21年前初演の伝説の舞台、平田オリザ作『転校生』が本広克行監督の演出で現代に復活! 21人のキラキラした若手女優たちがこの群像劇で開花していくさまにご注目!![稽古場レポート]

 1474名からオーディションで見事選ばれた21名の若手女優たちが本広克行監督の演出で、平田オリザ作の高校演劇のバイブル的存在の戯曲『転校生』に挑戦中だ。今年の春に平田の原作小説を本広の演出、ももいろクローバーZの主演で映画化、舞台化し話題となった『幕が上がる』。その平田、本広コンビが再び挑む、若手女優発掘プロジェクトがこの『転校生』なのだ。8/22の東京・Zeppブルーシアター六本木での初日開幕に向け、日々進化し続ける稽古場を訪ねて若手女優21人がひしめく稽古場を見学させてもらった。さらに稽古後には本広監督に直撃インタビューを敢行し、どのような舞台にしようと企んでいるかを聞いた。

同時多発の会話の妙が楽しめる、テンポのいい21人の群像劇

 稽古場に足を踏み入れると、ちょうどこの日2回目の通し稽古がスタートした直後の場面だった。舞台は教室。中央には21組の机と椅子が八角形のようなフォーメーションで並べられている。床の上の四方にテープを貼ることで境界線が示してあり、この線を越えて“教室”内に入ると同時に芝居をスタートさせるという約束事になっているようだ。

 本広が腕を上げて合図をすると、そのタイミングに合わせて動き出す女子高生たち。それぞれ2〜4人ほどのグループに分かれて“教室”内に順々に入ると、平田戯曲の特長でもある“同時多発”の会話があちこちで発生。耳を澄ませてそれぞれの言葉を聴いてみると、課題図書の話だったり、身内の病気の話だったり、身内の浮気に関する話だったり、同級生の妊娠の話だったり、教師の妊娠の話だったり…。それらの会話が同時多発に入り乱れるとはいえ、ふとした瞬間に全員の興味をひく一言が発せられると一瞬の間が際立ったり、全員が「エ〜ッ」とリアクションをとったり。これがテンポよく、なかなかのスピード感で進行していく。

 前半の場面転換は音楽教室から聞こえてくるかのような生ピアノの演奏が響く中、全員で「せーのッ」と机と椅子の向きを変えることで時間経過が表現されるという仕組み。本広は場面ごとに気づいた点をメモしながら、たびたび演出席から立ち上がって移動する。確かにこの人数、舞台の広さを考えると、座ったままではとても全体像はチェックできなさそうだ。とはいえ、途中で役者たちのそばにスッとよってタイミングの確認をしたりはするものの、決して芝居を止めることはなく着々と物語は進んでいく。

 シーンによってはかなりハイスピードのコントのようなやりとりもあり、スタッフ席からはたびたび笑いが漏れる。そしてよく見ると“教室”から退場した役者たちは全員、舞台奥にあるスペースに待機している。つまり上演時間中ずっと彼女たちは“舞台”に居続けるという仕掛けになっている模様だ。これはまたある意味スリリングで、上演中はライブでドキュメンタリーを観ているかのように思えるかもしれない。

 そして放課後となった“教室”でのラストシーン。2人の女子高生のやりとりを舞台奥から横一列で見守る19人たちの中には鼻をすする者、目をこする者が続出していた。切ない余韻が残りそうなこの幕切れには、こちらもつい胸が熱くなった。

 約1時間ちょっとの通し稽古がひととおり終わると早速「みなさん、各自の机のほうに集まってください」と声がかかり、席に着く21人。その前にまるで担任と副担任のように本広と演出助手のスタッフが立ち、ダメ出しの時間が始まった。役名と場面を確認しつつ、セリフのニュアンス、立ち位置の変更から、教室に入ってくるタイミング、廊下を歩く姿勢やリズムなど、丁寧な指導、細々とした注文が続く。それを聴く役者たちの真剣な表情も実に印象的で、ますます本番が楽しみになった。

続いて、稽古終了後には演出を手掛ける本広に稽古の手応えを聞いた。

「本当にいいものを作ろうとみんなが前を向いている感じがあります」

――この作品を今、このタイミングでやろうと思われた理由は。

 オリザさんの戯曲を演出してみたいなというのは以前から思っていたんです。これは21年前の戯曲で、かなり演劇界、小劇場界では評判になっていた脚本ですが僕はその当時は知らなくて。だけどある時、台本を開いてみたらビックリしたんです。多重に芝居が進行する台本で、これは自分には無理だな思いつつもどんどんやりたくなってしまって。それでオリザさんにやらせてくださいとお願いして、いいよっておっしゃっていただいたあとから『幕が上がる』の映画もやろう、演劇もやろうって話になったんです。だからそもそもは『転校生』が最初だったんですよ。

