ミュージカル『アニー』公開ゲネプロ見学レポート 〜みなしごのピクニックのために〜[公開稽古レポート]

「ねえ、おじさん。みなしごのピクニックのために、リンゴを1つ、寄付してくれない?」
「…いいよ、どうせ1つも売れないんだ。ところでお嬢ちゃん、その、みなしごのピクニックとやらは、いつ始まるんだい?」
「あたしが、ひと口かじった時からだよ!」

1933年、世界大恐慌直後のニューヨーク。モノが売れなくなり在庫を抱え込んだリンゴ売りに話しかけたのは、孤児院を脱走してきた少女アニー。このシーンは、『アニー』大好き歴28年のわたくしが、第一幕の中でもっとも好きなところ。彼女の無邪気な明るさに、毎度毎度、飽きもせず涙があふれ出てしまいます。

4月25日に開幕したミュージカル『アニー』。その前日に行われた公開ゲネプロ(総通し稽古)と出演者の会見に参加してまいりました。

日本上演史上最年少アニー

今回初めて上演会場となる新国立劇場中劇場。客席の傾斜がちょうど良く、そして、どの席からも舞台が近く感じられ、とにかく観やすい。好きな作品をここで観られるなんて!

公開ゲネプロでアニーを演じていたのは、黒川桃花ちゃん。真冬のニューヨークを赤いカーディガン一枚で陽気に闊歩する彼女、劇中ホームレスたちから言われる「1928年以来の楽観主義」という表現がまさにピッタリのキャラクター。そういえば桃花ちゃん、日本テレビ系列で放映された『アニー』のオーディション密着番組の中でも、根っからのひょうきんぶりを際立たせていました。「(アニーには)子役子役していない子が望ましい」とおっしゃる演出のジョエル・ビショッフ氏のおメガネにかなったのも至極当然かと。

ゲネプロに先立つ囲み会見には、国内上演史上最年少となる二人のアニー、黒川桃花ちゃん(スマイル組)と前田優奈ちゃん(トゥモロー組)が揃って登場しました。約9,000人の応募を勝ち抜いただけあって、そして、ウォーバックス役の三田村邦彦さんからも「物怖じしない」と評されるだけあって、囲み取材でも三田村さんのハゲ頭をさするなど大物っぷりを発揮。また、大人出演者の返答中そちらに見入るあまりカメラにお尻を向けてしまったり、急にしゃがみ込んでグレイス秘書役の木村花代さんに起こされたりと、そんなところも微笑ましいったらなかったです。

愛される理由

最近リメイク映画も公開され話題を呼んだミュージカル『アニー』。日本では毎年上演され続け、なんと今年で30周年を迎えました。この国は、もはや世界一『アニー』を愛する国かもしれません。愛されるには理由がある。『アニー』には愛される要素がいっぱいあるんです。

まず何といっても、耳によく馴染む、素敵な楽曲に満ちあふれていること。それは例えば、幕明け前の“Overture”(序曲)からすでに迫ってきます。

「♪朝が来れば トゥモロー いいことがある トゥモロー あした」の歌詞でおなじみ、“Tomorrow”の一節がトランペットで吹かれると同時に、真紅の幕の中央部にライトが当たりイラスト・ロゴが浮かび上がる。「いよいよ、これから『アニー』が始まるんだ」という、その嬉しさだけで涙が込み上げて来ます。間髪を入れず“It's The Hard-Knock Life”と“You're Never Fully Dressed Without a Smile”のメロディが畳み掛けて来て、やがて“Tomorrow”へと帰結するアレンジの妙に、早くもうっとり。

有名な“Maybe”や“Tomorrow”もさることながら、個人的にお気に入りNo.1は、“I Think I'm Gonna Like It Here”。アニーがクリスマス休暇を過ごすためにやって来た大富豪ウォーバックス邸を、グレイス秘書に案内される場面で歌われます。そこには使用人たちが沢山働いており、彼らによる群舞がまた見ものなんです。公開ゲネプロで、黒川桃花ちゃんがその小さな身体を軽々と持ち上げられ、くるくるくる〜と振り回されたりする様子は、とっても楽しかった!

ちなみにこの場面、最新の映画版ではウォーバックスさん(映画ではスタックスさん)の家の中は「無人」状態でした。物語の設定が現代に置き換えられているので、21世紀における富の象徴が、全自動化された「無人」になってしまった。しかし舞台は、やはり生身の人間が多数出てきてこそ映える。それがミュージカルの醍醐味。その点がまた舞台版『アニー』の大きな魅力の一つとなっていることも確かです。

名演技に注目

『アニー』に欠かせない存在、相棒の犬・サンディ。三谷幸喜の芝居『グッドナイト・スリイプタイト』には、「アニーになりたかったけれどなれずに、犬の調教師になった大人」のエピソードがありました。アニーになりたい歴28年のわたくしも大変共感いたしました。

