新キャストで2年ぶりに再降臨する寺山修司作、松本雄吉演出の舞台『レミング』で、溝端淳平と柄本時生が新境地に挑む![インタビュー]

 寺山修司生誕80年にあたる今年、またも新たな伝説が生まれようとしている。2年前に維新派主宰・松本雄吉の演出で上演された寺山修司作品『レミング〜世界の涯まで連れてって〜』が新キャスト、新演出で蘇るのだ。この舞台で中華料理のコック見習いコンビ、コック1のタロを演じるのは溝端淳平、コック2のジロを演じるのは柄本時生。大女優の影山影子は元宝塚歌劇団トップの霧矢大夢、そして畳の下に住んでいるコック1の母親には麿赤児が扮する。果たして2015年バージョンではどんな世界の涯を目指すのか、ちょうどこの日が初顔合わせだった松本と溝端と柄本に語ってもらった。

「今回は特に若い人に観てほしいんですよ。作るほうもそのつもりで、 ぜひ挑戦的なことをしたいと思っています」(松本)

――今回、2年ぶりに再び『レミング』に取り組もうと思われたきっかけは。

松本前回の上演時にそれなりに好評だったので、観られなかったお客さんが多かったらしいんですよ。寺山さんの作品は、ある種難しいお芝居なので僕も意外だったんですけど、大勢来ていただいたみたいでね。それとどちらかというと僕の演出作品というのは美術優先みたいなところもあるんで、その点ではPARCO劇場だとサイズ的に狭くてちょっと欲求不満もあったりして「いつかリニューアルしたいね」という話はしていたんです。前回は寺山さんの没後30年というタイミングだったんですけど、今回は生誕80年ということなので、うまいこと考えよるなあと思いました(笑)。でも僕もね、半分正直に言うたら前回は、わからない部分はそれなりで始めてしまって、俳優たちと稽古場で作っていく中で新しく発見したというか教えられたところが結構あったんです。そのくらい奥深い戯曲なんですね、それと僕自身がやっているようなこととも少しクロスするようなこともあって。それはある種の架空性というか、わかりやすく言うと“嘘”ということです(笑)。そういったことも含めて今回、再チャレンジしたいなと思ったわけですよ。それで出演者も、前回は八嶋智人、片桐仁というコメディアンふたり(笑)だったんですが、今度は青春像を描きたいと思ったのでこの溝端淳平くんと柄本時生くんにお願いすることにしました。

――そのおふたりは今回、この『レミング』という寺山作品に出演が決まって、どう思われましたか。

溝端寺山修司さんの作品はこれまでもいろいろな舞台で拝見していたんですが、俳優にとってはひとつの大きな壁であり、あこがれでもあり。寺山作品に出たいというのは昔からの夢でしたからね。しかも僕、今回の舞台のお話をいただいた時にちょうど、2年前の『レミング』に出演されていた松重豊さんと一緒に仕事をしていたんですよ。そんな中でお話を聞いたのがこの、他ではおそらく経験できない、松本さんが演出する寺山修司さんの脚本の舞台だったので。自分にとってはこれ以上ないお話で、正直な話、高い壁ではありますが、自分の身になる作品だとも思ったし。きっと、自分の知らない新たなものに出会えるでしょうし。逆に「俺でいいのかな?」とも思いましたけどね。

柄本僕も寺山修司さんの作品を演じるのは、これが初めてなんです。どこかでチャンスがあればやってみたいとは思っていたんですけどね。それこそ毎年やっている、兄貴(柄本佑)とのふたり芝居の時にでもやれたらと思ったんですが、なかなかふたり芝居だと難しくて。いつもは別役実さんの脚本をやったりしているんですが。

松本ああ、そうか、そうか。ふうん。じゃあ、通じるものがちょっとあるね。

柄本そうなんです。だけど脚本を読んでも基本的にはわけがわからないんですが(笑)、それでも寺山さんの作品がやれるというのはすごくうれしい。ミゾもさっき言っていましたけど、こういう仕事をしていたら寺山作品をやるのは夢みたいなものですからね。

――おふたりが演じるコック1とコック2は、ラップのようなかけあいの応酬の場面がものすごく印象的でした。

松本さっきまさに台本を渡して、そこの場面は大変だよと話していたところなんですよ。7拍子というリズムに合わせてこのふたりがラップのかけあいというか、ある種の音楽漫才みたいなものを披露しますから。

――観る側としても、あの場面はとても楽しみです。

松本ふたりは相当緊張するだろうなあ。たぶん、本番中に1回くらいは失敗するんじゃないかと思いますよ(笑)。

柄本いやあ〜、1回で済んだらバンバンザイですよ。

溝端ハハハハ。

松本いや、これは1970年代くらいの戯曲なのでね、それをいかに今の時代にまで引き寄せようかと考えたら、やはりより若い彼らに演じてもらうことだなと思ったんですよ。それなら、お客さんに同世代がやってるという感じで観てもらえるからね。いつも稽古場では俳優たちと意見を交換しながら作っていくので、今回もどんどん彼らの疑問点を盛り込んでいくつもりです。ある種『レミング』は『都市論』のような部分もあるんです、「東京ってなんやねん」みたいなね。だから寺山さんが感じていた都市論と、溝端くん、時生くんが感じる東京論とを照らし合わせてみる作業もしてみたいと思っています。特に今回は、若い人に観てほしいんですよ。作るほうもそのつもりで、ぜひ挑戦的なことをしたいと思っています。

