どんな印象ですか?
上川 ほとんどの方が初めてなので、新鮮な経験になりそうです。大竹しのぶさんとも初共演なんですが、登場人物の中で一番、身のうちに猛るものを携えていたのは、大竹さんが演じるマーガレットなんじゃないかという気がしますね。僕が男で女性を見ているからかもしれませんが。男性の出世欲って、どこか容認できるというか、わかってしまう部分があるので。その勇猛果敢なマーガレットが、とても楽しみです。
(取材/文:沢美也子)
(写真:渡辺マコト)
彩の国シェイクスピア・シリーズ第22弾『ヘンリー六世』
【埼玉公演】2010/3/11(木)〜4/3(土)
会場:彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
【大阪公演】2010/4/10(土)〜4/17(土)
会場:シアター・ドラマシティ
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