歴史上の人物の大恋愛を大胆に描く蜷川シェイクスピアに、吉田鋼太郎と安蘭けいが初顔合わせで挑む![インタビュー]

 シェイクスピア全作品上演に挑戦中の“世界のニナガワ”こと蜷川幸雄が演出を手掛けるシリーズ第24弾。ローマのカリスマ的な武将アントニーと、エジプトの女王である絶世の美女クレオパトラの恋愛を軸に展開する壮大な物語が、この『アントニーとクレオパトラ』だ。シェイクスピア俳優として国内外で評価の高い吉田鋼太郎と、宝塚退団後も話題作への出演が続いている安蘭けいが、初共演でタイトルロールの二人を演じる。


アントニーという役は年相応の、今の自分を投影しやすい役だと思います(吉田)

――この『アントニーとクレオパトラ』という舞台をやることになって、まずどんなことを思われましたか?

吉田 実は、自分の劇団で一昨年にやったばかりの演目だったんです。だけど、シェイクスピアというのは読んでも読んでも尽きないところがあって。やり残したこと、やれなかったこともたくさんあったので「ああ、もう一回やれるんだ!」という、リベンジみたいな気持ちにもなりましたね。しかも演出するのは蜷川さんですので、蜷川さんがどういうふうにこの作品を料理するんだろう、自分のつたない演出とはどう変わるだろうということもあって、そこはちょっと客観的な思いで申し訳ないですけど楽しみでもあります。


安蘭 私の場合は、まず蜷川さんの舞台に出られるということがとにかく本当にうれしくて。宝塚に入る前からずっと観ていて、もう大ファンだったんですよ。いつかご一緒できないかなという気持ちはあったんですが、まさかこんなに大きな作品でしかもタイトルロールで出していただけるとは思っていなかったので本当に驚きました。なんだか「申し訳ございません」みたいな、謝りたいくらいの感覚にもなりましたね(笑)。だって蜷川さんの舞台に出させていただくのはこれが初めてなのに、ホントいいんですか?って。今でもめちゃめちゃ恐縮しています。


――吉田さんは、蜷川さんの作品にはたくさん出られていますが。蜷川さん演出を受けるおもしろさとは?

吉田 やっぱりとにかくあのダイナミックさというか、神話性って言葉に置き換えちゃってもたぶんいいと思うんだけれども。そういうものが蜷川さんの演出には必ずある。蜷川さんがそれを意図してらっしゃるかどうかはわからないですけど、それが蜷川さんという人の特性だと思うんです。現実では処理できないような大きな世界を見せてくれる、数少ない、日本に一人、世界でも一人かもしれない演出家だと思いますね。


――安蘭さんは、蜷川演出のどういうところに魅力を感じられていましたか?

安蘭 人間の汚れた部分、人が見たがらないようなところを惜しげもなく出しているところでしょうか。だからすごく真実味があるんですよね。夢の世界ではないリアルさがあって、観た後に心の中にすごく残るものがある。私たちもこうやって生きていこうみたいな、メッセージ性がすごく伝わってくるような気がするんです。人間の本質みたいなものって、見たくないときもあるかもしれないけれど、そこをちゃんと見ないといけないし。それを見て自分を知っていかないと、自分も愛せないし、他人も愛せない。でも本質を知るきっかけってあまりないんですが、こうして舞台をやらせてもらっているといろんな役を通していろんな自分と向き合わなきゃいけないので、そのことで自分の本質が見えてくるような気もするんです。


――自分とは違う役柄を演じることで、新たな自分の知らない面が見えたり?

安蘭 そうですね。役者って、いつも自分探しをしているようなものだというか。決して、自分を探すためにやってるんじゃないんですけど。いつも、そういう旅をしているような感じがします。だから蜷川さんの演出を受けることで今回も新しい、自分の知らない自分がいっぱい見られそうです。


――『アントニーとクレオパトラ』という作品については、どういうところに魅力を感じられますか。

吉田 一幕一場の最初から、アントニーとクレオパトラのラブシーンがあるんですよ。イチャイチャして、とにかく政治も国もどうでもいい、宇宙も世界もどうでもいい、おまえさえいればっていうところから物語が始まるんです。しかもそのアントニーの年齢は50歳で、いい年いってるオジサン。奥さんをローマに置いてきていて、政治家なのに国もほったらかし。青年の、20代の恋とは違い、50代の、しかも不倫ですからドロドロしているんです。とんでもない人なんですが、だけどそこにすごい魅力も感じますね。人間なんてこんなもんかみたいな、かわいらしさも感じます。

安蘭 歴史上の人物の話なので昔から誰もが知っている内容ではあるんですが、改めて台本を読むと、クレオパトラという人に女としての魅力をすごく感じましたね。強さだったり、したたかさだったり。女性の持っているいい部分と悪い部分がすごく出ている。美しさを武器にして、しかも頭がいいときているので。どんな英雄も手玉に取れるんですから。もう、まったくそのあたりは自分にはない部分なので(笑)。そういう女性を演じられることはとても楽しみでもあります。

吉田 たとえば男と女の大恋愛の芝居というと、シェイクスピアには『ロミオとジュリエット』という作品もありますが、あれは一瞬で恋に落ち、短時間で燃え上がって死んでいく話で、そういうのはもう僕らの年代には無理な話なんですね、まだ10代であれば、似たような感覚にはなれたかもしれないですけど、もうどう考えても絶対無理(笑)。その点、アントニーという役はやはり年相応の、今の自分を投影しやすい役だとは思います。


