多部未華子、木村文乃、三浦涼介が情感たっぷりに熱演する蜷川幸雄演出『わたしを離さないで』、その稽古の様子をレポート![稽古場レポート]

 演技派若手俳優として人気、実力ともに高評価を得ている多部未華子、三浦涼介、木村文乃が初共演する舞台『わたしを離さないで』。原作は英国最高の文学賞であるブッカ―賞の受賞作家、カズオ・イシグロの傑作長編小説で、2010年には映画化もされている話題作だ。この作品を演出するのが“世界のニナガワ”こと蜷川幸雄であることも、この舞台が注目を集めているポイントのひとつ。稽古初日から約3週間が経過し、作品づくりが着々と進みつつある4月中旬の某日、稽古場を見学させてもらった。

若者たちの生の輝きが胸を熱くさせる舞台

「よし、そろそろ行くか!」との蜷川の掛け声とともに、稽古場の客席部分の照明がスッと落ち、役者たちはそれぞれの立ち位置に移動、スタンバイに入った。

 この日の稽古は第二幕第一場。寄宿学校“ヘールシャム”で子供時代を過ごした八尋(多部)、もとむ(三浦)、鈴(木村)の3人は18歳になり、学校を出て“農園”と呼ばれる施設で生活をしている。この場面の舞台となるのは、“農園”の集会室。八尋たちに加え、この施設の先輩でもある仲間も出入りしつつ、彼らと会話を交わすシーンだ。

 稽古とはいえ、役者たちはみんな稽古着ではなく、厚手のコートやジャケットを着て、マフラーを巻いた防寒状態。効果音として遠く、波の音も聞こえている。どうやらこの物語の背景となる土地はかなり寒い場所であり、そして海の近くであることがそんなところからも伝わってくる。

 集会室でテレビを見ながら大笑いする鈴ともとむたちのもとに、八尋が入ってくるところから稽古がスタート。ほんの数分、セリフのやりとりをした時点で蜷川が芝居を止め、テレビの音量を下げた瞬間のリアクションに注文を出したり、広い舞台空間をもっと生かすように各自の立ち位置を修正するようにと指示が与えられた。そしてまた冒頭から芝居を再スタートすると、今度は役者陣の動線がそれぞれに変わっていて、リアクションの取り方も違うパターンを試している。こうして、少しずつ場面を返して確認しながら、稽古は進んでいく。

 いかにもお嬢様風で、優等生らしい八尋に多部の雰囲気はぴったり。その八尋の態度になんだかピリピリと神経をとがらせている鈴を演じる木村は、本格的な舞台は今回が初めてだが、そんなことを感じさせないほど、のびのびと稽古場で過ごしている様子。そしてそんな二人に気を遣いながら暮らしているもとむを、三浦は実にナイーブに、そして丁寧に演じている。本番までまだ多少時間があるにも関わらず、三人とも役柄をすでにしっかりと把握して、早くも自然にコントロールしているように見えた。

ほどよい緊張感とアットホーム感が漂う稽古場

  稽古中の蜷川の指示はセリフや笑い声の発し方や、相手役への態度のリアルさなど、具体的な注文も多く、かなり厳しい言葉をかけながらも、その表情を見てみるととても楽しげな笑顔だったりもする。ちなみに、メインキャストの三人と銀粉蝶、床嶋佳子、山本道子以外のいくつかの役柄は今回、さいたまネクスト・シアターのメンバーを中心にした出演者が担うことになっているのだが、どうやら稽古の出来次第でその場でキャスティングが変更になっている模様。この日も“農園”の先輩、たくや役はこの第一場を稽古していた約1時間の間に3人の役者が入れ替えられた。そのたびに演技のニュアンスが変わるので、それを受ける多部たちの反応も少しずつ変化したりしていて、そのスリリングさ加減もとても興味深かった。つまりネクストのメンバーにとってはまだ稽古中にも関わらず、ちょっとでも気を抜いた演技をすると容赦なく役が奪われるという真剣勝負が繰り広げられているわけで、この空気感を肌で感じられるというのはメインキャストたちにもきっといい刺激になっているはず。

 とはいえ、もちろん緊張感が漂ってはいるものの、ともに長く活動しているだけあってネクストのメンバーと蜷川との間には独特の信頼感、アットホーム感もにじみ出ている。実際、休憩中も蜷川は稽古場をぐるりと歩き回っては若い役者陣に気軽に声をかけていた。ほどよい緊張感を保ちつつも、居心地が良い雰囲気の稽古場になっているのはこの世界的な演出家の細かい心配りから生まれているようにも感じた。

 続いて第二場ではガラリと装置が変わり、舞台は岬の防波堤。この防波堤の上で八尋、もとむ、鈴と“農園”の仲間2名が加わり、感情のこもったセリフが交わされていく。さきほどの第一場に比べて、八尋ともとむの気持ちが少し動き始めているような場面でもあり、特にもとむの表情の変化にはつい目を奪われる。

 実際に劇場でその目で確かめてほしいこともあり、今回の舞台装置についてはあまり具体的にレポートできないのだが、今回の舞台も蜷川演出ならではの仕掛けや凝った装置が多数準備されている模様。おそらく多くの人が、場面ごとに登場するそれらの演出効果に驚いたり、心を動かされたりするはずだ。

 未来の話のようでもあり、過去のパラレルワールドのようにも思えるこの物語は、見た目はごく普通の若い男女の人間模様にも思えるが、彼らの出生にはある大きな“事情”があり、全員がその重い“宿命”を背負って生きている。そんな中でリアルに繊細に描かれる、友情、恋愛、希望、絶望、そして生きるということ、死ぬということ。誰もが自分の青春時代に重ねやすく、さらに彼らの運命の行方に胸を熱くさせることは必至。シェイクスピアやギリシャ悲劇の時とはまた一味違う蜷川演出に注目したいのはもちろんのこと、多部、三浦、木村の初々しさ、若手たちの奮闘ぶり、ベテラン陣の見応えある演技など、見どころ満載の舞台になりそうだ。

[取材・文=田中里津子]


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公演概要


「わたしを離さないで」

<公演日程・会場>
2014/4/29(火・祝)〜5/15(木) 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール (埼玉県)
2014/5/23(金)〜5/24(土) 愛知県芸術劇場大ホール (愛知県)
2014/5/30(金)〜6/3(火) シアター・ドラマシティ (大阪府)

<キャスト&スタッフ>
出演:多部未華子、三浦涼介、木村文乃、床嶋佳子、銀粉蝶 他
原作:カズオ・イシグロ
演出:蜷川幸雄
脚本:倉持裕




2014-04-25 10:13 この記事だけ表示
 
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