落語家 柳家三三、11年目を迎える「月例 三三独演」の見所を語る[インタビュー]

 柳家三三(やなぎやさんざ)。1993年柳家小三治師匠に入門、2006年真打昇進以来、2007年文化庁芸術祭芸能部門「新人賞」受賞、2008年「彩の国落語大賞」受賞、2009年「花形演芸大賞・金賞」受賞、2010年「花形演芸大賞」大賞受賞、まだまだここに書ききれないほど、華々しい受賞歴を持ち、評判は高まるばかりの落語家 柳家三三。

 江戸落語の伝統をはずさないすっきりとした語り口。それでいて確実に平成のいまを生きる絶妙な空気感が、すっと落語の世界に入りこませてくれる。講談の修行もしたという声の調子は心地よく、聞くほどに物語の中へと引き込まれてしまう。まさに平成の生んだ名人街道まっしぐらの噺家柳家三三。今日は三三師匠に、いまノリに乗っている「月例 三三独演」の見どころや、今年こそ落語を観ようという皆さんに、落語の面白さについて存分に語っていただきます。

インタビュー

―「月例 三三独演」は今年11年目を迎え、毎月ホールで独演の形をとられていますが、この会の特徴をお聞かせ下さい。

 普段はご依頼を受けて求められる演目をする落語会が殆どですが、これは自分の主催の会、その時その時に一番興味のある噺をしております。自分の持っているネタが200ぐらいあるとして、すぐにやれる噺が20ぐらいで、それも固定した20でなく入れ替わる。落語は人間のいろんな面を切り取っておりますから、或る時その話にピタッと重なる出来事がありますと、にわかに話がリアリティーを帯びてきて、急にその演目が楽しくできたりする。そんな今一番したい噺を、その時一番素敵と思うアプローチでご提供したいなと、まあ自分本位の会とも言えます。

―「月例 三三独演」の今年の見どころをお願いします。チラシによれば2月3月4月は「五人廻し」「花見の仇討」「文違い」等、「大真面目だからこそ可笑しく哀しい人々に最大の愛を」とありますね。

 落語って、実はお話の中の登場人物は笑わせるためにしゃべらない。その状況にたまたま出くわした人達が必死に取り組んだ結果を見て周りが笑っちゃう。2月3月4月の演目はまあ、世の中男と女ですから、同じ出来事が起きても、とらえ方にズレがある。そういう落差なんぞが解りあえたりあえなかったりで、一生懸命生きているドタバタをお楽しみいただけたらと。「五人廻し」と「文違い」はどちらも廓の噺ですが、前者は男に、後者は女にスポットを当てたものです。「花見の仇討」は男から見ても女から見ても「バカ男」な噺です。

―あとは見てのお楽しみ。師匠はどういう落語をいつも心がけておいでですか?

 小学校一年の時、両親がテレビをたまたま付けていて初めて見た落語の原点にいつも還るんです。子供ながらに廓の男と女のやり取りが本当に面白かった。今思えば「文違い」ですよ。でも誰の高座かは覚えていない。面白かった印象は強烈に残っている。自分もそういう落語がしたいなと。「三三の<時そば>は面白いねえ」ではなく、「<時そば>って噺は面白かった、ところで誰がしていたっけ?」という。「俺がこの落語をこうおもしろくしてやる」という「自己表現のために落語を使う」のではなく、「この落語はこんなに面白い」を素直に提示する。演者が前に出ず、話そのものを楽しんでもらいたい。落語が一番面白い姿でお客様の前に現れるために奉仕するのが自分の仕事だと思っています。

―チラシ掲載の「落語が輝くため奉仕するのが使命」という意味がよくわかりました。5月6月は小三治師匠のそのまた師匠である、大師匠・五代目柳家小さん師匠の命日にちなんで「碁泥(ごどろ)」と「親子酒」。どちらも初演、大師匠の得意ネタですね。

 うちの一門は柳家ですが、三遊亭とか古今亭など、それぞれ芸風や選ぶネタに特徴がある。で、今の柳家花緑さんのお祖父ちゃんの五代目小さん。この師匠が「柳家の芸風」の一つの到達点ともいえる方です。へんな話、柳家のネタって、どうってことない話(笑)が多い。涙を誘うでもなく波乱万丈でもなく地味なんだけど、噛むほどに味わいが出てくるような笑い。で、今まではこわくてできなかった。以前であれば何とか小細工して笑わせようとしたでしょうね。今やっとこの話、どうやったらその面白さを目の前に広げられるか、素直にできそうになったので、気張らずにできればと思います。

―これは見逃せない師匠の初演ですね。次に名作揃いの7月8月の見どころは?

