「ヨーロッパ企画」劇団主宰で作・演出家の上田誠にインタビュー![インタビュー]

 舞台上に一風変わった地形を出現させ、その中で右往左往する集団、および人間の習性にスポットを当てたコメディを送り続けるヨーロッパ企画。一見ライトなエンターテインメントながら、彼らは自分たちがやっていることを「実験」と表現。極小空間での生活術や幻獣の存在論など、およそコメディに向かなさそうな題材を、どこまで“笑い”に転化できるのかを、まさに身をもってテストしているというわけなのだ。「さらに新しい領域に向かう」と断言する1年ぶりの新作公演について、劇団主宰で作・演出家の上田誠に、話を聞いてきました。


 

1年ぶりの新作公演について上田誠にインタビュー

――前回の『サーフィンUSB』は……あくまでも個人的な感想ですが、今のスタイルのさらなる可能性が見えたと同時に、「そろそろ別のステージを目指す方がいいかも」という迷いも見えた気がしたんです。

 いや本当に、そうだと思います。ヨーロッパ企画は、最近ずっと「高低差」を意識した芝居が続いていたんですよ。世の中にあるほとんどのストーリーは、このゼロレベルの地面の高さで起こっていることだけど、視線を上に上げたり地下に向けたりしたら、そこには全く別の論理があるんじゃないかとか。あるいは高低差でレイヤーを作ると、そこにいる人たちはどんな会話を交わすのかとか、そういう実験を見せてきたわけで。。


――その辺りのことは、『あんなに優しかったゴーレム』や、『ボス・イン・ザ・スカイ』のインタビューの時にも語っていましたね。

 それで『サーフィンUSB』は、地面が水没して高さの基準点が激変してしまったら、一体どういうことになるのか、という狙いでやってみた舞台でした。その感触は面白かったんですけど、次は「高さ」とは違う領域に行ってみようかなあと思い始めたんです。

【関連記事】
『あんなに優しかったゴーレム』
『ボス・イン・ザ・スカイ』


――飽きてきたとか、そういうのではなく。

 同じスタイルを追いかけ続けて上手くいく時期もあれば、それが飽和するタイミングもあるんですね。実際今までも「この方法論では、先が苦しいかもしれない」という時が何度か訪れましたし、そのたびに方向性を変えていました。でもヨーロッパ企画は、僕が意外と頑なな性格なので(笑)、ワンシチュエーション・コメディというスタイルは、旗揚げ以来ずっと変わってないんです。とはいえ、舞台を構成する要素が10あったら、その内の9は過去の遺産を生かしつつも、残りの1には必ず新しい要素を入れる。それがないと、新作自体が作れなくなりますから。


――確かに今までの流れを見ると、基本のコメディスタイルはキープしつつも、ゆるやかにマイナーチェンジをしてきたという印象ですよね。

 そうですね。旗揚げからしばらくは普通の群像会話劇でしたが、次第にエチュード(即興芝居の稽古)で会話を創るというスタイルになって。『Windows5000』の頃には、舞台装置と人間が有機的に関わるような芝居に挑戦し始めた。それができたら、今度は高低差ということを試し始めて。その生かし方も前回で何となくわかってきたので、次はどんな実験をするか……という段階の、第一歩という感じですね、次の公演は。


――「高さ」の次のステージとして「移動」をテーマに選んだのは?

 僕らは劇団員同士でワゴンカーに乗って、京都と東京をよく行き来してるんですけど、「人間って運転したり、移動したりしてる時は、全ての判断が雑になる」と思い始めたんです。移動してる最中って、平気でポイ捨てしたり、見知らぬ人に普通に話しかけたりとか、変に行動が大胆になるじゃないですか? それに普段だったら絶対買わないような物でも、高速道路のSAで見かけると、つい買ってしまったりとか……ありますよね?

 

――ありますねえ。長距離列車に乗る時なんか、高い駅弁を平気で買ったりしますし。

 そうそう。移動中って、本当は日常と地続きの状態のはずなのに、なぜか地上にいる時とは切り離された感覚になってしまうみたいで。そのせいか、移動中のワゴンでみんなが話す内容も、未来の話とか結婚の話とか、意外と真剣なことが多かったりする。


――あー、それもわかります。車の中って、妙に人生語り合うモードになりますよね。

 それってね、普段ならうかつにしゃべれないことでも、移動中だと「全てが過ぎ去っていく感覚」があるから、言い散らかすことができるんじゃないかな、と。つまりは金銭感覚にせよ会話にせよ、あらゆることがその瞬間その瞬間の判断になってしまう。


――まさに地に足が付いてない状態。

 そうなんですよ。だから日常の心配事や不満も、移動してる時ってあまり付いてこなくなる気がしますね。たとえば暴走族って、あれも移動の状態に身を置くというだけで、不満のない世界にいるような気分になれるから走ってるんじゃないか……とも思えるんです。「移動」には何かそういう力というか、秘められた可能性があると思います。


――タイトルが「運転」ではなく「操縦」なのが、1つのポイントに思えたんですが。

 そうですね。僕が芝居を作る時は、まず始めにタイトルを付けるんです。ストーリーやコンセプトが決まってからタイトルを付けるのではなく、僕自身「どんな芝居になるか検討もつかない」と思えるような題名を決めてから、それに合うような世界を考える。今回もいくつか案が出たんですが、一番動きがありそうで、一番大きな嘘が付けそうなこのタイトルに決めました。


――確かに「操縦」の方が、何か壮大なイメージが湧きそうな気がします。

 そうそう。大きな乗り物を、力技でコントロールする感じ。「運転」は簡単に制御できる物を操ってるイメージがあるけど、操縦は何か大きな物を人間が無理に制御してるニュアンスがあるから、そっちの方がエネルギーがあるような気がするんですよね。


