倉本聰率いる富良野GROUP、2015年冬の全国ツアーは新作『夜想曲―ノクターン』を上演![インタビュー]

 『北の国から』など名作の数々で広く知られる脚本家であり、劇作家、演出家でもある倉本聰。彼が率いる富良野GROUPが2015年、年明け早々から全国各地で新作『夜想曲―ノクターン』を上演する。

 東日本大震災の爪痕がいまだ残る福島のとある町を舞台に、古里を、そして家族をなくした人々の悲しみが語られていく。

 福島に生きる人たちの心に寄り添いつつ、公演準備を進めている最中の倉本に、この舞台への想いを語ってもらった。

福島の人がこれを観た時に傷つく言葉がないかどうか、
どう思うかということに一番、神経を使いました


――2015年冬公演の作品『ノクターン』をこういう物語にしようと思われたのは、何か具体的にきっかけとなった出来事があったのでしょうか。
 スタートは、若松丈太郎さんという人の『神隠しされた町』という詩に出会ったことからでした。これは1994年に書かれた詩なんですけどね。チェルノブイリを訪ねて見てきたことを、これがたとえば福島で起こったなら双葉町、大熊町、富岡町、楢葉町、浪江町……っていくつもの町名を列挙して、それらの町が同じようになってしまうのだと書いていて。その17年後にまさにそのまんまの状況になってしまったわけで、だからまるで予言詩なんです。この詩をまず知ったことと。それから、3.11のあと僕が福島に何度も入っていろいろなものを見たり聞いたりしてきたなかで、原町地区という場所がありまして。これは作中では脚色して違う町の名前にはしているのですが、そこでひとりの男の人が海岸で砂の山をいっぱい作っている情景に出会ったんですね。何しているんだろうと思っていたら、実は山を作っているのではなく穴を掘っていたんです。そのあたりでその男性の娘が二人、津波で流されているんだけれども、いまだに行方がわからなくて。そこはずっと立ち入り禁止地区だったんだけれども、最近立ち入りが可能になったのでもしかしたらそこに埋まっているんじゃないかと。

――探しに来られていたんですね。
 ボランティアの人もみんなでそれを手伝っていてね。大きながれきが出てくるとそれは建物のがれきだから、その中に紛れ込んでいるかもしれないと思ってどんどん掘っていくんです。だからきれいな砂浜にピラミッドみたいな山がいくつもできていた。そういう情景に巡りあったということもひとつ、大きなきっかけだったかもしれません。

――その情景は今回の脚本にも書かれていましたけど、実際に現地で目にされた景色だったんですね。
 ええ。この間、行った時には原発の中にも入れてもらいました。そして舞台になるのが富岡夜ノ森という土地なんですけど。このあたりも廃墟というか、町そのものはそのまま残っているんですが、ひとっこひとりいないんです。それらの家の窓から中を覗いたりすると、本当にいろいろなことを考えてしまいます。

――この作品を書かれるうえで一番、倉本さんが意識されたこと、苦労されたことはどんなことでしたか。
 この作品は福島でも5カ所くらいの町で上演する予定なんですね。だから福島の人がこれを観た時に傷つく言葉がないかどうか、どう思うだろうかということ。それが一番怖いところでもあり、神経を使ったところでもあります。たとえば最近、福島の人はカタカナで“フクシマ"と書かれることをすごく嫌うんです。自分たちの故郷は、漢字で書く“福島"だ、と言って。つまり、あの“ヒロシマ"、あの“ナガサキ"、あの“フクシマ"みたいに、そういう意味合いでカタカナにされてしまうことにすごく抵抗があるようなんです。そういうことは、僕らはすぐにはわからないことだったりもするので。だけど何回も何回も通っていると、「ああ、そういうところにこだわるのか」ということが少しずつわかってくる。それから、ふるさとという字もわれわれは普通に“故郷"と書いたりしますけれども、古い里、“古里"と書く人が多いみたいですね。これも最近の傾向だと思います。

――もうお稽古には入られたんですか?
 いえ、本格的な稽古はまだこれからです。今は舞台のセットとかそういったものを作っているところですね。

――舞台装置のプランはどういう感じになりそうですか。
 舞台となるのは主に廃屋になったアトリエなんです。なので、蜘蛛の巣をうまく使おうと思っているんですけどね。

――富良野GROUPの役者さんについて、倉本さんの口から彼らの魅力をぜひご紹介いただきたいのですが。
 そうですねえ。塾生の連中はテレビには出ないから一般的にマスコミで顔が売れている人間はいないわけですが、そんじょそこらの役者よりずっといい役者たちだと思いますよ(笑)。地道に勉強した子ばかりで、ちゃんと鍛え上げていますからね。それに、なにしろ僕の言葉がきちんと通じる人間たちですからね。

物語に出てくる出来事のほとんどが事実で、
そこには厳然たるリアリティがある

――劇場を満席にするのが、今回の目標だともうかがいましたが。
 それはもちろん、そうなんですけどね。ただ難しいのは、僕がふだん反原発だと言っているものだから、僕が原発の問題をモチーフにしているというだけで反原発のドラマではないかと誤解されるんですよ。それで企業の方々が応援を自粛されたりして。

