野鳩 と しまおまほ『はたらくおやつ』[インタビュー]

 最近何かと話題の人気漫画家・エッセイストのしまおまほと、すこしふしぎ(SF)系の劇団・野鳩が、下北沢で合同演劇公演を行います。題して『はたらくおやつ』。両者は何故コラボするに至ったか?そしてその行方は?気になるアレコレをご本人達の口から直接うかがいました!

◆しまおまほ
漫画家・エッセイスト。1997年『女子高生ゴリコ』でデビュー。ファッション誌やカルチャー誌にイラスト、エッセイ等で活動。著書に『しまおまほのひとりオリーブ調査隊』『まほちゃんの家』『マイ・リトル・世田谷』など。TBS ラジオ「ライムスター宇多丸のウィー クエンドシャッフル」レギュラー出演中。2014 年末、同番組にてヒップホップアーティスト・かせきさいだぁとの婚約と妊娠を報告した。

◆野鳩
2001年旗揚げ。主宰:水谷圭一(作・演出)。劇団員に佐伯さち子、佐々木幸子ら。中学生の恋愛物語を記号的演技で上演する独自のスタイルで小劇場マニアから熱列な支持を得るも2007年活動休止。2013年、ナカゴーとの合同公演にて活動再開。2014年は単独で『村にて』『自然消滅物語』『成島と泉』を精力的に上演。以前の作品スタイルに捕われない、毎回異なった切り口で公演を重ねている。

原作者しまおまほ

――今回しまおさんが原作とのことですが、経緯からお聞かせいただけますか。

しまおある宴席で、私がコントのアイデアを宮崎吐夢さんにプレゼンしてたんですよ。それを水谷さんが隣りで聞いていました。水谷さんは私のことを、いろいろなアイデアの持ち主だと思ったらしく、合同公演のお話をくださったんです。だけど実は私、ただの思いつきのネタが一個あっただけで、それ以外には全然持ち合わせていなくて(笑)。だから、いざやろうと思ってもなかなかうまくいかないんですよ。今もうまくいってない最中だし(笑)。原作というもののやりかたがよくわかってない。だから、いろいろ試行錯誤中です。

水谷原作、最初しまおさんから文章でもらっていたんですけど、ある時期から筆が止まってしまい、どうしようかってなったんです。それで、台本形式の原作に変えてもらったら一気に沢山来るようになって。「じゃあ、その形で書いちゃって」とお願いしたんですけど、ほどなくしてまた筆が止まっちゃった。だったら、それまで出来ていた原作の感じを活かせそうなのを僕が書き進めますっていうことになり、今はそういう感じで台本を作っているところです。

しまおでも、それがすごく面白いんですよ。「あ、こういう感じになるんだ」って。稽古場も今まで私のまったく知らなかった世界なんですね。水谷さんの指示がすごく細かいので驚きです。しかも、どんどんその場で足してゆきますよね。

水谷うん。今回は特に台本の書き方を変えているから。これまではきっちりと、これでいけるぞという台本を用意して稽古場に臨んでたけど、今回は違うんです。あえてボンヤリした、歯抜け気味の台本にして、稽古の現場で付け足してゆくようにしてます。一昨年に劇団活動を再開してから毎回作風を変えてますけど、今回こういうふうに遊びの部分を設けて、現場で作ってゆくような手法もありなんだなぁと。ただ、今回は基本的なことを決定するまでにかなり時間がかかってしまい、チラシ作りとか告知が大幅に遅れてしまいました。こんなに遅くなったのは初めてで、ちょっと焦ってます。

しまおそれ水谷さん、すごい気にしてますね。しかも、私がラジオというメディアにレギュラーを持っているから、最初は集客への期待があったんだと思うんです。だけど実のところ私、昔から集客力なんて全然なくて。水谷さん、それにも閉口してるんじゃないかな(笑)

――しまおさんのTwitterフォロワー数は26,000超。対する野鳩は約370ですから影響力は格段に違いますよ。

しまおいや、それはですね。世の中の人々がTwitterを始めた頃に「私も始めました」ってラジオで喋ったら、流行りに乗じて、皆さんフォローしてくださっただけなんです。たまたまですよ、あの時の数は。

水谷その名残りがいまだに続いているだけ?(笑)

しまおあれより早くても遅くても、とてもあんな数にはならなかったと思います。

――でも、しまおさんが出演されるということの興味で今回の情報は拡散するのではありませんか。

しまおどうでしょうか。ただの集客力のない妊婦なんじゃないでしょうか(笑)

――ちなみにご出産の予定日は?

