英国のバレエ・ダンサー、アダム・クーパーにインタビュー![インタビュー]

 マシュー・ボーンの「白鳥の湖」の名演で知られる英国のバレエ・ダンサー、アダム・クーパー。その後ミュージカルへと活動の場を広げ、「オン・ユア・トウズ」や「ガイズ・アンド・ドールズ」などの作品で魅力を発揮してきた彼の主演作「雨に唄えば」の来日公演が決定した。サイレント映画からトーキーへの過渡期にあるハリウッドを舞台にした往年の傑作ミュージカル映画が原作で、日本でも宝塚歌劇などでたびたび上演されてきた人気作だ。あまりに有名な表題曲を雨に濡れながら歌い踊るあの名シーンを、劇場で、生で、アダム・クーパーで目撃する貴重なチャンスだ。

インタビュー

――ジーン・ケリー主演の有名なミュージカル映画が原作です。
 僕自身、あの映画は大好きなんだ。主人公ドン・ロックウッドを演じたジーン・ケリーは、数々のミュージカル映画作りにおいて革新的な働きをした人物だと思う。映画では、華麗なダンス・シークエンスに非常に感銘を受けたな。とりわけ、「Moses Supposes」のナンバーで、実に複雑なタップを踏みながら、彼とコズモ役のドナルド・オコナーとがかけあいで見せる化学反応のすばらしさが心に残っていて。舞台版に出演をと言われたとき、そういった化学反応をぜひ劇場で再現したいなと思った。今回の来日公演でコズモを演じるステファン・アネッリは、そういうすばらしい化学反応が生み出せる相手なんだ。
 とはいえ、僕たちが目指したのは、映画をそのまま舞台で再現することではなく、ゼロからまた新しい作品を作り上げていくこと。だから、出演が決まってからは、映画を観返してジーン・ケリーの役作りを踏襲するということはせず、台本を読んで、どう演じるか、どう役作りをしていくか、自分自身で決めていった。もちろん、映画版にオマージュを捧げる場面だってあるよ。あの有名な「雨に唄えば」の場面は、街灯の配置からして同じようになっているし、「ブロードウェイ・メロディ」のナンバーでは、僕もジーン・ケリーと似た感じのダサい眼鏡と帽子姿で登場するんだ(笑)。
 振付も映画版とは違っていて。今回の舞台を担当しているアンドリュー・ライトの振付の特徴は、他の振付家よりステップが多くて複雑なこと。ちょっとでも休んでいるみたいに見えたら、彼が即座に何かしら足してくるんだよ(笑)。サイレント映画からトーキーへと移り変わる時期の話だから、1920年代という時代設定は変えられないけれども、作品全体としては、よりモダンな雰囲気で演出されていて。振付的にも、1920年代の雰囲気をちりばめつつも、さらにスピーディーに、今の感覚に合うようになっている。映画版にはない新しいナンバーもいくつか加わっていて、劇場版ならではの見どころもたっぷりだと思うよ。

――私の母がこの舞台のロンドン・ウエストエンド公演を前方席で観て、「とっても楽しい舞台だった! 『雨に唄えば』の場面で水をかけられたの!」と非常に喜んでおり、今回の日本公演も大変楽しみにしているのですが、観客を濡らそうと狙ってやっていたりということはあるのでしょうか(笑)。
 イエス! フフ、もちろんわざとだよ(笑)。それにはちゃんとした理由があってね。普通舞台に立つ場合、客席との間に第四の壁を設定して演じているみたいな感じなんだ。でも、「雨に唄えば」のナンバーは、その壁を取っ払って、そうやってわざと水をかけたりして(笑)、客席と交流することができるすばらしい場面だと思うんだ。前の方のお客さんは水がかかってうれしそうだし、二階席のお客さんは、前の方のお客さんがそうやって水をかけられて喜んでいるのを観るのがまた楽しそうなんだよね。客席が一体となって心から楽しめるシーンだと思うんだ。

 ただ、雨の中で歌い踊る上ではもちろん大変なこともあるよ。滑らないように特別な床を使用していたり、あと、冬なんか濡れると寒くてね(笑)。バクテリアがわかないように塩素で消毒されているから、あの水を浴びると肌荒れもひどくて。手が乾燥しすぎて血だらけになるわ、手の見た目年齢が20歳は老けたようにしわしわになるわ…。ハンドクリームは欠かせないね(笑)。