――そして今回は21人がオーディションで選ばれたわけですが。

 競争率、約70倍を勝ち抜いた人たちですからね。ガチでオーディションで選びました。芝居がうまいかヘタかもあるにはありますが、どっちかというと協調性のほうを重視しましたね。やっぱりこの作品はみんなで作るものなので、ひとり目立とうとする子がいるだけでたぶん崩れてしまう。オリザさんから習った簡単な方法があって、“見えない縄跳び”というのをやらせるとこれが一発でわかるんですよ。誰がリーダーになるなとか、この子は仕切ってくれるなとか。そうやって決めていきました。それと今回は『幕が上がる』と同じ学校という設定で同じ制服にしたんですが、それを聞いたオリザさんが新しい場面を作ってくださって、演劇部の吉岡先生の話を足したり、演劇部に所属する生徒の話をふくらませてくれたんです。あとはスマートフォンの扱いをちょっと増やして国の情勢が変わったところを変更したくらいでほとんど21年前の戯曲と変えませんでした。芝居の途中で読む新聞記事の内容もみんな、21年前に使ったものと同じですし。

――それなのに、まったく古さを感じさせませんね。

 そう、それだけ普遍的なんです。ただね、ギャグが古いんですよ(笑)。「だめだこりゃ」と「ガチョーン」と。だけどあえてそこは台本通りやりたいと思って、それでYouTubeで見たみたいなニュアンスを入れたりしています。

――稽古を重ねることで感じられる彼女たちの進化はいかがですか。

 やっぱりすごいですよ、本人たちには絶対に言わないですけど(笑)。選ばれし子たちなので、瞬時にやれちゃう。だからものすごく高度なことを要求しています。もう、毎日バンバン通し稽古をやっていますしね。きっとこの中から何人か、絶対に出てくるでしょうね。演出していても、すごくやりがいがあります。彼女たちも内部分裂もせず、いい感じにいい距離を保ってやっていますね。現役の高校生もいれば大学生もいて、一番上は28歳で。本当にいいものを作ろうとみんなが前を向いている感じがありますね。これは女子高の設定ですけど男子校バージョンや共学バージョンも面白そうで、それも演出してみたいななんて思ったんですが。でも野郎ばっかりの稽古場だったら、今みたいな感じにはならなそうな気もしますね。

――客席はどんな感じになりそうですか。

 劇場が広すぎると言葉が届かなくなるので、今回は客席の前方部分をステージにしているんです。稽古場にテープで貼って作った境界線の横は、花道というか客席の通路部分。あそこを歩いている時には役は消えているという仕掛けです。舞台上は教室の四角いところだけで、あとは廊下と、舞台奥のドレッサーの前では素の自分でいてもらうことになるので、だからこの舞台上で3つの人格があるという風に作っているんです。さらに舞台の左右には映像班がいて、両側からカメラで追い、表情をスクリーンに映し出します。その上、最も恐ろしいのは奥に長いスクリーンがあって、そこに台本のテキストがずーっと流れる予定なんです。

――でもセリフが全部スクリーンに出るというのは、役者さんにとって恐怖なのでは?

 だから「絶対間違うな」って言ってあります(笑)。でもオリザさんの台本って間違えるとどちらにしろ全部がガタガタになってしまいますから。だからこそ絶対にトチらないように、何回も何回も通すんです。本番までに、彼女たちをアスリートのように鍛え上げていくつもりですよ(笑)。

――では最後に、お客様へ監督からメッセージをいただけますか。

 演劇慣れしていない人が観ても楽しめるように作ろうとは思っています。僕はいつもそのことを一番に心がけてはいるんですよ。初めての演劇をこの『転校生』から入って、このあと他の演劇も観に行ってくれるようになったらいいなとも思いますし。そして演劇慣れしている人たちにはこの子たちのそれぞれの色をぜひ楽しんでもらい、映像の関係者たちにもたくさん観に来ていただいて次の仕事にキャスティングしてもらいたい(笑)。きっとみんな今後大きく羽ばたいていく女優たちなので、その誕生の瞬間を目撃していただければと思います。

――あの伝説の舞台を観た!って、のちのち語れるかもしれませんね。

 そうですよ。「あの舞台から始まった」みたいになっていくといいですよね。そういう意味では今はたくさんの卵を孵化させているような、そんな気分です(笑)。

[取材・文=田中里津子]

公演概要

転校生

<公演日程・会場>
2015/8/22(土)〜9/6(日)  Zeppブルーシアター六本木 (東京都)

<キャスト・スタッフ>
脚本:平田オリザ
演出:本広克行
出演:逢沢凛 秋月三佳 芦那すみれ 生田輝 石山蓮華
   石渡愛 伊藤優衣 伊藤沙莉 今泉玲奈 折舘早紀
   川面千晶 堺小春 坂倉花奈 桜井美南 清水葉月
   多賀麻美 永山香月 藤松祥子 南佳奈 森郁月
   吉田圭織 (50音順)

2015-08-19 18:29 この記事だけ表示