 夏は暑い季節ならではのネタが多いです。道楽者の若旦那がにわか船頭になって四万六千日のお詣りに行く途中のお客が迷惑する「船徳」や、夏場にみかんが食べたくて病気になった若旦那のために番頭さんがやっと探したみかんが・・・という「千両みかん」等。夏になると定期的にやる話もあれば、久しぶりに取り組み、昔とは違う味になるかもしれない演目もありで自分でも楽しみです。

―師匠は講釈調の語り口に定評がおありで、9月は講釈ネタで必見ですね。

 講釈ネタは好きなんです。実は私、人前で話すことが苦手で、ちゃんと聞いていただくためには、きちんと話さなくてはいけないと、まあ、とらわれていた時期があり、十数年前には講談の稽古ばかりしていました。講談は五七調のリズムで聞きやすく、わかりやすく説明できますから、落語をする上で「武器」にもなります。が、講談調でさらさら語りすぎると流れすぎて中身がないという「欠点」にもなる、そのバランスが大切です。「清水次郎長外伝」では、ばくち打ちのアウトロー的格好良さを落語でも面白いといわれる様にやってみたいですね。

―10月11月12月は「甲府い」「年枝の怪談」「三味線栗毛」「うどん屋」等、面白そうな落語満載ですね。

 落語には色んな要素がありますが、ワーと笑うことに特化した話もあれば、これからどうなるかと物語の成り行きそのものに興味を持つ話もありで、10月11月12月は後者です。「年枝の怪談」は落語家の年枝が宿で殺したあんまの亡霊に悩まされる話ですが、話の中にまた落語の怪談ありで、物語の中に入り込んでお楽しみいただきたいですね。

―どの月も見逃せない「月例 三三独演」がよくわかりました。では今後の抱負をどうぞ。

 高座に上がりしゃべっている時間が、自分にとっての生きている時間。落語が好きで好きでしょうがないから、噺家でいるというのが本当です。実はふだんは面白いことを言って笑わせたりしないんです。噺家でなければ引き籠り(笑)になっていたかも。以前は自分の落語を完璧な作品に仕上げて、なんてね、意気込んでいましたが、今は子供の頃落語を楽しんでいた原点に戻り、喜んで下さるお客さんという要素「込み」で落語が好きですね。といっても、お客さんにおもねるように落語をするんじゃなくて、目の前の登場人物が一生懸命生きているとお客さまは自然に物語の中へ入り込んでいく。落語の中で素直に登場人物が目の前の人と会話していく、それをお客さまが楽しんでくれる、お客さまがいて笑って下さることも「込み」で自分の落語です。いくら完成度が高くても、名ピアニストのグレン・グールドみたいにスタジオ録音だけなんてとてもできない。しかもお客さまがいることにより、時にすごいことが起きる。何年かに一度あるんですが、高座の最中に自分で自分の制御がきかなくなり、落語の中の登場人物が勝手に動き出し、しゃべりだすんです。最高の瞬間。自分の口ながら、なんで、この登場人物はこんなことしゃべっているんだろうって、アドリブでしゃべり始める。熊さんの話したことに、八つぁんが真剣に反応するから、稽古の時考えもしなかった言葉が出て、話そのものが勝手に動き始める。自分が落語を操るのでなく、お客さまの反応や話のやり取りの中で予期しなかった言葉が自然にでてくる。楽しいですよ。そういう瞬間って、こういう仕掛けをしたらお客は喜ぶだろうとか考えてない。話そのものがどんどん生命力をもってふくらんでくれるんです。

―究極のアドリブですね、三三師匠の芸の神髄を伺った気がします。

 以前は落語の技術にとらわれていました。技術は必要ですが、落語を楽しんでいただく手段に過ぎないと、そこに引き戻してくれたのが「子供の頃の自分が楽しめる落語」でした。落語家になる以前に戻るっていうのかなあ、軸足を置く場所がやっと見つかった。自分がお客の立場に立った時、何がどう楽しいかっていわれたら、落語家に笑わされたというよりも、自分が物語の世界に入り込んで、その場面に居合わせて、つい笑っちゃうって感じが一番大事で、子供の頃は自然にそれをやっていたもんね。何が楽しいって、子供の頃の自分が楽しいと思える落語。そこに絶えず立ち戻りながらもいろんな寄り道をして、引出しや幅を広げていきたいですね。

―最後に落語は初めてという方に一言?

 落語は敷居が高いと思われがちですが、予備知識なんかなくても大丈夫。自分の想像力だけで笑ったりジンときたり。ただ、座布団に座ってるだけの殺風景な舞台ですから、聞いて理解をして笑うお客さんの仕事(笑)は他の芸能より多いです。でもその分、「自分の力で楽しめた!」という満足感は他よりうんと大きいって確信してます。しかも噺家の言葉もその日のお客さんのノリに引っ張り出されることがよくあります。落語の半分はお客さんが作ってると言えるんです。話にでてくるいい女や間抜けな男を自由に想像して皆さんの頭の中で最高に面白い状況をこしらえる。何もないから縛られない、それが落語。会場に足をはこんで、生で体験していただくのが一番楽しめる方法です。

 

[取材・文=星乃真呂夢]

公演概要

「月例 三三独演」

<公演日程>
2015/2/20(金)
2015/3/13(金)
2015/4/10(金)
2015/5/15(金)
2015/6/12(金)
2015/7/10(金)
2015/8/7(金)
2015/9/11(金)
2015/10/9(金)
2015/11/13(金)
2015/12/11(金)

<会場>
イイノホール (東京都)

<キャスト・スタッフ>
出演:柳家三三

演目は公式ページをご参照ください。

2015-02-12 18:24 この記事だけ表示