白井晃がKAAT神奈川芸術劇場の芸術参与に就任!山本耕史、美波、森山開次らが出演するプロデュース第一作『Lost Memory Theatre』制作発表会見をレポート![製作発表レポート]

 緻密で繊細な演出で幅広い層から支持される演出家であり、個性的なバイプレイヤーとして活躍する俳優でもある、白井晃。その白井が2014年4月より、KAAT神奈川芸術劇場のアーティスティック・スーパーバイザー(芸術参与)に就任することとなり、都内某所でその就任会見および、白井自らが構成・演出するプロデュース公演第一作『Lost Memory Theatre』の制作発表が行われた。白井を始め、『Lost〜』に出演する山本耕史、美波、森山開次が登壇したその会見の模様を、ここでご紹介!

東京の演劇のムーブメントとも一味違う、KAATの今後の方向性が生まれると思う

  今回の会見は二部制となっていて、まずは白井晃の就任会見からスタート。

 白井は挨拶の中で「今回、(前任の芸術監督である)宮本(亜門)さんの4年間の充実した活動のあとを受けての後任としてお話をいただき、光栄とともに重責を申し付かったと思っております」と話し、芸術監督ではなく芸術参与であることについては「演出家としての仕事が先々まで入っていることもあり、そのことも踏まえて準備期間というものが必要だと考えました。ただし“芸術参与”というと役人的な名称のように感じるので、対外的には“アーティスティック・スーパーバイザー”という名称で関わらせていただくことになりました」と話し、仕事内容としてはほぼ“芸術監督”と同じであることが説明された。

 さらに、これまで世田谷パブリックシアターなど、複数の地方の公共劇場に深く関わってきた経験を活かしつつ、今後のKAATの方向性を考え、どんな公演と提携しどんな企画を考えていくか、これからの課題も踏まえて活動していくことを宣言。またKAATのある横浜という土地が「東京からちょっと遠くて、さほど遠くないという微妙な距離にある」とし、しかし「私も学生時代に神奈川県民ホールにジャズコンサートやバレエ公演など、東京ではなかなか見られないステージのために足を運んでいましたが、そうやって横浜まで来ることに逆に喜びを感じていたものです。ここではきっと東京の演劇のムーブメントともまた違う演劇の方向性が生まれるとも思うので、まずはこの劇場で一体どんなことがやれるかどうか。私が小劇場で芝居を始めた約30年前に比べて、公共の劇場が猛烈な勢いで増え、実は今、その存在が大変な課題になっていると思います。ハードが増えた分、その中で各劇場が何を行っていくのか、演劇の形をもう一度改めて考えつつ、スタッフと共にKAATで活動していきたいと思っています」と力強く語った。

三宅純の音楽をもとに“劇場”をモチーフにしたシーンを紡いでいく実験的な作品

 引き続き、白井に加えて山本耕史、美波、森山開次が登壇し『Lost Memory Theatre』の制作発表が行われた。

 今作は白井が芸術参与として参加する新シーズンの記念すべき第一作。白井自らが「実験的な作品を作りたい」という希望を出したとのことで、ここ数年、白井演出の舞台作品に楽曲を提供している音楽家・三宅純の新譜アルバム『Lost Memory Theatre act1』をもとに、キャスト、スタッフと共に稽古場で1から作り上げていく作品になるという。

 まずは白井が「自分がどういうものをこの劇場で作っていきたいかを考えた時に、今まで自分たちが当たり前に思っていた芝居の作り方とは若干異なるやり方で作品が作れないかと思ったんです。それで今回は私自身も初めてのことですが、一枚のアルバムから想起されたいろいろなシーンをコラージュのように積み重ねながら、“劇場”というものをモチーフにした作品を作ることができないだろうかと考えました。ですから、もしかしたら演劇といっていいのかどうかもわからない、コンサートのようでダンスパフォーマンスのようでもある、そういった領域のボーダーレスな作品群になっていけばいいなと思っております。今まで私自身、作品づくりの中で音楽を非常に重要な要素として考えてきましたが今回はそれを一層広げた形で、劇場全体に音楽と演者とパフォーマーが混在しているような祝祭空間を作りたいですね。就任第一作ということで、そういう意味では今までやってきたことではなく、やれなかったこと、やりたいと頭の中で思っても実現できなかったことを、この劇場で実現したい。テキストとしては谷賢一さんに加わっていただきます。場合によっては役者ともディスカッションし、ダンサーや音楽家のみなさんともいろいろな話をしながら、劇場やそこにまつわる自分たちの記憶を紡いで、ひとつの作品にしていきたいと思います」と、作品への思いをコメント。