――アダムさんはたびたび来日し、マシュー・ボーンの「白鳥の湖」などの舞台でバレエ・ダンサーとして活躍されてきました。現在ではミュージカルの舞台でめざましい活躍をされていますが、華麗なる転身についておうかがいできますか。
 現在のキャリアについては、ステップを踏んでこうなってきたという感じなんだ。僕が英国のロイヤル・バレエ団を退団したのは1997年のこと。あの「白鳥の湖」に出演した後のことだったんだけれども、あの舞台によって、バレエ団に所属していることでいろいろと制限があること、自分の中にはもっと広いフィールドに対する興味があると気づかされたということがあって。そもそもダンスと出会ったのはタップを始めたからだったし、子供のころから合唱団で歌ってきていたんだよね。だから、辞めたときにエージェントに言ったのは、自分はこれからは歌う仕事がしたいということだった。そしたら、半年で「オン・ユア・トウズ」の主演の話が来て、日本でも上演することができたんだ。あの来日公演から十年近く経つけれども、その後、歌のレッスンはじっくり続けているから、声が強くなってきて、歌唱力にもずいぶん自信をもてるようになってきたよ。
 バレエと異なるミュージカルの魅力は、そうだな、声を出してしゃべったり歌ったりできること(笑)。これは極めて個人的な話なんだけれども、僕自身はバレエを踊っていた時代、何だかプレッシャーを感じすぎていて。「ロミオとジュリエット」のロミオや「うたかたの恋」のルドルフのように、大好きな作品の大好きなドラマティックな役柄を踊っていたときでも、プレッシャーが常につきまとっていた。何だか、システム全体に非常に制約が多く、視野が狭められているように感じられて。作品、役柄、そして昇進の機会をめぐって、常に周りと競争しているように思えた。たとえ友達でもやっぱり競争相手なんだよね。だから、舞台に集中して自分の能力を限界まで発揮したいと思っても、ちょっとそれが難しいところがあって。ミュージカルに進出してからは、より自由に、リラックスして舞台を務められるようになったと思う。






――2006年には「ガイズ・アンド・ドールズ」のウエストエンド公演で主人公スカイ・マスターソンを務め、ネイサン・デトロイト役のパトリック・スウェイジさんと共演されました。甘い歌声や粋な帽子のかぶりこなしなど、とても印象に残っています。それにしても、「オン・ユア・トウズ」といい、「ガイズ・アンド・ドールズ」といい、「雨に唄えば」といい、古きよきミュージカル作品で魅力を発揮されていますが、出演される上で何かこのあたりの作品を特に選んでいたりということはあるのでしょうか。
 子供のころからこのあたりのミュージカル映画を観て育ったから、出演していてとても居心地のよさを感じるというのはある。別に最近の作品をやらないと決めているわけじゃないんだよ。ただ、僕の声質はクルーナー(注:1930年代から登場した、抑えた声でささやくように感情をこめて歌う歌手のことで、ビング・クロスビーがその代表とされる)・タイプだから、アンドリュー・ロイド=ウェバー作品や「レ・ミゼラブル」のような、オペラ的歌唱を求める最近のミュージカルより、1940年代、1950年代の伝統的な作品の方が合うということもあって。「ガイズ・アンド・ドールズ」についていえば、スカイ役ってほとんど踊らないでしょ。ダンサーとしてではなく、役者として認められたんだなと思って、出演できたことがとてもうれしかったな。

 「雨に唄えば」の映画が作られたのは第二次世界大戦後のことで、楽しい作品で、当時の人々を励まし、元気づけようという意図があったと思う。それは、現在の観客にもあてはまることじゃないかな。我々の舞台版も、とてもエネルギーにあふれていて、ごらんになった方を喜びで満たすものに仕上がっていると思う。映画で観たあのナンバーが、目の前、生で展開されるというのはとてもエキサイティングな体験だと思うし、実際に雨も降るしね(笑)。映画を観ているだけでは味わえない特別な思いを味わいに、劇場にぜひ足を運んでもらえたらと願っているよ。

[取材・文=藤本真由(舞台評論家)]
[撮影=平田 貴章]
[公式写真=Images by Manuel Harlan]

公演概要


SINGIN'IN THE RAIN 〜雨に唄えば〜アダム・クーパー特別来日 日本公演

<公演日程・会場>
2014/11/1(土)〜11/24(月・祝) 東急シアターオーブ (東京都)

<キャスト&スタッフ>
出演: アダム・クーパー
演出:ジョナサン・チャーチ 振付:アンドリュー・ライト
曲目・演目: ※英語上演/日本語字幕あり



2014-08-15 19:36 この記事だけ表示
 
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