英雄叙事詩『イリアス』が現代に蘇る!カサンドラを演じる新妻聖子にインタビュー![インタビュー]

 紀元前8世紀頃にギリシア最大の詩人、ホメロスによってまとめられたと言われている、最古の英雄叙事詩『イリアス』。歌い継がれ、のちに文字に記されて読み継がれてきたこの名作が、何千年もの時を越えて現代に蘇る!
 日本では初めての舞台化となるこの作品、演出を手掛けるのは栗山民也。キャストは英雄・アキレウスを演じる内野聖陽を筆頭に、トロイア王・プリアモスを演じる平幹二朗ら、実に絢爛豪華な顔ぶれが揃う。
 この舞台で、トロイア王の娘・カサンドラを演じることになった新妻聖子に、本番直前の稽古の様子や作品への想いなどを語ってもらった。


実は今回、私の第一声から始まるんです。責任重大で、困っちゃうんですけど。

――稽古場の様子はいかがですか。

 今回は、ベテランの先輩方ばかりの稽古場なので、本当に緊張しています! そうは見えていないかも知れませんが(笑)。初めてご一緒する方も多いですし、借りてきた猫みたいになってますよ。こういうギリシャ神話の世界ってなかなか接する機会がなかったので、正直まだ手探りの状態で。でも栗山さんの演出は手とり足とりという言葉がぴったりなくらい細やかに丁寧にご指導くださるので、迷うことはそんなにはないんですけどね。

――この『イリアス』という作品をやると聞いて、最初どう思われましたか?

 まず、また栗山さんと仕事ができるということが一番うれしかったです。『マリー・アントワネット』で初めてご一緒したのが2006年で、これまでにも何度か声をかけていただいていたんですが実現していなくて。だけど絶対にまた成長した私を見てほしいと思っていたので、今回、声をかけていただいたことプラス、スケジュールが合ったことがすごくうれしかった。「絶対、やりたいです!」って、あまり詳しいことを聞く前に引き受けちゃいました。

――二つ返事で引き受けてから、ギリシャ神話なのか! と?(笑)

 そうです(笑)。でも台本を読み、稽古が進むにつれて「なるほど、だから私なのか」って要素がたくさん見つかりましたね。キャラクターの本質で「栗山さんは私のことをこういう風に思っているんだ」ってことが、すごくわかって。

――それは、たとえばどういう部分ですか?

 『マリー〜』のとき、私が演じた役は非常に正義感が強くて。「このままでいいの?」って、お客さんに問題提起をするような立ち位置の役だったんです。今回、私が演じるカサンドラもそういう感じで。「人はなぜ、なんのために戦うのか」、「自由とはなにか」。戦いというものに、疑問を投げかけるような作品というところも一緒ですしね。そして、新妻が出るんだったら、じゃあ歌も歌わせてみるかみたいな流れにもなっていまして。

――せっかくだから、と?(笑) まあ、お客様ももちろん新妻さんの歌声を待っているだろうと思いますし。

 あ、でも栗山さんは「新妻聖子が出ているからきっと歌うんだろう」と思っているお客様を裏切りたい」ということも言っていて。歌うんだけど、そのままは歌わないというか(笑)。なかなか、微妙な塩梅の構成になっています。ミュージカルみたいにソロで歌うみたいな感じではなく、語りみたいな歌がちょっとある、という感じかな。

――今回、新妻さんが演じるカサンドラは、どういう女性なのでしょうか。

 そもそも、ギリシャ神話のなかのキャラクターなんですけどね。トロイア王プリアモスの娘で、アポロンに愛される女性です。アポロンがその美貌を見初めて、特別な予言能力を授けるんですが皮肉なことに、その予言能力でいずれアポロンが自分に飽きてしまう未来を見てしまう。それでアポロンを拒むようになるんですが、アポロンは怒って仕返しに誰もカサンドラの予言を信じないように呪いをかけるんです。なので、すべて見えるのに周りが信じてくれないから未来を変えることができない。そういう、最悪の矛盾を抱えた悲しい子です。家族からも疎まれ、孤立無援で。というのが、ギリシャ神話におけるカサンドラの有名な位置づけらしいです。未来が見えてしまうのに信じてもらえない悲しさと、破滅に突き進んでいくのをただ見守るしかないという悲しさみたいなものが、どこかに出せればいいのかなと思っているところです。