孤児院から脱走したアニーは「みなしごのピクニック」中に街で野良犬と出会い、“Tomorrow”を歌います。犬は野犬捕獲人につかまりそうになりますが、アニーが「自分の犬だ」と言って助けます。名は「サンディ」だと。捕獲人に「サンディね。呼んでちゃんと寄って来たら、君の犬だと認めよう」と言われ、アニーはその要求に見事応えることができる。

なぜ、アニーはその犬に「サンディ」と名づけるのか? そして、なぜ、会ったばかりのアニーが「サンディ」と呼んだら、寄ってくるのか? そこは実際の舞台でのお楽しみ。アニーの目線と仕草によーくご注目ください。

そのサンディの芸達者ぶりも、毎年お見事。孤児院から脱走したアニーは「みなしごのピクニック」中、「フーバービル」と呼ばれる失業ホームレスたちの集まる掘っ立て小屋街で「熱々の何か」をふるまってもらいますが、普段冷めたお粥ばかり食べさせられているので「熱々の何か」を口にして「オエッ」…。それをすぐサンディにあげてしまいますが、サンディもあまり食べず、文字通り「犬も食わない」名演技! 公開ゲネプロでは、「フーバービル」を撤去しようとする警官が来る直前から激しく吠え騒ぎ、危険を知らせてくれました。

その後、アニーは孤児院のミス・ハニガンのもとに連れ帰されてしまいますが、孤児たちをいじめるミス・ハニガン役は、今回ミュージカル初挑戦の青木さやかさん。これまで『アニー』の大ファンだったとのことで、観る側から出る側にまわったという(うらやましい…)。囲み取材では自ら「上手です!」とおっしゃっていましたが、お笑い出身だけあって「間」が絶妙。コワいながらもコミカルという独自のハニガン像を造形されていて新鮮でした。

そんなミス・ハニガン、いつもラジオドラマを聴いているのですが、劇中これが少しずつ展開していきます。この内容が実は面白いので、ぜひご注耳ください。

色々な楽しみ方

「フーバービル」について。「フーバー街」とでも訳すのがよいでしょうか。このフーバーは劇中にもその名が出てくるFBIの初代長官ジョン・エドガー・フーバーのことではありません。フランクリン・ルーズベルト大統領(民主党)の一つ前の大統領ハーバート・フーバー(共和党)を指します。大恐慌もフーバー前大統領の失政によるものとされ、それが元で仕事も家も失った人々の集まった場所を民主党が非難を込めて「フーバービル」と呼んだのです。現在の日本版には出てこないのですが、実はオリジナル版の中に、その名もまさに“Hooverville (We'd Like to Thank You, Herbert Hoover)”という曲が入っています。

他にもフーバーの名は色々なところで皮肉たっぷりに使われ、「フーバーブランケット(毛布の代わりに古新聞を使うこと)」、「フーバーフラッグ(何もないポケットを裏返しにすること)」などという言葉も造られました。劇中、これらを思わせるセリフについて、アニーが気の利いた返しをしますので、お聞き逃しなく!

アニーはやがてホワイトハウスに招かれ、ルーズベルト大統領に対してある重要な政策的サジェスチョンを与えます。それはアニーが「みなしごのピクニック」でお世話になった「フーバービル」の人々を救うことにつながります。一体何でしょう?  さらに。ウォーバックスさんの秘書グレイスが「どんなことをしてもあなたの両親を探し出す」と言いますが、はたしてその方法と結果は? これらは実際の芝居の中でお確かめください。スケールの大きな答えを見出すことができるはず。

ときにアニーが辿り着いた「フーバービル」は59番ストリートブリッジ付近でしたが、このようにニューヨークの地理が随所で描かれているのも『アニー』の楽しみの一つ。

孤児院から遠くの場所に出かけたことがないアニーに、ニューヨークを案内するウォーバックスさん。ブロードウェイのマジェスティックシアターまで「たった45ブロックじゃないか」と歩くシーンがあります。他の場面では、ウォーバックス邸の住所が「5番街987番地」と分かったりもします。わたくしも実際ニューヨークでマジェスティックシアターから45ブロックでその場所に辿り着くかを実地検証したことがあります。現実としてウォーバックス邸はありませんでしたが、目の前に壮麗なメトロポリタン美術館、また付近には螺旋型建築のグッケンハイム美術館もあり(最新映画版にも出てきた!)、いかにも大富豪が住んでいそうなエリアではありました。

このように、良いミュージカル作品は、歴史・地理など色々な角度から観客に色々な想像や興味をかき立たせます。そこから明日を生きる希望がどんどん湧いてきます。まさに『アニー』は、その最たるもの。皆さんもぜひ新国立劇場の客席で今年の『アニー』をお楽しみください!

[取材・文=ヨコウチ会長]

公演概要

ミュージカル『アニー』

<公演日・会場>
2015/4/25(土)〜5/17(日)  新国立劇場 中劇場 (東京都)

※大阪、愛知公演も発売中!!

<出演・キャスト>
出演:黒川桃花(アニー・スマイル組)/前田優奈(アニー・トゥモロー組) 三田村邦彦/青木さやか/木村花代/崎本大海/甲斐まり恵 ほか

2015-04-27 16:58 この記事だけ表示