「宮本亜門氏は偉大な演出家」──
オリジナル脚本家が語る、ミュージカル『ヴェローナの二紳士』[インタビュー]

 日生劇場で上演中のミュージカル『ヴェローナの二紳士』初日の舞台を、ニューヨーク初演版(1971)の脚本を手掛けたジョン・グエア氏が観劇。翌日感想を訊ねると、「観ていて若返った」「今まで観た中で最も素晴らしい」「キャストを全員ニューヨークに連れて帰りたい」と、賛辞が止まらない!オリジナルクリエイターをそこまで感動させた、宮本亜門演出のすごさとは──。

“なぜ歌うのか問題”をひらりと乗り越えるオープニング

――まずは、初日をご覧になった率直なご感想を聞かせてください。
 カーテンコールで宮本氏が私を舞台に上げてくださった時にも申し上げたんですが、この作品を書いた時、私はとても若かった。そして今は、とても年老いている(笑)。でも舞台を観ていたら、気持ちが若返ったんですよ。といってもタイムマシンに乗って過去に戻ったということではなく、“永遠の現在”にいるような気持ちです。舞台は活力、ソウル、喜びに満ちていて、その気になれば何でもできるという勇気を与えてくれました。

 1971年の初演当時、アメリカはベトナム戦争や人種差別問題に揺れる灰色の時代にあって、私たちは「そんなの知ったことか!私たちはただ社会に微笑みかけよう、人々に愛の挨拶をしよう」というつもりでこの作品を作りました。愛といっても表面的なものではなく、奥底から湧いてくる欲望ですよ。恐ろしい世の中でも、欲張れば──テーブルに残ったパンくずを拾うような欲張り方ではなく、メインの肉をむさぼり食うような貪欲さを持てば──人生は素晴らしいものになる。私たちがこの作品に込めたそんな思いを、昨夜の舞台は見事に捉えてくれていたんです。

――特に印象に残っているシーンはありますか?
 なんといっても、あのオープニングは私が今までに観たあらゆる舞台の中で最も素晴らしいものでした。舞台と客席の境界をなくすといった意味の演劇用語に「第四の壁を破る」というのがありますが、宮本氏は“第五の壁”まで破ってしまった(笑)。ミュージカルを観に行って、「なぜこの人は自分に向かって歌いかけてくるんだ?」という疑問が先に立ち、作品世界に入り込めなかった経験のある方は多いと思います。私にも経験がありますが、宮本氏はあのオープニングで、「何が起こってもこの舞台についていく!」と思わせてしまった。偉大な演出家である証です。これからご覧になる方のために詳しいことは言いませんが、想像もしなかった誘導の仕方に涙が出てきたことは申し上げておきます。

 このオープニングを観られただけで、もうニューヨークに帰ってもいいと思ったほどなんですが(笑)、驚きはさらに続きました。プロテュース(西川貴教)とジュリア(島袋寛子)の、まるでチャップリンやキートンの映画のようにスラプスティックでセクシーなベッドシーンが終わる頃には、自分で書いた作品であることを忘れて楽しんでいましたよ。舞台が片田舎のヴェローナから大都会ミラノへと移るシーンも、実に見事な変わり様でしたね。宮本氏が描いたミラノはまさに、私が見たいと思っていた別世界でした。

――数か月前に宮本氏がニューヨークのグエアさんを訪ねた時、「誰が書いたか分からないくらいの舞台にしてほしい」とおっしゃったそうですが、その通りになったのですね。

 まさにそうです。でもそこにはちゃんと、私が脚本を書いた際の衝動が反映されていました。宮本氏は私に、昨夜がこの作品誕生の瞬間であるような感覚をもたらしてくれたんです。実は私は、自分の脚本が上演されているのを観ることをあまり好みません。でも今回は、観られて本当に良かった。これは決して、ニューヨークから東京に連れて来てもらったことに義理立てして言っているわけではないですよ。実際、舞台稽古で初めて全貌を観る前は、疑ってかかっていたんですから(笑)。

――キャストの印象についても聞かせてください。宮本氏には、シェイクスピア役者であると同時にミュージシャンであってほしい、とおっしゃっていたとか。
 そうですね。私たちはシェイクスピアの原作が持つ美しい詩情を尊重しながらミュージカル化しましたから、シェイクスピアと音楽という二つの世界に橋をかけることのできるキャストが、この作品には不可欠なんです。そのうえ若さやコメディの資質も持ち合わせていないといけませんから、キャスティングは難航するだろうと思っていたんですが、宮本氏は一体どこから見つけてきたのか(笑)、皆さん本当に素晴らしかった。全員ニューヨークに連れて帰りたくなりました。

――40年以上前にアメリカで生まれた作品が、現代の日本で受け入れられた理由はどのあたりにあると思われますか?
 日本の観客は礼儀正しく、感動してもそれを表に出さないと聞いていましたから、皆さんが熱狂的に受け入れてくださったことには私も驚きました。昨夜のカーテンコールはまるでロックコンサートのような盛り上がりでしたし、終演後には私までサインを求められて、まるでスターになった気分でしたよ(笑)。それはひとえに、愛や欲望といったこの作品の本質を、宮本氏が理解してくださったおかげだと思います。ミュージカル『ヴェローナの二紳士』は何度か再演されていますが、今回の宮本版は、時代や社会背景の溝を埋める道を探し当て、現代の物語として見せることに成功した初めてのプロダクションと言っていいのではないでしょうか。

 それから現代の物語に見えたもう一つの要因として、経済的な不公平に焦点を当てるような描き方もあるかもしれません。お金がなくても豊かな人も、反対にお金があるのに貧しい人もいる──宮本氏のプロダクションは、そんなことを感じさせてくれたんです。目に見えないものの価値を思い起こさせてくれるという意味では、コメディである一方でスピリチュアルな舞台だったとも言えると思います。

[取材・文=町田 麻子]

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公演概要


ミュージカル 『ヴェローナの二紳士』

<公演日程・会場>
2014/12/7(日)〜14/12/28(日) 日生劇場 (東京都)

<キャスト&スタッフ>
出演:西川貴教/島袋寛子
武田真治/伊礼彼方/上原理生/坂口涼太郎/斉藤暁/ブラザートム/保坂知寿
堂珍嘉邦/霧矢大夢
【演出】宮本亜門

2014-12-15 10:56 この記事だけ表示