しまお4月末です。だから上演の頃は臨月に近い。今回の公演が決まった後に妊娠がわかったので、いろいろご迷惑をおかけすることになっちゃったんですけど。

出会い

――しまおさんと野鳩の出会いについてお聞かせください。

しまお最初に私が見たのは、野鳩とナカゴーという2劇団の合同公演(『ひとつになれた』下北沢OFF・OFFシアター2013年1月)でした。知り合いの漫画家・堀道広さんのTwitterで紹介されていたのを見て、足を運んだんです。お名前は以前から聞いていましたが。で、すごく面白かった。ただ、そのときは水谷さんとはお会いすることもありませんでした。もちろん水谷さん、その舞台に出演していらしたから、その時に存在は認識しましたが。

水谷その舞台では僕、もっぱら後ろ姿ばかりでしたけどね。演出家という役だったから。

しまおそうでしたね。後ろ向きで、もっぱら声ばかりでした。でも時々、前を向くこともありましたよ。

水谷ちょっとだけね。でも早々に宇宙人に上半身を食べられちゃう役だったんで、前を向く機会は少なかった。その後は下半身だけになっちゃうし(笑)

しまおその後、お台場で天久聖一さん主催の『書き出し小説大賞授賞式』(東京カルチャーカルチャー2013年6月)に私がゲストとして出演した時、野鳩の女優さんである佐伯さち子さんが大賞の候補作を朗読されていたんですね。そこに水谷さんもいらっしゃっていて。そこはハガキ職人みたいな投稿者の人々が集う場だったので、ゲストの私は居場所を見つけにくかったんです。で、その雰囲気を共有できそうなのが水谷さんだったので、こちらから話しかけました。公演の感想とかね。話をするうちに、なんかとっつきやすそうな人だなと思って。それから…

水谷「近々ナカゴーの公演があるよ」って僕が教えてあげて。

しまおそう、ナカゴーを見に行った後に一緒に呑みにいったりするようにもなって。

水谷それでしまおさんがコントのネタのアイデアを宮崎吐夢さんに話している場に居合わせて、すごく面白かったから「ぜひ一緒にやりませんか」とお誘いしました。しまおさんは「出演は絶対しない」って言ってたんですけど、合同公演に持ち込んで原作を提供してもらえば、そのままなし崩し的に出演してもらえるだろうとふんでいたので。

しまお何度も「出たくない」とは申し上げたんですけど。

水谷「でも、出ないなんてわけにはゆきませんよね」と迫るうち、なんとか出演の言質をとれた(笑)

しまおまあ、そういうかんじでしたね(苦笑)

おやつ感のある風景

――『はたらくおやつ』というタイトルはしまおさんが付けられたんですか。

しまおはい。稽古場でね。水谷さんがふざけて、絶対使えないようなことばかり言って来るんです。そうやって私を刺激させていたみたいですが。そんな中で思いついたんです。

――タイトルはお芝居の内容やイメージとつながりがあると考えていいですか。

しまおそうですね。

水谷設定を決めたほうが作りやすいんじゃないかとなって。しまおさんはオフィスで働いた経験がなかったから、職場とかオフィスとかを舞台にしてみようと。ちゃんと見たことはないけど、『ショムニ』みたいなイメージで。しまおさんの想像するオフィスの世界を書いてくれれば面白くなると思ったんです。

しまお自分の身近なところだけだとうまく書けなかったので、そういうヒントをくれて俄然、作りやすくなった。その設定の中に自分の作った話を混ぜ込んでゆけばいいので。

――チラシのイメージもあって、お菓子がキャラクターとして登場するのかな〜て…

しまおいや、そういう話じゃないですね(笑)。“おやつ”っていう言葉の可愛らしい響きが好きなので…。

水谷おやつそのものではなくて、“おやつ感”だよね。

しまおそう、“おやつ感”!