演劇がない時代に生まれた物語が、現代にこうして蘇るなんて奇跡に近いことじゃないかと思います

――今の時点で、そのカサンドラ役をこの舞台でどう演じようと思われていますか。

 これが難しいんですよ! 栗山さんにも「予言者だから、やはり普通の人とどこか違うたたずまいを追求したい」と言われていて。

――等身大の女性を演じるのとは、かなり違いそうですね。

 ええ。今は、静と動でいえば静の方の役づくりに落ち着いてきましたけど。だけど仙人のようではいけなくて、あくまでも争いのただなかを生きている登場人物のひとりとしての臨場感も必要なので。そのうえ、実はこのお芝居、私の第一声から始まるんです。責任重大で、困っちゃうんですけど。

――すごい重要な役回りですね!

 もう、本当に胃が痛いです。初日、緊張しすぎて第一声がひっくり返っちゃったら劇場のお客様が全員コケちゃいますよね。そうなったら、どうしよう〜(笑)。

――カサンドラは平幹二朗さん演じるトロイア王の娘、ということになるわけですが。平さんの印象は?

 もう、とにかくめちゃくちゃカッコイイんですよ! あんなお父さんがいたらって思いますね。実際はウチの祖母よりも年上でいらっしゃるんですが、おじいちゃんなんて言えません! 目がハートになっちゃうくらいにカッコよくて。しかもすっごくお茶目なんです。貫禄の塊みたいな方なのに、先日もこんなものを差し上げたら失礼かなと思いつつも、持って来たドーナツを「平さん、甘いものは召し上がりますか?」って机の上に置いたら「やったあ!」って両手上げて喜んでくださって。つい、カワイイ!と思ってしまいました(笑)。

――内野聖陽さんの印象はいかがですか?

 内野さんとは、実は2回目の共演なんですよ。私、初舞台でご一緒しているんです、『レ・ミゼラブル』で。あのときは私もなにもかもが初めてで、まわりの先輩方と話をする余裕もなかったんですけどね。でも今回の座組みの、メインキャストのなかでは唯一といっていいお知り合いなんです。だから、内野さんがいてくださるのは私としてはすごくホッとしますね。だけどすごいですよ、“英雄アキレウス”を演じるためにものすごく身体をつくりこんでいらして。池内(博之)さんと二人で稽古の合間にもプロテインばかり飲んでます(笑)。もう、お二人の周囲はなんだか、部活の男子部みたいな感じが漂っています。

――お客様には、どういうところを観て、感じてほしいですか。

 今回の舞台は、普通の現代劇ともちょっと違うストレートプレイで、しかもシェイクスピアともギリシャ悲劇とも違うんですよ。ギリシャ神話の叙事詩、詩として歌い継がれてきた物語なので、言葉の力というものがすごく大切になってくるお話なんですね。少し耳慣れない名前や言葉もいっぱい出てくるので、そのへんはあいまいにせず、お客様が文字で読むよりも明瞭にはっきりと物語がわかるように演じるのがベストだと思っています。はるか3000年も前に生み出された物語が具現化されることをまず楽しんでほしいし、そしてそんなに昔に作られた物語なのに現代に当てはめられる要素がたくさんあるという驚きも感じてほしいですね。

――では最後に、お客様に向けてお誘いのメッセージをいただけますか。

 じゃあまずは、ミュージカルファンのみなさんに向けて・・・「少しは、歌います!」(笑)。冗談は置いといて、本当に、演劇として非常に面白い作品だと思います。演劇という形態がなかった時代に生まれた物語が、この現代に演劇として蘇るなんて、奇跡に近いことなんじゃないかと思うんですよ。まだまだ演劇をかじったくらいのキャリアの私でさえ、この作品をやりながら改めて演劇の力を強く感じています。なのでぜひ、お客様にもそういう機会になればいいなと思うし。あとはやはり今回は豪華キャストですからね、そちらも見所です! まさに芸術の秋にピッタリの作品だと思います。



2010-08-27 18:09 この記事だけ表示