 そして「山本くんとは20年ほど前、耕史くんが17歳くらいの時に役者同士としてご一緒して以来、何本も舞台をやっていて。昨年秋、やはり三宅さんの音楽でやらせていただいた『ヴォイツェク』にも出ていただいた際に、舞台を非常に大切にしている耕史くんの姿に共感を覚え、またぜひ一緒にやりたいと思っていました。そこにこの企画が立ち上がったので、この空間にはどうしても耕史くんにいてほしいと思い、打診したところ台本も何もないのに快く引き受けてくださいました(笑)。美波さんとは以前からよくお会いして、お話をするたび「今度ぜひ出てね」と切望してきたんですが、なかなか実現する機会がなくて。それで今回のお話をさせていただいたところ、戯曲もないのにやはり引き受けてくださって。彼女をいつも見るたびに美しさだけではなくて、感情面のバネの良さというものを感じていました。一度ぜひしっかり舞台でご一緒したかったので、こういう機会に恵まれて本当にうれしいです。森山さんとは9年前に『星の王子さま』というテアトルミュージカルを作った時にヘビの役で出演していただきました。踊りながらセリフを吐くという難易度の高い演技を求めて、それをこなしていただいて。またいつかご一緒したいと思っていたので、今回お声をかけさせていただいたところ内容がまだはっきりしていないにも関わらず参画していただけることになりました。さらに今日の会見にはいらしていただけなかったのですが江波杏子さんとは以前『天守物語』などでご一緒していまして、今回「こういう企画があるんですが」とお話したところ「あなたがそう言うんだったらやってあげるわよ」と言ってくださいました(笑)」と、今回のキャスト4人を紹介。さらには「三宅さん率いる生バンドが演奏し、歌手やダンサーなどのパフォーマーも加わり、カオスのようなめくるめく祝祭空間にしたいですね」と、構成案のヒントも少し明かしてくれた。


 キャスト陣からは、

山本「僕にとって白井さんはお兄さんであり、先生であり、俳優としての先輩で、戦友でもあり、どんな場所でどんなタイミングでも信頼できる存在です。その白井さんに声をかけていただき、さらに三宅さんと一緒に舞台を作られると聞いたら、僕のほうからぜひやりたいと思いました。この、何が起こるかわからない空間、そういうものを作ろうとする未知の世界感に僕はとても心躍らせていて。すべてにおいて自分を白井さんと三宅さん、共演者のみなさんに預けて、新しい自分、新しい場所での空間、新しい息吹みたいなものを見つけたい。ホント、何が起こるか今はわかりませんが(笑)、不安はまったくなくて期待しかありません。見たことのない、すごいものができるんじゃないかと僕自身も楽しみです」

美波「白井さんからこの舞台のお話を聞いた時は「絶対に出たい!」と二つ返事でした。白井さんの作品は、退廃的でドイツっぽいところがすごく好きで。冷たさや照明の感じ、きっと意味はあるんだろうけど直接的に物語には関わらないものが置いてあったりするところにも、観客としていつも刺激を受けていました。ぜひ一度ご一緒したかったので、今回は本当に楽しみ。キャストのみなさんのお名前を聞いた時も飛び上がって喜びました。ぜひ共演したかった山本さんや江波さんはもちろん、一度お会いできたらと思っていた森山さんとまさか自分が共演できるとは思わなかったですし、三宅さんはピナ・バウシュの舞台を観た時からのファンですし。今はもう、楽しみで仕方がないです。準備万端で稽古に臨みたいと思っています」

森山「僕も作品の創作をしているのでいろいろな公演の企画に参加する時に、演出家の方とのせめぎあいをいつも楽しみながらやっているんです。『星の王子さま』の時にも僕からの提案を白井さんがきっちり受け止めてくれて、一緒に創作に向かっていけたことはその後、自分にとって自信になりましたし、そのあとの活動にもいい影響を与えてくれました。この『Lost~』というタイトルから、自分たちが想像することはたくさんあって。まだ何も決まっていませんが自分の中ではもう動いているんですよ。毎朝、三宅さんの音楽を聞きながらああでもない、こうでもないと家で踊っているので、私としてはもうこの公演はスタートしていて(笑)。この創作に関われて本当にうれしく思います」

と、それぞれがとても幸せそうな表情で意気込みを語っていた。


 さらにはパリに住む三宅と会場のモニターがSkypeでつながっていて、リアルタイムで三宅からもコメントが寄せられた。
「今回は音楽家冥利に尽きるお話で、まず企画の詳細を聞いて驚くと同時に大変光栄にも思いました。みなさんがおっしゃるように、どんなものができあがるか今はまったくわからない状態で僕も臨んでおります。こうなったら最後の最後、千秋楽の日までこのクリエーションのカオスを維持できるように楽しみたい。ハッピーエンドもあれば、不時着、座礁もあれば、急激な場面転換もある、日々予想できないような舞台にしたいですね」との言葉に、白井もキャスト3人も微笑みながら力強く頷く様子がうかがえた。

 KAATの新たな船出が目撃できる、興味深い試みとなりそうな『Lost Memory Theatre』。演劇史に残る刺激的な体験を期待しつつ、今夏の上演を待ちたい。

[取材・文=田中里津子]

公演概要

白井晃演出 KAAT神奈川芸術劇場プロデュース 『Lost Memory Theatre』

<公演日程・会場>
2014/8/21(木)〜8/31(日) KAAT神奈川芸術劇場 ホール (神奈川県)
2014/9/6(土)〜9/7(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール (兵庫県)

<キャスト&スタッフ>
出演/山本耕史、美波、森山開次、白井晃、江波杏子
演奏/三宅純、宮本大路、伊丹雅博/今堀恒雄、渡辺等、ヤヒロトモヒロ、赤星友子ストリングス・カルテット
歌手/Lisa Papineau、勝沼恭子

2014-04-24 12:07 この記事だけ表示