舞台版人気時代劇「十三人の刺客」の初日を、赤坂ACTシアターで観た![観劇レポート]

 1963年の片岡千恵蔵主演の映画版が名高い「十三人の刺客」。2010年にも役所広司主演で映画化されているこの人気時代劇の舞台版の初日を、8月3日、赤坂ACTシアターで観た。時は天保、暴虐非道極まりない明石藩主・徳川斉韶を秘かに殺めろとの密命を、江戸幕府老中から受けた主人公、島田新左衛門。だが、その斉韶には、かつて新左衛門と切磋琢磨して育ち、恋をも争った鬼頭半兵ヱが仕えているのだった。斬るか、斬られるか。互いの手の内を知り尽くした男たちの死闘が始まる――。


 

各キャストの見所

 今回の舞台版は、新左衛門に高橋克典、半兵ヱに坂口憲二、新左衛門の妻・奈緒に釈由美子というキャスティング。文学座の御大、加藤武の抒情あふれるナレーションが、物語に深みと重厚感を与える。そんな加藤のナレーションもあって、作品全体としては、年末年始などにテレビでよく放映されている長尺の時代劇スペシャルドラマの趣。人物紹介や状況説明なども非常にわかりやすく語られてゆく。串田和美演出、松たか子と共演したベルトルト・ブレヒト作品「セツアンの善人」以来これが13年ぶりの舞台となる高橋だが、しっかりとした座長ぶり。セリフ回しに多少クセはあるものの、芯は強いがキュートな釈の恋女房も好感がもてる。新佐衛門の腹心、倉永佐平太に扮した西岡コ馬もりりしさと渋み走った魅力でさすがの存在感を発揮。

 そしてなかでも、集いし十三人の刺客たちのターゲットとなる明石藩主・徳川斉韶役の袴田吉彦がいい。事前に行なったインタビューで、斉韶がなぜ残虐非道となったのかも追究しつつ演じていきたいと語っていたが、――自分は将軍の弟ではあるが、所詮、将軍の弟に過ぎない――とのフラストレーションにその理由を求めるかのような演技で、やたらめったら人を殺し、人妻を犯す等々やりたい放題の斉韶の人物像を成立させている。暴虐の限りを尽くしながらも、その背中はどこかさみしい。クライマックスの殺陣のシーンでは、家来の名前を一心不乱に呼び、命乞いする際の哀れさ、人としての弱さが心に残る。

 

舞台の見所

構成としては、第一幕ではまず、斉韶の御命頂戴を共に狙う刺客集めの顛末を描写。それぞれに参加する内実や人生を抱えた個性豊かな刺客たちが集まってくる。刺客の中では、浪人・平山九十郎に扮した山口馬木也に苦味走った魅力がある。浪人ながら新佐衛門に私淑し、参加を決める九十郎は、めっぽう腕の立つ男で、殺陣でも大いに見せ場あり。刺客たちが客席に向かって一列に並びずらり勢揃い、その後ろを斉韶の参勤交代の行列が進んでゆく一幕ラストは舞台版ならではの迫力。しかし、刺客がまだ十二人?! と思いきや高橋新佐衛門が「20分休憩!」と威勢のいい宣言。しびれる。

 第二幕ではいよいよ作戦実行。一人足りなかった刺客もちゃんと増えて安心。斉韶の一行を見失い、刺客たちがただただ計画実行の時を待ちわびるシーンでは、加藤武のナレーションがテンションをほぐすおかしみを加えて。そして、1963年の映画版では30分、2010年版ではなんと50分にも及んだクライマックスの殺陣シーンは、舞台版でもたっぷりと。こんなにドヒャドヒャ斬ってたら、敵の数53人分はとっくに殺しちゃったんじゃあ…と思えてくる長さ。あっちでビャー、こっちでプシュー、ときに斬るより先に噴き出てくるほどふんだん極まりない血糊に、思わずつるっと足を取られそうになる演者も。そしてその間、舞台下手で腰を下ろし、ただ、ただ待つ新佐衛門。

 刺客が一人、また一人と壮絶な死を遂げる瞬間には、その都度効果音が入り、実にわかりやすい演出。しかし!仲間が一人、また一人と倒れても、新佐衛門は動かない。助けないのか?何を待っているのか?やがて疑問は氷解する。彼はひたすら"時"を待っていた。そして驚きのクライマックス…!物語は作品冒頭へと輪廻する。
 時代劇スペシャルドラマの世界を、生の迫力で。どちらかというと男性にお勧めしたい舞台だ。

 

〔取材・文=藤本真由(舞台評論家)〕
〔撮影=阿久津知宏〕

公演概要

舞台『十三人の刺客』

<公演日程・会場>
・東京公演
8/3(金)〜8/18(土) 赤坂ACTシアター (東京都)
・大阪公演
8/21(火)〜8/29(水) 新歌舞伎座 (大阪府)

<キャスト&スタッフ>
原作:池宮彰一郎 脚本:鈴木哲也/マキノノゾミ 演出:マキノノゾミ
出演:高橋克典/坂口憲二/釈由美子/川村陽介/青柳翔/庄野崎謙/山口馬木也/水橋研二/春海四方/花王おさむ/小林勝也/袴田吉彦/西岡徳馬/ほか


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2012-08-15 10:07 この記事だけ表示
 
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