明治座十一月花形歌舞伎、四代目市川猿之助に見どころを聞いた![インタビュー]

四代目市川猿之助が、襲名後明治座の舞台に初登場!昼の部は、“三代猿之助四十八撰”より「傾城反魂香」に加え、早替りも華麗な舞踊「蜘蛛絲梓弦」を上演。夜の部には同じく“四十八撰”より「通し狂言 天竺徳兵衛新噺」を上演する。四代目の超軽妙本音トークをたっぷりお楽しみあれ。


市川猿之助に見どころを聞いた!

――六、七月の襲名披露公演を終えられての今(九月下旬)のお気持ちは?

 やっぱり、ちょっと今ほっとしています。休みというわけでもないけれども、ぽかっとした空間ですね。名前が変わったことにも非常にすんなり慣れました。

――襲名公演はどんなお気持ちで舞台に立っていらっしゃったのでしょうか。

 気持ち…。あまりにも芝居以外のところで忙しくて。あわただしいもんですよ。落ち着きませんよね。演技にも集中できないしね(笑)。大変ですよ、襲名って。

――そんな中、改めて、歌舞伎における“襲名”について考えられたこととは?

 話題作りというと変ですが、歌舞伎活性化の重要な要素の一つでもありますからね。本当は歌舞伎に限らず、企業でも何でも、常に活性化していなくちゃいけないと思うんですよ。でも、常にというのも難しいことですよね。襲名は、ある種お祭りですから。言祝ぐ(ことほぐ)という意味で。

――そのお祭りの“台風の目”でいらしたわけですよね。

 やっぱり周りが大変ですよ。本人も大変ですけど、周りも大変。地方ではまだ襲名公演がありますけれども、この「明治座十一月花形歌舞伎」が、“襲名”と銘打たないで立つ最初の舞台になりますね。

――では、十一月の演目についておうかがいできますか。

 …そうねえ、とりあえず来てください!って書いといてよ(笑)。

――それはもちろん書きますが(笑)、こういう猿之助さんが観られるから、来てください! というところを、一つ詳しく。

 生身の人間が動いているぞ、と。映像だと、生身の人間が動いてるわけじゃないからね。それと、何か楽しいことやってるぞと伝えたい。多分、わけがわからない部分もあるかもしれないけれども、わけがわからないけれども楽しいことってあるから、そういう感じで来ていただいて、一緒に盛り上がれたらいいんじゃないかな。

――今という時代は何となく、わけがわかるおもしろさを求める傾向があるというか、わけがわからないおもしろさを受け入れる余地がない感じもするのですが。

 それは時代性だけれども、でも、なんかおもしろくない? とか、なんかこれよくない? とか、それでいいんだと思うんだよね。
 昼の部の「傾城反魂香」なんて、吃音の人の話で、それが芝居になってるんだもの。けれども、笑いを誘ったり、涙を誘ったりする人間ドラマなわけで。現代って、そういうことをすごく隠すでしょ? でも、この作品ではありのままの人間が描かれている。吃音でうまくしゃべれなくて、それがネックになって命を断とうとまでするわけだから。
 昼の部もう一本の「蜘蛛絲梓弦」は六役早替りだし、夜の部の「通し狂言 天竺徳兵衛新噺」は、ガマの妖術を使う悪人の話と、夫を不倫の女が殺す話。でも、これも今でもどこかでありそうな話だからね。日常の身近な話をやっていますよというか、現代が恐ろしすぎるのかもしれないけど(笑)。夜の部は宙乗りがあります。宙乗りするからなんだって言われればそれまでだけど(笑)、とりあえず飛びます! っていう(笑)。

――六、七月の「ヤマトタケル」でも宙乗りしていらっしゃいましたが、飛んでいるときはどんな気分でいらっしゃるのでしょうか。

 みなさんが思うほど、すかっとはしたりはしないんだよね。割とあっという間ですよ。観てる方が気持ちいいかもしれない。僕も自分で観たいもの(笑)。

――そうですね、観ていてそれは気持ちよかったです(笑)。気持ちよく見せるコツというものがあるのでしょうか。

 宙乗りのときはちゃんと宙乗りの技っていうのがあるんですよ。吊られちゃいけない。やっぱり、ワイヤーがないかのように見せなきゃいけない。ただ吊られて上がってるだけみたいに思われてるけれども、実は吊られ方っていうのがあるんですよ。

――早替りについてはいかがでしょうか。観ている方はこれまた非常に楽しかったりしますが。

 全部一人がやっているということに気づいていない方もいたりして、そうすると、あれ?みたいな感じになっちゃったりもします(笑)。

――あまりにあざやかで(笑)。

 あざやかすぎるとね(笑)。

――そうすると、全部違う人物にきちんと見せつつも、一人の役者がやっているんだよというところも見せていかなくてはいけないわけですよね。

 そうそう、一人でやっていることをちゃんとアピールしないといけない。

――次々と違う人物になって出てくるというのは、やっているご本人にとってはどんな気分でいらっしゃるんでしょうか。

 芝居してるというより、運動会やってるみたいな感じかな(笑)。全然芝居って感じじゃないですね。えてして、観客が観ていておもしろいっていうのは、演者はあんまりおもしろくない。で、演者が気持ちいい場面っていうのは、観客はきっと退屈なのかなと。

――具体的には、どんなときが気持ちいい場面なんですか。

 こちらとしては、心理ドラマで、こう、うーんっていう芝居をしているときが楽しいけれども、それは観客にとっては退屈かもしれない。悦に入っちゃうからね、本人が。

――そうですか?! ふむ。ちなみに、明治座という劇場についてはいかがですか。

 子供のころから思い出がありますし、しばらく歌舞伎の上演がなかったので、またできるというのはうれしいことですよね。よく遊びに行ってたんですよ。「天竺徳兵衛新噺」を観に行った記憶もあるし。新しく建て替える前の劇場ですけどね。だから、今は未知数。今回出演することで、劇場のイメージも自分の中でもっと手応えのあるものになってくると思いますね。

――話は変わりますが、今まで歌舞伎をやめようと思ったことは?

