芸達者揃いの爆笑コメディ『イット・ランズ・イン・ザ・ファミリー』の稽古場を“柿喰う客”代表で演出家、脚本家の中屋敷法仁が訪問! 演出の山田和也と大いに語る!![インタビュー]

 錦織一清主演のドタバタ喜劇『イット・ランズ・イン・ザ・ファミリー』がいよいよ9/20に開幕する。イギリスの喜劇作家レイ・クーニー作のこの作品は、世界各地で上演され続けている上質のコメディだ。12人の登場人物がロンドンのとある病院の一室に入れ替り立ち替り現れ、嘘に嘘を重ねることで物事がどんどん思わぬ方向へと転がっていく。エリート医師・デーヴィッドを錦織が演じるほか、彼の息子にA.B.C-Zの塚田僚一、元愛人にはしのえみ、上品な妻に瀬戸カトリーヌら、コメディセンス溢れる芸達者たちが華やかに顔を揃える。順調に稽古が進む9月上旬の某日、この舞台の稽古場を“柿喰う客"の中屋敷法仁が訪れ、初めての通し稽古を見学。稽古終了後、演出を手掛ける山田和也と共にこの舞台の魅力、喜劇を演出することなどについてを語り合った。

12人の登場人物たちの小気味よいやりとりに注目

 『イット・ランズ・イン・ザ・ファミリー』の舞台となるのは、ロンドンのとある病院の医師談話室。このワンシチュエーションで物語はテンポ良く進行していく。稽古場には本番さながらの舞台装置が仮に組まれており、大きなガラス窓と中央にかけられた大きな掛け時計が印象的だ。

 錦織が演じるデーヴィッドは少々自己中心的で鼻持ちならないエリート医師。その彼を訪ねて元愛人のジェーンが現れ、実は彼の知らぬ間に息子を産んでいたことを告白。その息子が父親を捜しにこの病院に乗り込んできているという。自分の出世がかかった大事な演説の直前ということもあり、デーヴィッドはその場しのぎの嘘で乗り切ろうとするのだが、嘘を重ねれば重ねるほど事態は悪化の一途をたどる……。

 セットには上手側にも下手側にもドアがあり、それとは別にバスルームに続くドアもある。これらのドア、さらには窓も巧みに使い、登場人物たちがこの部屋を出たり入ったりするタイミングがまさに絶妙。後半に向かうにつれ、笑いもどんどん増幅していく。

 そして何といっても、キャストの12人全員がコメディ向きの芸達者ばかりであることも、この舞台の大きな魅力となっている。ほぼ出ずっぱりの錦織の熱の入った演技はもとより、純粋さが自然と伝わってくる息子役の塚田や、母親役とはいえキュートさ満開のはしの、ちょっとクールなセレブ妻が似合う瀬戸に加え、圧倒的な笑いのセンスを爆発させている婦長役の池谷のぶえや、アドリブも交えつつ飄々と場をかき乱す患者役の綾田俊樹など、どの人物に注目しても安心してひたすら笑えてしまう。これからさらに稽古を重ね、息を合わせていくことで一体どこまで完成形に近づくのか、本番がますます楽しみになった。

山田和也と中屋敷法仁にインタビュー!

 この通し稽古が終了後、山田と中屋敷の対談を決行!演出家二人が、このドタバタ喜劇の魅力について語り合った。

“とてもレベルの高い、すごく上質な舞台だなと思いました”(中屋敷 )

――中屋敷さんはこういう喜劇作品はお好きなんですか。
中屋敷 レイ・クーニーは高校時代に読んでいました。『パパ・アイ・ラブ・ユー』というタイトルで出版されていたと思うんですけどね。高校演劇時代はいろいろ読んでおかなきゃと思って、さまざまな脚本を読んだんですがその中で一番に「これは自分たちには上演できない」と思って断念したのがレイ・クーニー作品だったんです。この戯曲の緻密さと面白さが素晴らしすぎて、俳優にやれること、演出にやれることってもうないんじゃないかと思ってしまったんです。

――脚本の時点でもうできあがっちゃっていると?
中屋敷 ええ。僕たちのレベルでは、レイ・クーニーにまったく勝てる気がしなくて。挫折とまでは言わなくても、これを上演するのは自分には難しいだろうと思ったのをすごく覚えています。

――では先ほど、通し稽古ををご覧になった感想としてはいかがでしたか。
中屋敷 デーヴィッドやヒューバートの心理状況をどういう感情で表現されるのかなと思っていたんですが「ああ、こういうことだったんだ」って、ひとつの正解を見せてもらった気がします。台本の文字だけ追うと、単に面白いだけでしかないところも、そこに人間の感情がどんどん重なってきていて「これが戯曲を立体化するということか」と改めて、感動しました。

