木皿泉脚本、内藤裕敬演出『ハルナガニ』で2年ぶりの舞台に立つ薬師丸ひろ子にインタビュー![インタビュー]

 2012年に上演された『すうねるところ』で舞台女優としてもその存在感を示した薬師丸ひろ子。その彼女が、前回舞台の脚本を担当した木皿泉、演出を手掛けた内藤裕敬と再び組んで挑む作品が『ハルナガニ』だ。平凡な夫婦と一人息子の何気ない日常…と思いきや、そこは木皿作品、一筋縄ではいかない解釈が物語に仕掛けてある。4/7の東京公演初日を前に、薬師丸が稽古の手応え、作品への思いを語った。

舞台ならではの共同作業が今回はより面白く感じています

Q.『すうねるところ』は薬師丸さんにとって14年ぶりの舞台出演だったわけですが、また今回も木皿さん、内藤さんとの顔合わせになりますね。
 前回は、映像でご一緒したことのある木皿さんとのつながりだけで出演いたしましたので、ほかに頼るものがない状態でした。映像で木皿さんの台本を表現した時に、そこで感じ取ったことが私にはとてもワクワクする素敵なことばかりでしたので、それを舞台でもできたらいいなという思いで飛び込みました。ただ、映像と舞台では、かなり違うところがあって、舞台の場合は、毎日ナマでお客様の前に立ちますので、緊張もしますし、プレッシャーも大きかった。それでも、今回2年ぶりに舞台に立たせてもらうことになったのは、木皿さんの脚本プラス、演出の内藤さんに対する信頼感があったから。前回の舞台が終わった時から、できればまたご一緒したいなと思っていたんです。

Q.木皿さんと内藤さんへの信頼感が、今回の舞台出演につながっているんですね。
 木皿さんはほとんど世間に出てこられない方なので、絶対に機会を逃してはいけないと思ったんです(笑)。木皿さんの書くものは、ハッとさせられることが多くて。日常の中で起こるすぐつかめそうな出来事なのに、改めて気づかされることや、とても心の揺れることがあったり。しかも、演じる側にもそういう気持ちを喚起させて下さる。それが木皿さんの台本なんです。
そして演出の内藤さんは、前回の舞台の時には、内藤さんのことは作品もお人柄も演出も知らない状態だったんですが、1カ月近いお稽古の期間に、内藤塾という感じで実に事細かに教えてくださったんです。私は若い時にこの世界に入り、どの演技が良いのか悪いのかがわからないまま、朝から晩まで同じシーンのリハーサルをずっとやっている。そんな中で過ごしてきたんです。だけど内藤さんはすぐに答えを出してくださる。そして稽古の中でみんなでつかんでいけばいいと言ってくださる。出てきた答えも絶対ではないし、三日くらいたつと実はそうではなかったということもあったりするけれど、それも「えー?」って感じにならないんです。というのも、お客様が100人いらしたらその100人受け取り方が違うように、台本はひとつでも、演じる人間、演出家、原作、脚本の方それぞれに解釈がありますよね。それを最終的に演じる側として、どういう形でひとつにまとめていくか。こういう共同作業は、舞台ならではのことだなと思いますね。

Q.その共同作業は、面白かったですか。
 特に今回は、より面白く感じます。今回のお話は、自分が生きているのか死んでいるのかわからないような存在なんです。演じていて面白いのが、他者の存在を認められなかったり、自分も存在していないと感じたりするのに、他人とぶつかり合うこともある。本当にかけらみたいなものなんですけれど、セリフのないところで相手が自分の中に入ってくる感覚があったりするんです。相手を受け入れる瞬間や、お互いが溶け合う瞬間。そういう時間をつかみとることが、ここのところ表現できている段階にいる気がします。こうやって舞台を作る過程の中でみなさまにお観せするものが生まれてくるのが、すごく楽しいなあと感じますね。

今回演じる“久里子”は本当にいとおしくて、可愛いんです。

Q.稽古場での雰囲気はどういう感じですか。
 とにかく菅原(大吉)さんと(渡辺)いっけいさんは舞台上でも、俳優としても先輩で、そのお二人が非常にいい雰囲気を作り出してくださっています。そのおかげで若い細田(善彦)くんも菊池(亜希子)さんも変なプレッシャーも気負いも感じずに、わからないことはわからないとぶつかっていけていると思います。本当に素晴らしいお二人だなと、しみじみ感じています。

Q.その中で、薬師丸さんは“久里子”という役を現時点ではどういうキャラクターとして演じようとされていますか。
 今は本当にいとおしくて、いとおしくて、可愛くて。それは久里子だけじゃなく、彼女のだんなさんに対してもそうなんです。少しだけ内容をお話しすると、二人は、ある結論をなかなか出せない状況なんです。ふだんの自分たちの生活を考えても、全てを黒か白かで決められないし、結論を出せないままで人生を過ごしていかなきゃいけない場面は多いですよね。この二人もそうなんです。でもこの人たちの生きざまを見ていると、なんにでも中途半端さがないんです。ぶつかるときには本気でぶつかる。人とケンカするのは、すごく忍耐のいることじゃないですか。相手を無視してしまえばもうそれで、自分の中からその存在を消しちゃうこともできる。それでも主張してくる存在もあれば、消すことのできない存在もあって、そういうものと折り合いをつけていく。そうやってすごく精一杯生きている人たちなんです。演じているとすごく疲れることもあるんですけど、やっぱりやればやるほど、とっても可愛い人たちなんですよね。

Q.今回、特に本番に向けて楽しみにしていることはなんですか。
 まずはお客様がこの作品をどう受け取られるのかということが、一番の興味です。お稽古の最初のころ、台本の冒頭の部分だけを受け取った時、それを読んだだけで泣けて、泣けて、本当に切なくて仕方がなかったんです。でも、結局はそのままでは終わらせないっていうのが木皿さん。小さな船が大海に出て行って、時には大波に揺られ、でも意外とそれが小さな揺れで逆に船酔いしちゃったみたいな(笑)。そういう楽しみ方を人間の喜怒哀楽の感情に乗せてお届けしたいです。それは、きっと皆さんの日常のどこかにある、寄り添えるものなのではないかなぁって思うんですよね。

[取材・文=田中 里津子]
[撮影=渡辺マコト]

公演概要

「ハルナガニ」
2014年 木皿泉脚本×内藤裕敬演出

<公演日程・会場>
2014/4/7(月)〜4/27(日) シアタートラム (東京都)
2014/5/2(金)〜5/4(日・祝) シアター・ドラマシティ (大阪府)

<キャスト&スタッフ>
出演:薬師丸ひろ子 細田善彦 菊池亜希子 菅原大吉/渡辺いっけい
脚本:木皿泉
演出:内藤裕敬
原作:藤野千夜 小説「君のいた日々」(角川春樹事務所)


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2014-04-07 20:41 この記事だけ表示
 
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