明治座 五月花形歌舞伎 公開舞台稽古をレポート![公開稽古レポート]

「明治座 五月花形歌舞伎」で上演中の『男の花道』で市川猿之助と市川中車が共演。江戸時代に実在した歌舞伎役者と医者をモデルとするそれぞれの役を、ふたりは持ち味を生かして好演。見応えのある舞台となっている。初日前日にマスコミ公開された舞台稽古の様子をレポートする。

猿之助、中車の『男の花道』に 友情を越えた奥深い結びつき

 市川猿之助扮する加賀屋歌右衛門が演じる『櫓のお七』。その舞台が佳境に差しかかった時、芝居が突如中断した。すると、客席のあちこちから野次が飛ぶ。劇中の中村座の客を演じる俳優が、いつの間にか現実の明治座の客席に紛れ込んでいたのだ。

 ざわめく客に歌右衛門は恩人である土生玄碩が危機にあることを告げ、芝居を中断して玄碩のもとへ駆けつけたいと必死に訴える。その熱意に冷静な報道関係者も身を乗り出す。そして「行って来い!」の声が飛び交い……。
『男の花道』のクライマックスは、まるで芝居のなかの中村座に紛れ込んだような雰囲気のなか、劇的な盛り上がりを見せる。江戸時代に実在した役者を演じているのは現代の歌舞伎俳優、観客はクオリティー高い『櫓のお七』を楽しみながら、不思議な感覚に身を委ねることになるのだ。

 長谷川一夫主演の映画と舞台で有名なこの作品は、数々の俳優によって上演されて来た。猿之助バージョンの大きな特徴は、冒頭に「大坂道頓堀中の芝居の芝居前」の場をつけたこと。ここで、芝居を観た眼科医の土生玄碩は、歌右衛門が目を患っていることを演技の有り様から見破る。

 玄碩を演じるのは市川中車。古典とは異なる経緯で歌舞伎として上演されるようになった作品の風合いに、香川照之としてのキャリアが生かされる。当時最新のオランダ医学をシーボルトから学んだ医師としての誇り、世間に惑わされず独自の道を突き進む男の気骨が滲み出る。

 失明寸前となった歌右衛門は、東海道の旅籠で死を決意する。その宿には玄碩も宿泊しており、玄碩は歌右衛門に手術を申し出る。死ぬほどの覚悟があるのなら、自分も難しい手術に命を賭けると言う玄碩に、歌右衛門は……。

 役者と医者、歩む道は違えどもそれぞれに誇りを持って職分を全うすべく生きる男たち。そのふたりが共鳴し合い、信頼という絆で結ばれていく様子が臨場感を伴って伝わってくる。失敗すれば明るい未来のない、運命共同体の男たちだ。猿之助と中車が描き出したのは、友情を越え奥深いところで結びついた絆だった。

 だからこそ、冒頭に記した四年後の場面に説得力がある。

 さて、玄碩はどのような危機に直面したのか。そして歌右衛門は玄碩を救うことができたのか……。続きは劇場で。

 夜の部の『鯉つかみ』で大奮闘中の片岡愛之助がドラマ展開に重要な役で出演。また、江戸時代の芝居小屋や役者、旅籠の様子が垣間見られるのも興味深く、歌右衛門家の家紋である祇園守りの由来が語られるなど、プラスアルファーの楽しみも随所に散りばめられている。

[取材・文=清水まり]
[写真提供=松竹]

公演概要

明治座 五月花形歌舞伎

<公演日程・会場>
2015/5/2(土)〜5/26(火)   明治座 (東京都)

<出演・キャスト>
出演:市川猿之助/片岡愛之助/市川中車/市川右近 他

<演目>
【昼の部】
一. 歌舞伎十八番の内 矢の根 大薩摩連中

二.男の花道

【夜の部】
一、 あんまと泥棒

   湧昇水鯉滝
二、 通し狂言 鯉つかみ
   片岡愛之助宙乗りならびに本水にて立廻り相勤め申し候

2015-05-11 13:28 この記事だけ表示