水谷見終わった後に、なんとなくそういう感じだったなって思ってもらえればと。ただ、チラシのイメージほど可愛いものにはならないかも。ジェリービーンズかと思って食べたら、中身は鼻クソだったっていうような意外性があるかもしれない。表面は甘くておいしそうだけど、食べてみたら逆だったっていう…。

しまおえー? でもやっぱり野鳩は、出てくる人が可愛らしいというイメージが私にはあります。野鳩という小箱の中に入っているお人形さんという印象です。女の人はちょっと中性的だし、男の人もなんか不思議で、全体的に感じがいい。その雰囲気の中で“おやつ感”を出せたらいいかな。メインディッシュじゃない、どこかスナック菓子ぽいっていう。または、おつまみっぽい感じっていうんですかね。

――ご自身の原作が脚本になって役者によって具現化されるのをみてどうですか。

しまお私が書いた台詞のようなものを稽古場でやられた時は、すごく恥ずかしかったです(笑)

――水谷さんはしまおさんの原作をどう思いましたか。

水谷自分だったら出てこないようなものがたくさん出てくるのが面白いですね。こんなディテイル、自分じゃ絶対書かないだろうなと思うし。

役者しまおまほ

――しまおさんは今回出演もされますが、過去に役者の経験は?

しまおほぼないですね。学芸会以来です。子供の頃は自分ツッコミがないから目立ちたいという気持ちもありました。でも大人としての自覚が出てきてからは、そういうのはまったくダメですね。合同公演は「原作を」という話だったのでお受けしたのですが、その昔に天久聖一さんが作・演出を手がけたハットリ座『オスウーマン』」(リトルモア地下2006年1月)という芝居をふと思い出したんです。劇の最後近くに天久さんが少しだけ出演したんですよ。なんか、ファッション・ショーの最後にデザイナーが登場してくる、みたいな? あの感じだったらスマートでいいかなと。でも、水谷さんは私のことをがっつり出そうとしてるみたいで、そこがなんだかなぁって(笑)

水谷せっかくの妊婦さん。そこはどうしたって嘘をつけない部分だから、うまく使わせていただきたいということです。

しまお野鳩のファンの方々にとって、私が妊娠してるっていうのはあんまり関係ないのでは。

水谷それでも、妊婦ってことは事実だから。

しまおだけど妊婦にとって出番が多いってことはハードじゃない?

水谷あ、もちろんそこは調整するつもりですが…

しまおお願いしますね(笑)

――演出家から見て、役者としてのしまおさんは?

水谷やっぱり素材のおいしさですかね。観客の皆さんには、まるっと素材を味わってほしいなって思います。

しまお妊婦だから?

水谷いや、それだけじゃない。しまおさんはラジオやってるだけあって、声とか喋り方に味があるんです。

しまお舞台に素人風を吹かせるみたいにならないかと心配で。

水谷むしろ、それでいいんだって。蛭子能収さんみたいな感じ(笑)

しまお野鳩の舞台は世界観がしっかり出来上がっているから、そこに穴を開けちゃわないかと気が引けるんです。

水谷しまおさんが異物であることは確かだけど、そこに合同公演の意味があると思ってます。

しまお最終的には水谷さんにまかせてますけど。手探りでやってゆくしかない。劇団の人も不安かもしれないですね。急に仲良くなったからと私を連れてきて。

水谷どこかのいかがわしい占い師を連れてきた?、みたいな(笑)

出産直前スペシャル

――しまおさん、周囲の方からは今回の件で何か反応ありますか。

しまお普段からお芝居をよく見てる方は反応してくれますね。やはり野鳩というので興味を持ってくれるみたいで、メールくれたりします。「大丈夫?」とか「本当に出るの?」とか。本番が3月ということもあって。

――お腹の心配ですね。

しまおそう。

――ご家族や、近々ご家族になられる予定の方からは何か?