――山田さんはこの作品を演出するにあたり、どんな点が一番難しいと思われていますか。
山田 この作品はト書きがわりと細かく書かれているんですが、これがすごく読みにくいんです。セリフの途中に入っていたりして。おそらく、これは実際に上演した際に使った上演台本のスタイルのままなんだろうと想像しているんですけど。だから本当に劇場でやってウケたことが書いてあったりするのに、それをどうやっていたか、あるいはその時、周りはどうなってたかというのも一切おかまいなしで書かれているので、ト書きの通りにやろうと思ってもうまく成立しないような部分もあるんです。だからそれを自分たちなりに解釈するというか、ちょっと意訳するみたいにト書きやセリフを読まないと、うまいこと芝居になってこない。そこが本当に難しいですね。 中屋敷 僕が改めて大変だろうなと思ったのは、会話やお互いの認識がどんどんズレていくところなんです。でもズレているばっかりじゃ面白くならないんですよね。そのズレたものが、奇跡的にハマったぞってところもあったり。こういったドタバタ喜劇の状況を作るためには、その前に整理されている状態も作らなければいけません。上司の怖そうな人が入ってきたり、おまわりさんが入ってきたりするたびに、舞台の手前のほうでは妙にお行儀良くなるんだけど、奥のほうでは思いっきりドタバタしていたりする。このズレを生み出すためにはものすごい緻密な計算をしていかなきゃいけないんだと気づいて、これはやっぱり大変な作業だと思ったんです。でもこれをクリアしていくとただ笑えるだけでなく、すごく安心して舞台にのめりこめるんですね。とにかくとてもレベルの高い、すごく上質な舞台だなと思いましたね。
山田 いやあ、見事に精密に分析してくださって。
中屋敷 いやいや(笑)。
山田 きっと、メカニズムなんて言葉はあまり芝居を観る側の人たちには関係ない言葉かもしれませんが、本の作り方であるとか、あるいは舞台上でのいろいろなことをどう観客に発見させるかということはメカニズムあってのことなんですね。そのメカニズムをよく見抜いてらっしゃる。さすがです(笑)。

――今回のキャストは中屋敷さんがよくご存知の方も多そうですが。
中屋敷 もともと個性豊かな方ばかりなので、ある意味もっとめちゃくちゃに個性が溢れかえっているのではないかと思っていたんですが、やっぱり一定の笑劇、喜劇のラインというものがあって、それぞれのロジックもそこにあって。それぞれがやりたい喜劇のスタイルというか方向性が、ちゃんとセッションできているように思えました。塚田僚一くんはまったく初めてこういう世界に出会った感じですが、その彼に対して皆さんの演技が丁寧に作り込まれていくので…塚田くんなりの喜劇のスタイルが生まれてきているようにも感じました。

――そこは狙い通りですか。

山田 そんな、僕が狙ったわけではないですよ。やっぱり、ひとりひとりの俳優さんの今までの経験とか、たとえば鈴木聡さんや三谷(幸喜)くんの舞台に参加された経験などがそれぞれの俳優の中にしっかりと蓄積されていて。なおかつ、それぞれの出身母体みたいなものにものすごくこだわるなんてこともなくて。つまり、さっきセッションという言葉をお使いになられていましたけど、自分が面白いと思うことを面白いと思う方法やテクニックをちゃんと持ち込むんだけれども、それに変にこだわらないというか。他の人が何か違うアプローチを見せれば、それをちゃんと拾って、合わせていく。そういうことも含めて、みなさん本当によく舞台のことをわかっていらっしゃるし、観客が笑うということをよく知っていらっしゃるんですね。その中で自分がどういう風に参加するべきかということを経験上も知っていらっしゃるし。あるいは未経験の人たちもすごくドキドキしながらも一生懸命披露しようとしてくださっていて、それを経験のある人たちが気づかれないようにサポートしている。だから演出家が狙ってどうこうというのではなくて(笑)、ひとりひとりの志と経験豊富さのおかげで大変うまくいっているという感じです。

“喜劇と悲劇、演出するのは喜劇のほうが難しいと思う”(山田 )

――中屋敷さんは、特に気になったキャストはいらっしゃいましたか。
中屋敷 いや、もうみなさんの大ファンですから(笑)。でも僕、酒井敏也さんの配役を最初見たときに「へえ、ヒューバート役なんだ?」と少し意外だったんです。ヒューバートのちょっと抜けたところや悲惨な運命を受け入れるところに説得力を持たせるのはものすごく難しそうで。だけどそんなヒューバートを酒井さんが演じると、全然かわいそうな役に見えないのがすごいな!って思いました(笑)。

――本当ですね、すごく説得力がありました。
中屋敷 あんなにヒューバートがいとおしく見えるのも、酒井さんの持ってらっしゃる人間味なのかなと。錦織さんも、すごく情熱的でカリカリした感じとか、すごく魅力的でした。本で読むとどうしてもみんなずる賢かったり、イヤな奴で悪意があるように思える。なのに、それが舞台で見ると、まったく嫌みが無く笑える。これは俳優さんと演出の力なんだろうなと思いました。あ、あと結構意外な個性を出している人もいて。池谷のぶえさんがやたらセクシーに見えましたし(笑)。
山田 ハハハハ。

――山田さんは今回演出するのに、一番苦労したところはどこですか。
山田 苦労はまだまだこれからですよ(笑)。今日はとりあえず通し稽古をしましたけど、これを本番までに作家が狙っているような鮮やかさまでもっていって、お客様全員が満足して「楽しかったね」ってなるためには、きっともっと整理したり飛躍したり論理的になったり、その論理を超越したりするようなことが必要になるので。でも一番難しいのはね。特に喜劇の場合は、観客のいない稽古場でそれを予測することなんです。だって面白いか面白くないかなんて、……わからないよねえ!
中屋敷 ハハハハ!