――逆に、若い人にはできない役。

吉田 絶対できないと思う。やっぱりある程度、いけないこともしてきていないとね、不倫の話ですし。そういうところをリアルに演じるためには、やっぱり私生活でもある程度の経験をしておかないとたぶん苦労すると思うんですよ。だからひょっとしたら今までの、吉田鋼太郎として人生をどう生きてきたのかと、お客様からも演出家からもつきつけられるような役なのかもしれない。


――では、今までの経験を生かしつつ演じる。

吉田 まあ、そんなにいろいろ経験しているわけではないですけど(笑)。ただ、蜷川さんは僕のことを「色魔」と呼ぶので、それを逆手にとって「色魔で結構!」という気分ですね(笑)。


今回の舞台にはダブル、トリプルのうれしさがあります。すべてが運命的ですね(安蘭)

――そしておふたりは今回が初共演になりますね。

安蘭 もう、ドキドキです、本当に。鋼太郎さんはシェイクスピア役者として、もうベテランじゃないですか。鋼太郎さんのお芝居もずっと観てきて、ファンだったので。まさかそんな素晴らしい方の相手役をやらせていただけるなんて! ちょっとこれ、ヤバイでしょ? ヤバイよね??って本当に思っています。だけど、鋼太郎さんから吸収できることが多いと思うので、きっといろいろなことを学べるはず。たくさん勉強させてもらえそうです。ご本人もとても優しい、ダンディな方で。いろいろと聞きやすそうで、いつでも扉は開けてくださっているような感じがして、とても心強いです。

吉田 安蘭さんも、気さくっていうとあまりにも表現がありふれているけど、スッと気持ちが開ける人ですよね。全然気取ってないし。こちらから、ここまで気持ちが開ける人ってなかなかいないですよ。そういう意味では懐の深い方なんじゃないかと思います。僕は、蜷川さんとずいぶんたくさん一緒に芝居をやらせていただいているんで、初めての安蘭さんを守りつつ、リードしつつ、いたわりつつやってあげなければいけないんでしょうけど……でも、果たしてそこまで手が回るかどうか(笑)。稽古に入るといつか僕、ボロカスに蜷川さんからダメを出されますんで、きっと安蘭さんのほうから「ああ、もうこの人に頼るのやめよう」って思う時がすぐにやってくると思いますよ(笑)。


――そして、今回は蜷川作品初めての韓国公演もあります。

吉田 これまでイギリス公演、ニューヨーク公演、ギリシャ公演に参加させていただいていて、欧米の方々に見せる機会が多かったので、その方々には少し慣れてきて、だいたいどういう客層でどういう反応をしてくれるというのがなんとなくわかってきているんですね。ただ同じアジアの国なのに韓国の方々が舞台を、しかもシェイクスピアを観てどう反応されるかは未知数なので。それは、同じアジア民族としてもすごく怖いです。昨今の韓流ブームもそうですけど、すごくテンションが高いんですよね。日本人がちょっともうひとつ足が一歩踏み出せないような演技だったり、演出、題材をいとも簡単に扱っているような気がするんだけど、それでちゃんと成立している。そういうところも意識しつつ、でもテンション高いだけじゃダメなので。ちゃんと細かいところもきっちりと見せていきたい。シェイクスピアはそういうものがないと演じきれないところがあるのでね。そこがうまくいけば、受け入れてもらえるような気がします。

安蘭 私は在日韓国人なので、今回韓国公演ができるということに運命的な出会いみたいなものも感じています。蜷川さんも、私だから意味があるとおっしゃってくださって、それも本当にうれしかった。今回はダブル、トリプルのうれしさがあるんですよ。蜷川さんとできるわ、クレオパトラができるわ、韓国公演ができるわ。すべてが運命的ですよね。プレッシャーに負けずに、今はやるしかない!と思っています。


――演劇をあまり観慣れない、シェイクスピアは敷居が高いと思っていらっしゃるお客様に向けても、お誘いのメッセージをいただけますか。

吉田 日本人はシェイクスピア好きなので、もうそういう感覚は取り払われてきたかなと思っていたんだけど、まだまだ敷居が高いと思われている方が多いようですね。とにかく、いっぺん観に来なさいよと言いたいです。観たら絶対、おもしろいから。特に今回は、もしかしたら一見堅苦しい話のように思うかもしれません。男女のいとしい、抱きしめたくなるような、あるいは笑っちゃいたくなるような、あるいは「ちょっと、何言ってるの?」って怒りたくなるような、そういう恋愛の話です。ぜひ気軽に観に来ていただきたい。特に僕が演じるアントニーは本当にダメなやつ。こんなダメな人がアントニーだったんだってことがよくわかると思うので、そのダメっぷりを楽しんでいただきたいです。

安蘭 確かに、最初はシェイクスピアって敷居が高いですよね。セリフも、聞きなじみがない言葉を使われているかもしれませんし。でも蜷川さんの演出ってそういうのを抜きにして、舞台装置だったり人の動きとかで絵的に、世界観を作って引き込んでくださるので。難しく考えずに観に来てくださっても、ポンってすぐにその世界に連れていってもらえると思うんです。なので、構えずに観に来ていただいたほうがいいんじゃないかな。それに今回はアントニーもクレオパトラも誰もが知っている人物ですから、特に観やすいんじゃないでしょうか。もし、蜷川さんの舞台を一度観てみたいけどちょっと敷居が高いなと思っている方がいらっしゃったら、今回は絶好のチャンスだと思いますよ。


2011-06-17 12:52 この記事だけ表示