来年にはロンドン、ニューヨーク公演も決まっている注目の「海辺のカフカ」稽古場レポート[稽古場レポート]

 2012年、村上春樹の原作を蜷川幸雄の演出で舞台化、身の引きしまるように張りつめた透明感に貫かれた美しさが深い印象を残した「海辺のカフカ」。このたびの再演では、カフカ少年役に新人の古畑新之、彼が思いを寄せる佐伯役に宮沢りえ、カフカを助ける司書の大島役に藤木直人と、主要キャストを一新。初演の際、難役ナカタに扮して鮮やかな演技を見せた木場勝己は2年前に引き続いての登場となる。来年にはロンドン、ニューヨーク公演も決まっている注目の公演の稽古場を訪れた。

稽古場レポート

 この日は第二幕冒頭からの稽古。稽古場には原寸大のセットが置かれ、早くも作品世界にいざなわれるよう。アクリルのケースが印象的に使われ、具象と抽象とを巧みに行き交う中越司の舞台美術も、この作品の大きな見どころの一つだ。稽古開始よりも早い時間からスタッフ、キャストが集まり、開始直前、演出の蜷川がカフカ役の古畑と談笑。にこやかに、そして懇切丁寧に何かを説き諭すかのよう。稽古が始まった。
 カフカ役の古畑は、感じさせるこの頼りなげな存在が果たして世界で彼だけの居場所を見つけられるのか、思わずはらはら見守ってしまいそう。彼を助ける司書の大島は女性性の表現をも求められる役どころだが、今回この役を務める藤木は、耳に快く響く知的で落ち着いた声を響かせ、柔和な包容力を感じさせる。この二人のやりとりを見ているだけで、どこか鋭さを感じさせた初演とは異なる舞台が立ち上がっていることがわかる。
 ナカタ役の木場と、彼の旅の道連れとなるトラック運転手星野役の高橋努のサービスエリアでのシーンでは、高橋から、舞台装置の位置について何やら提案があった模様。「いい案だったら採用するから。いい演出家になりたいからな。これ以上評判よくなったらどうしよう」と軽口を叩きつつ、新たな演技スペースでの芝居を二人に求める蜷川。客席に対して死角はないか、スタッフにより入念なチェックがなされ、舞台装置をあれこれ動かしての試行錯誤が重ねられる。何を目的にサービスエリアにやってきたのかがきちんと見えるようにとの演出家の求めに対し、トラック内のゴミを捨てる演技を思いつく高橋、そして即座にゴミ箱を設置するスタッフ。初演時、約4時間の上演時間を飽きさせなかった作品の緊密性が、こうした細かな積み重ねの上に成り立っていることを思った。星野役の高橋も初演に引き続いての登場で、さばさばとした物言いの中に押し付けのない温かさ、人情味を感じさせて、作品の清涼剤的存在。ナカタ役の木場はこの日も絶好調。子供のころのある事件がもとですべての記憶と読み書きの能力を失ったという設定の難しい役どころだが、はきはきとした滑舌と、肩を落とした、世界に対してあまりに無防備にも思える立ち姿で、ある部分ずっと子供のまま生きてきた人物を表現。そのセリフ回しと身体性に引き付けられる。
 「海辺のカフカ」の歌が聞こえる中、アクリルケースに横たわった宮沢が舞台上を流れてゆく。今回、宮沢は、佐伯役を演じるだけでなく、初演時は子役が演じていた少女の役をも兼ね、「海辺のカフカ」の歌唱も担当する。宮沢の硬質でどこか張りつめた美しさは作品世界とも親和性を感じさせるだけに、全編通してどのような印象を与えるのか、本番が楽しみでならない。キャストが変わっただけでなく、演出もいろいろと変わっており、初演を観る機会のなかった観客のみならず、初演を観劇した観客にとっても見逃せない舞台となりそうだ。


[取材・文=藤本真由(舞台評論家)]


【関連動画】 ≫e+MOVIE★「海辺のカフカ」プロモーションムービー

公演概要

「海辺のカフカ」

<公演日程・会場>
2014/6/1(日)〜6/7(土) 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール (埼玉県)
2014/6/13(金)〜6/16(月) シアターBRAVA! (大阪府)
2014/6/21(土)〜7/5(土) 赤坂ACTシアター (東京都)
2014/7/11(金)〜7/13(日) 北九州芸術劇場 大ホール (福岡県)

<キャスト&スタッフ>
作:村上春樹
脚本:フランク・ギャラティ
演出:蜷川幸雄
出演:宮沢りえ/藤木直人/古畑新之/鈴木杏/柿澤勇人/高橋努/鳥山昌克/木場勝己/他



2014-06-10 13:40 この記事だけ表示
 
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