――幕が開いてみないことには、それはわかりませんね(笑)。
山田 ま、幕が開いたら俳優のせいにしますけど(笑)。でも、幕が開いたら誰も笑わないなんてこともありうるじゃないですか。(中屋敷に)そういう夢、ご覧になったことはありません?
中屋敷 いやあ(笑)。だから僕、喜劇は絶対にやらないって決めているんです。怖すぎて。

――そうなんですか?
中屋敷 ホラーや悲劇ならロジカルに組みやすいので、お客様を安心して引きずり込んでいけるんですけどね。とはいえ僕自身は笑いのあるものは大好きなので、もう少し勇気が出たらいつかやりたいとは思いますけど……まだまだ先の話ですね(笑)。

――ではせっかくなので中屋敷さんから山田さんに、演出家として何か質問はありますか。
中屋敷 山田さんは喜劇と悲劇、演出する場合はどちらのほうが大変だと思われますか。僕は喜劇なんじゃないかと思っているわけなんですけれども。
山田 僕も喜劇のほうですね。悲劇はだいたいがドラマティックなものじゃないですか。特にミュージカルの場合はなおさらですが、そういうものは観客を感情移入させる手続きさえ丁寧にしておけば、あとはストーリーと音楽が観客を揺さぶってくれるので、そんなに大変じゃない。気が散るようなものを排除しておけば、観客はそのドラマの中に居続けて泣いたり感動したりできるんです。だけど笑いは、たぶん感情移入したままでは笑えないものなので。
中屋敷 ああー、そうですね。
山田 その分、いろいろなものが視界に入ってきてしまうんですね。でもそうやってよけいなものが視界に入った状態でも、ストーリーでひきつけて物語世界に連れていかなきゃいけない。そこでは俳優もそうだろうし、演出家以外のさまざまなセクションのスタッフの仕事もそうですけど、相当いろいろなことをスマートにやっておかなければならない。そうじゃないタイプの笑いももちろんあるけれども、こういうものはたぶんストーリーがあってキャラクターがあるので、それを維持しながら笑わすためには感情移入だけではなく、説明の仕方や発見のさせ方、そういうことが必要になるんです。だから難しい。

――では、ここで山田さんのほうからも中屋敷さんにエールをぜひ(笑)。
山田 僕は日大の演劇科の学生たちを教えているんですが、もう教えて10年ちょっとになるんですね。あそこで教え始めたころ、学生たちが競って中屋敷 、中屋敷って言っていた時期があったんですよ。
中屋敷 うわあー、そうなんですか。
山田 まだ青森にいらっしゃったころじゃないかと思うんですが。「へえ、そうなんだ、すごい才能がいろいろなところから出てくるんだねえ」みたいなことを思ったのが、お名前を覚えた最初だったんですね。それが、あれよあれよという間にメジャーになられていて。うかうかしていると、そのうち帝劇でミュージカルを手掛けられるようになるんだろうな、と。だからまあ、早いうちにツブしておいたほうがいいかなって(笑)。
中屋敷 ハハハハ!
山田 でもそろそろね、若い人たちに場所を譲るべきなような気もして。だから、ぜひ早く帝劇へ(笑)。あ、帝劇だけでなく、他の大きな劇場でもバンバンやっていただきたいです。期待していますよ!(笑)
中屋敷 ありがとうございます(笑)。ともかく今回は、この『イット・ランズ・イン・ザ・ファミリー』で喜劇の文化や俳優さんの技術というものを思い切り堪能させていただきます。僕はもちろん客席ではゲラゲラ笑うだけだと思いますが(笑)。でもせっかくこうして稽古場にお邪魔したので、あちこちに隠されているものをたくさん盗んで帰ろうとも思っています。本番、客席でお客さんと一緒に観られるのが今から本当に楽しみですよ。

[取材・文=田中里津子]

公演概要


<公演日程・会場>
2014/9/20(土)〜14/10/13(月・祝) PARCO劇場(東京都)

<キャスト&スタッフ>
作:レイ・クーニー  翻訳:小田島雄志 小田島恒志  演出:山田和也 
出演:錦織一清 / 塚田僚一 はしのえみ 瀬戸カトリーヌ 酒井敏也 /
池谷のぶえ 福本伸一 俵木藤汰 土屋裕一 / 竹内都子 綾田俊樹 

2014-09-19 18:08 この記事だけ表示