しまお私の両親からは「とりあえず体に気をつけろ」と。一方、夫(かせきさいだぁ)は「そんなことやるもんじゃない」「安請け合いするな」と言ってました(笑)。彼とはヨーロッパ企画やナカゴーの舞台などを好んで一緒に見に行ってるのですが、「演劇なんて恐ろしくて、とても俺にはできない」と言います。自分の知ってる人が本業ではない違う畑に手を出すことが怖いようです。彼は友達のスチャダラパーが宮沢章夫さんの『スチャダラ2010』(青山円形劇場 1996年)という芝居に出た時も、心配過ぎて見ていられなかったんですって。そういう意味で、私のラジオを聴いてくれている方々も、今回けっこうハラハラする人が多いんじゃないでしょうか。

水谷どんどんハラハラさせてやりましょうよ。

しまお今、冒頭シーンの稽古してるんですけど、そこをやってる時点で、客席の人々のハラハラしてる顔が目に浮かびますね(笑)。私はその人たちに対して、つい照れ笑いとかしちゃいそうなんです。

水谷それはダメだよ(笑)

しまおでしょう?(笑)でも本能的に自分を守ることをしちゃいそう。「これ、私はやらされてるんですよ」って(笑)。

水谷それをやっちゃまずいって。

しまおわかる、もちろんわかるよ。でもそれやりそうだわ、恐ろしいわ。だから出たくないんですよ。

水谷えー? なんでこの期に及んで僕が説得みたいなことしなきゃいけないのぉ?(笑)

しまおでも、そこが芝居のできる人とできない人との違いなんですよ。演劇やってる人と知り合うと、人間としての種類の違いを感じます。友達としては付き合えるけれど、どこか達観してるというか、自分を突き放している部分が感じられる。私なんかは自分から離れられない人種だから。自分を切り離すことを生業にしてる人って、すごく強さを感じます。

――しまおさんのファンの方々に向けて伝えたいことは?

しまお温かい目で見ていただきたいですね(笑)。リラックスして見て欲しいです。抜けも良くて、見た後にいい気分になれると思います。出産で仕事を休む手前なので、こういうことをするのも一応これが最後になります。自分にとっても、母親になる直前スペシャルみたいな感じですね。

水谷しまおさんの、こんな大きいお腹を見れるのはこの舞台だけですね。

しまおわたしはお腹を出したりしたほうが面白いかなと思っているんですけど。

水谷なんだかんだいって自分のほうがそういうことやりたいんじゃないの(笑)

しまおどうせやるんだったらそれくらいのほうがね。お相撲さんの役ができるんじゃないかって最初の頃に言っていたくらいですし(笑)

――水谷圭一さんからも読者の方々に何か。

水谷やはり、しまおさんが原作で、出演もする。出産直前というおまけまでついている。なおかつOFF・OFFシアターという、舞台と客席の距離がとても近い劇場でそれをお見せすることができるというのは、貴重なことですよね。

しまおアフタートークには、私の父(写真家・島尾伸三氏)も出ます。

水谷でも、それら一切関係なしに楽しめるようにもしようと思ってます。野鳩を今まで見に来てくれた方々には、また今までとちょっと違うことをお見せできるかと。

しまお水谷さんにはしっかりとしたビジョンがありますからね。

水谷お、もっと褒めてください(笑)

しまおいやいや(笑)。でも水谷さん本当に多彩ですよ。チラシのデザインもされるし。あと…DJもされるし(笑)

水谷また余計なことを(笑)

しまお水谷さんはビジョンとか世界観がすごい。私にはない世界観。作品自体には遊びがあるんですけど、作り方には隙がない。理屈がきちんとある人だから。余韻の感じられるお芝居が、実はこういうふうに作られていたんだってわかったことは今回参加して得られた収穫ですね。昨年の『村にて』は「長い」とか評価が割れたみたいですけど(笑)、私は良かったんです。心の中の風景みたいのをうまく描き出せていたと思ってる。今回も、本当に興味深い経験をいろいろさせてもらってます。

水谷『村にて』でがっかりしたという方々にも、今回はぜひ見に来ていただきたいです(笑)

[取材・構成=イープラス]

公演概要

野鳩 と しまおまほ 『はたらくおやつ』

<公演日程・会場>
2015/3/4(水)〜8(日) 下北沢 OFF・OFFシアター

<キャスト・スタッフ>
【原作】しまおまほ
【脚本・演出】水谷圭一
【出演】佐伯さち子、佐々木幸子、ワタナベミノリ、上原剛史、濱津隆之、雪港(少年王者舘)、加瀬澤拓未(口リータ男爵)/しまおまほ

2015-02-23 19:30 この記事だけ表示