――それは、困りますね。
 ええ。困るんです、とっても。別に今回は、原発反対とかそういう問題を書いているわけではなくて。言ってみればあの3.11でいろいろな形の被害があったわけでしょう。まあ、一番大きなのは、棄民という問題ですよね。民が棄てられる。つまりエネルギー政策によって、自分がせっかく家を建てても、その町に住めなくなってしまうわけです。町には、この家を建てるのにはきっと設計に苦労したんだろうなっていう家がいくつもあって。少し覗くとベビー用品が目に入ってきたりして、ここで子供が産まれたんだろうなってことが想像できて。夜ノ森の町を歩いてみると、一軒一軒そういう情景が見えてくるわけですよ。そういった庶民たちの小さな悲しみを掘り出したいということなんです。なにしろ芝居というものは、やっぱり感動を呼ぶもの。感動を呼び、そして人の心を洗うものですからね。そこへドラマをどうやってもっていくかということですよ。あくまで題材となるのは原発の事故かもしれないけれども、そのことでどういうドラマが生まれたかという、そこを書きたいだけ。決して、自分の主義主張を書きたいわけではないんです。

――それに実際にあったことをモチーフにして書かれていて、勝手に作ったことを書いているわけでもないですし。
 物語に出てくる出来事のほとんどが事実で、そこには厳然たるリアリティがありますからね。

――劇中で、原発作業員の方が語る言葉がものすごくリアルでした。
 だけどやっぱり、ああいうセリフを書くときにも、すごく考えこんじゃうんですよ。

――どこまで直接的に書いていいか、とか。
 そこまで生々しく出して大丈夫か、とか。そういうことを考えながら書いていくので、とても時間がかかるんです。

――まだこれから本番までにする作業はたくさんあるでしょうけれど、現時点で倉本さんが一番、楽しみにしていらっしゃることはなんですか。
 どういう舞台になるかということはもちろんですよね。舞台は総合芸術なので、音響も照明もセットもあらゆるものが結びついて一本の作品になるわけです。その掛け算がうまくできるか、足し算で終わってしまうかという、そこが一番難しいところで。足し算だけで終わらせるのではなくどうにか掛け算にしたいんですけれども、そのためにはみんながそれぞれきちんと意志を持たないと掛け算にはなってこない。役者にしてもそうで、役者が自分の演技のことばかり考えていたら絶対に掛け算にはなりませんからね。

――ではいかにその掛け算がうまくいくかが、楽しみ。
 そうですね。だけどまあ、重労働ですよ、芝居を作るのは。

――時間もすごくかかりますし。
 もう僕は今年の4月くらいからこの芝居にかかりっきりで作品づくりをしているんですが、本当に、へとへとです(笑)。こうして僕が自ら、PRまでしなきゃいけないんですから。もう、老人虐待だよ(笑)。

――そんな中でもがんばれる原動力とは。
 それは作品をいかに良くするか、それだけしかないですね。もうね、こんな状態で稽古に入ると時々ぶっ倒れるんじゃないかと思うことがあって。なかなかうまくできない役者がいると、やっぱり怒鳴るでしょ。カーッと血圧が上がるわけです。ここで俺がカーッとなって倒れたら、お前が殺したことになるんだぞっていつも役者に言っているんですよ(笑)。

――それは、ひどいかも(笑)。でもやっぱり役者さんたちはかわいいんでしょう?
 それはそうです、みんな塾生ですからね。子供みたいなものですよ。一緒にいる時間もとても長いですしね。

――もしかしたら、まだ演劇というものをそれほど身近に感じていないお客様もいらっしゃるかもしれないので、ここでぜひ倉本さんからこの舞台へのお誘いの言葉をいただきたいのですが。
 舞台というものは、きっとアイドルのコンサートに行くよりは面白いと思いますよ(笑)。なんといっても、そこには感動というものがありますからね。僕が芝居を始めた学生時代、フランスの劇作家のジャン・ジロドゥという人の言葉にぶつかって、その言葉がひとつの原動力になったんです。それは「街を歩いていたら、とてもいい顔の人に出会った。彼はいい芝居を観た帰りに違いない」という言葉でね。いい芝居を観たらいい顔になるんです。確かに心が洗われますから。だから僕は自分の職業を“心の洗濯屋"だと思っているんですよ。心の中から邪悪なものや汚れを取り除いて、いい顔で帰ってもらうことが一番の目的ですから。アイドルのコンサートも楽しいかもしれないけど、どのくらいいい顔になれるかどうかという点で勝負したなら、僕らのほうがきっと勝てるんじゃないか思いますね(笑)。

[取材・文=田中 里津子]
[撮影=平田 貴章]


公演概要

富良野GROUP公演2015冬

<日程・会場>
2015/1/23(金)  札幌市教育文化会館 大ホール (北海道)

2015/2/4(水)〜15/2/8(日) 新国立劇場 小劇場 (東京都)

2015/2/14(土) すばるホール (大阪府)

2015/2/27(金) 裾野市民文化センター 大ホール (静岡県)

<キャスト・スタッフ>
作・演出:倉本 聰
出演:富良野GROUP

2014-12-12 10:29 この記事だけ表示