 ないですね、一回も。

――では、どうして続けてこられたのでしょうか。

 それすらも考えないくらい、楽しいからだと思う。おもしろい出会いとか、役や作品との出会いであるとか、一言では言えないくらい。

――歌舞伎以外の舞台や映像作品にもお出になっていらっしゃいますが、違いをどのように受け止めていらっしゃるのでしょうか。

 そもそもが違うものだと思って行ってますね。それを歌舞伎に生かそうとかっていうことも、意識としてはないですね。

――美術品の収集が趣味だとおうかがいしましたが、それが舞台に役に立ったりということは?

 もしかしたら意識の下では何か役に立っていることがあるのかもしれないけれども、歌舞伎役者として役立てようということは一切考えていないですね。

――ご自分の人生と、歌舞伎役者としての人生のバランスは?

 自分の人生の方が大きいでしょうね、多分。歌舞伎やってないときもあるわけだし。寝るときは舞台に立ってないわけだし。そこはやっぱり素に戻るわけだから。その意味で言うと、歌舞伎を一生やり続けると決めているわけでもないし。

――では、舞台に立つときはスイッチが入って変わるんでしょうか。

 変わるんでしょうね、それはもう、子供のときからの訓練で。

――舞台に立っているときと素のときと、どちらが幸せなんてことはあるのでしょうか。

 どっちも幸せです。そして、どっちも幸せじゃないときもある(笑)。

――公演を楽しみにしていらっしゃるお客様へのメッセージをお願いできますか。

 明治座がある浜町自体、いいところなんですよ。甘酒横丁もあるしね。お芝居観た帰りにお店をのぞいたり、芝居を観る環境としては非常にいいんじゃないですか。そういった雰囲気も味わえる街なので、環境も含めて楽しみに来てください。

――襲名の際、さまざまな報道がなされたことで、歌舞伎に興味をもった方も多いのではないでしょうか。

 そうだとしたらありがたいですね。その手応えが、この十一月公演でわかるんじゃないかな。

――でも、やっぱり歌舞伎っておもしろいじゃないですか。

 う〜ん、本音を聞いてみたいよね。どういうところがおもしろくて、どういうところがおもしろくないのか。だって絶対おもしろくないところもあると思うもの。

――では、猿之助さんが思う歌舞伎のおもしろさとは?

 それはあえて言わないようにしてる。やっぱり、僕らは歌舞伎の世界の人間だから、オタクだね(笑)。それに、演じている自分はここはおもしろいと思っても、お客さんからすれば全然おもしろくなくて、がくっと来たりするから、そういう気持ちを味わわせないためにもなるべく言いません(笑)。

――では、歌舞伎オタクの人にこの十一月公演をお勧めするとすれば?

 今回は、チケット代が少し安い。歌舞伎っていうと値段が高いイメージがあるけれども、そういうところは積極的に宣伝していかないとね。

――さきほど美術品の話がありましたが、猿之助さんが心魅かれる美しいものとは?

 僕が美しいと思うものを並べていったらそこにある種の法則があるんだと思うんだけれども、自分ではわからない。弥生土器より縄文土器の方が美しいと思うし、「モナ・リザ」よりも歌麿の方が美しいと思うし、フランスよりイタリアの方がいいと思うし、そんな感じ。あまり完璧なものは受けつけない。中国の陶器とか、完璧な丸とかね。

――では、美しいものをご覧になったときはどんなお気持ちなんでしょうか?

 “欲しい”と思う。

――でも、すべてが手に入るとは限りませんよね。

 だから、見ないようにしてますね(笑)。

[取材・文=藤本真由(舞台評論家)]
〔インタビュー写真/平田貴章〕
[スタイリスト/勝見宜人]

公演概要

明治座十一月花形歌舞伎

<公演日程・会場>
2012/11/3(土・祝)〜11/27(火) 明治座 (東京都)
※11/23(金・祝)16:30イープラス貸切公演

<キャスト&スタッフ>
出演:市川猿之助/市川右近/市川笑也/市川猿弥/中村米吉/市川寿猿/中村亀鶴/市川男女蔵/市川門之助/市村萬次郎/市村段四郎

<曲目・演目>
<昼の部>
一、傾城反魂香(けいせいはんごんこう)
二、蜘蛛絲梓弦(くものいとあずさのゆみはり)
<夜の部>
通し狂言 天竺徳兵衛新噺(てんじくとくべえいまようばなし)
※11/23(金・祝)16:30イープラス貸切公演
通し狂言 天竺徳兵衛新噺(てんじくとくべえいまようばなし)




2012-10-17 12:51 この記事だけ表示
 
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