――あと今回は、新作だと5年ぶりぐらいに客演さんが加わりますよね。

 僕たちの稽古は、単純に「脚本があって演技をしてもらう」というやり方ではないし、特に新作の時は、稽古場がすごく試行錯誤した状態になるんです。だからとてもじゃないけど、外部の人には恥ずかしくて入っていただく気になれなかった。ただ最近スタッフワークは、外部の人にお願いする機会が増えて、やっぱりいろんなことが拡張したんですよ。だったらそろそろ、役者面でも新しい方に入っていただこうかな、と。ようやく恥ずかしさよりも、作品の可能性が広がるワクワクの方が大きくなりました(笑)。

 

――中山祐一朗さんと、山本真由美さんにお願いしたのは?

 中山さんは『昭和島ウォーカー』(08年)では相当助けていただいたし、それ以降も劇団のイベントに参加していただいたりと、すごく可愛がってもらってるというか……僕らと波長が合うと思える方なので。山本さんは、山脇(唯)さんが出ていた「柿喰う客」の芝居を観て「こんな面白い女優さんがいるんだ」と、すごく印象に残ってました。今回は僕ら自身も、完全にやり慣れたことをするわけじゃないので不安は大きいけど、このお2人なら僕らの試行錯誤に、面白がって立ちあってくださるだろうと思ってます。


――すでに稽古が始まって1ヶ月だそうですが、今はどんな感じで創作を進めてますか?

 「移動」に関するエチュードをいろいろ試して、そろそろ固まってきたところです。今回は1つのことをじっくり煮詰めるというより、まさに移動中の感覚で、にぎやかに稽古してるんですが……速度の中でやる会話って、本当にメチャクチャになるんですよ。言い散らかすばかりで、全然積み上がらない(笑)。あとその場で歩く演技をしながら話をするのは、よほどマイムが上手い人でないと、見るに耐えないんですよね。だけどバックの風景が映像で流れるのを前提で、乗り物に乗ってる風に体を揺らしてみるぐらいなら、趣向としてアリだとわかったので、今はその方向でやってみようと思ってます。


――風景が流れていく映像を、舞台の背後に流すことで、移動感を出すということですね。ただそれって、結構古典的な移動の表現だなあという気もしますが……。

 永野(宗典)さんが作った『虚業』(11年)という芝居に、そういうシーンが出てきたんですが、やはりそれが面白く思えたんですよ。ただああいう手法って、むしろ映像表現の方に立脚している感じがするから、もっと「演劇でやれること」を試したいです。


――具体的に言いますと?

 最近舞台に映像を絡めた芝居が増えてますが、映像と芝居が邪魔しあう物もあれば、映像がちゃんと生(なま)の空間に奉仕するように使えてる時もある。やはり演劇は、その場で人々が何かをやってるということが断然重要なわけだから、映像がそれを邪魔しちゃいかんなあと思うんです。それに映像でできることって意外と多いから、下手をすると「あれもこれも映像で処理すればいい」ということになりかねないんです。これをきっかけに、芝居と映像の関係については、ちゃんと考えていこうと思っています。


――映像のことをちゃんと考える以外で「今後自分が作る芝居はこうありたい」という、指針みたいなものは何かありますか?

 最近よく使うのは「企画性」という言葉ですね。物語とか情感とかから始めるのではなく「こんな企画を立てて、コメディにしてみました」みたいな。


――「物語性」はよく聞きますが、「企画性」は演劇では耳慣れない言葉ですね。

 企画性は、物語性とは逆のモノだと思うんですよ。物語って、何か事件やイベントがあって、それを体験したり目撃したりした人が後から語るものという気がするんです。それって小さな劇場であれば、舞台と観客の距離が近い分「今まさに、そこで発生しているイベント」に立ち会ってるという感覚が、すごく強くなる。でも大きな劇場だと、舞台でやっていることを遠くから眺める感じになるから……。

 

――客観的な視点になるというか、イベントに立ち会ってる感は薄くなりますね。

 そうそう。今はブログやツイッターなどで、誰もが何か面白いものを見たら、すぐに自分の言葉で物語って、いろんな人に発信することができるご時世ですからね。そうなると僕らは「うまく語る」ということよりも、今まで誰も観たことがないような企画自体を起こす方に、力を注ぐ方がいいんじゃないかなと考えてるんです。実際僕も「すごくいい物語」より「すごく変なことやってる」という舞台の方が観たいと思いますし。その企画を劇性に……しかもコメディにまで持って行って、どうすれば最後まで走りきれるかを検証するってイメージです。要は、いかに出落ちにならずに済むかという(笑)。


――時間が短すぎると、演劇というより、お笑いのコントになってしまいますもんね。

 そうそう。毎回「面白いけど、10分しか持たないなあ」というようなネタがゴロゴロ出てくるので、どうすればこれを1時間以上に伸ばせるか? という実験の繰り返しですね(笑)。でもそういう壮大なバカバカしさに取り組むのって、劇団がある程度続かないとできないこと。そのためにも僕自身、もっといろんな手法を使えるようにしないとな、と思います。


――その新しい実験の第一歩となるのが、今回の公演というわけで、本当に見逃せないですね……というところで、タイトルの「ロベルト」って、舞台に出てくるんですか?

 はい。でも彼の正体は、見てのお楽しみということにしておいてください。それは人間なのかそうでない何かなのか。人だとしたらどの役者が演じるのか、とか(笑)。


〔取材・文・写真/吉永美和子〕



2011-08-08 19:00 この記事だけ表示