「特に若いお客さんは、きっと僕らに感情移入しやすいんじゃないかな」
(溝端)
「寺山作品は平成の次の元号あたりで時代が追いつくくらいに新しく感じる」
(柄本)

――寺山作品の魅力は、どういったところに感じられていますか。

柄本うーん、やっぱりよくわからないところが僕はすごく好きだなーと思うんです。実際、うちの家系のせいなのか……。

溝端家系?(笑)

柄本うん。こういう家系なので、寺山さんとか別役さんとか、ベケットだとか『ゴドー』だとかそういう作品を観てきたので「わからないことがわかる」みたいなところがあるんだ。「ああ、こういう人たちの作品ってよくわからないものなんだな」ってことがわかったというか(笑)。でもそういう作品って、想像力が発揮できるから楽しいんですよね。

溝端うんうん。

柄本もし、今も寺山さんが生きていて、今回の舞台を観て怒ってくれたら面白いのになと思ったりもします。怒るというか「俺はこんなつもりで書いたんじゃねえ」なんて言ってもらえたらなあ。なんだか、そんなことばっかり考えちゃいますね。

溝端確かに、わかりやすくないところも魅力だけど、ひとつひとつのセリフがものすごく綺麗で、心に刺さってくるものがあって。セリフひとつだけをとっても、すごく残るんですよね。わけのわからない浅い会話が続くわけではなく、ひとつひとつがものすごく考えさせられるセリフなので、時生が言うようにとても想像力をかきたててくれますし。しかもこれが、役者をある意味苦しめるセリフでもあるんだけど(笑)。でも僕らが苦しんでいるほうが、観ているお客さんはきっと面白いだろうと思いますからね。

松本ハハハ、そうだね。僕も、彼らが言っていたみたいにわからない部分も大事にしたいなとは思っているんです。それを浅知恵でわかりやすくしたいとは思わない。わかりにくいところはわからない良さとしておきたい。というのは、演劇の場合は頭でわからなくても体感的にわかることがあるからね。「よくわからんけどひきつけられる」というのは、身体的なことだと思うんです。「なんだかやたらカッコいい」とか「合う」とか「サブイボ出る」とかもそう(笑)。

溝端・柄本ハハハハ。

松本いろいろな反応があると思うけど、それは絶対、頭で理解することではないから。そういう意味でもできるだけ、音楽とか照明、美術などに力を入れて、大事に取り組んでいきたいですね。それと溝端くんも言うように寺山作品は言葉が綺麗ですよね、やっぱり短歌の作家なのでね。特にふたりのセリフなんかは、言葉が何かの事象を説明するのではなくて。お客さんがその言葉を聴くことによって、一枚の絵を思い浮かべてくれたらええなと思っているんです。だから観客が2000人おったら、それぞれの頭の中で2000枚の絵ができるはずだというか。受け取り方はみんな各自で、ちゃうと思うのでね。

溝端今、サブイボ出ました(笑)。そうですよね。100%理解できなければ「わからなかった」と言う人もいるかもしれないですけど、みなさんそれぞれ自分なりの解釈でいいわけですから。わからないこともそのまま受け止めて、ナマの舞台で感じられる、美術だったり、匂いだったり、声だったり。それらを感じ取って思ったことがそれぞれ正しいんだと思っていただければと思います。だって、パッと若い人がこの作品を観て「わー、寺山修司、すっごいわかっちゃったー」って言い切ってるほうがむしろおかしいので(笑)。だって、出ている俺らですら。

柄本わからないことだらけなんだから(笑)。

溝端ですからぜひ、みなさんもわからないことの素晴らしさ、楽しさを追求していただければと思います(笑)。

柄本まあ、こういう舞台って、どこか趣味の世界にもなってきますから。それに、基本的に寺山修司の本でも何でもそうなんだけど、こういう作品って最近書かれたものよりもかえって新しいと思うんですよ。今は平成の時代ですけど、寺山修司さんの本はもっと先の、平成が終わって次の元号になったあたりでやっと時代が追いつくくらいなんじゃないかと、僕は思っていて。

溝端すげえ、大きなことを言うなあ(笑)。

柄本ま、だからとにかく劇場に観に来て、それをただ楽しんでもらえればいいと思うんですよ。それに、来てくださると、僕らが助かるのでここは人助けだと思って(笑)。

一同(笑)。

柄本ともかく舞台というのは、観に来てもらわないことにはね。

溝端僕らも平成生まれで、もちろん「これが寺山です!」みたいなことはできないしね。絶対、ドヤ顔で舞台には立てない(笑)。

柄本そりゃそうだよ(笑)。

溝端そんなこともあって、特に若いお客さんはきっと僕らに感情移入しやすいんじゃないかな。同じ目線、同じ立ち位置で一緒に、寺山さんの世界を楽しんでいただければと思います!

[取材・文=田中里津子]
[撮影=坂野則幸]

公演概要

音楽劇『レミング〜世界の涯まで連れてって〜』

<公演日程・会場>
2015/12/6(日)〜12/20(日)  東京芸術劇場 プレイハウス (東京都)
2016/1/8(金)  愛知県芸術劇場大ホール (愛知県)
2016/1/16(土)〜1/17(日)  森ノ宮ピロティホール (大阪府)

<キャスト・スタッフ>
作:寺山修司
演出:松本雄吉(維新派主宰)
上演台本:松本雄吉/天野天街(少年王者舘主宰)
出演:溝端淳平 柄本時生 霧矢大夢 麿赤兒
花井貴佑介 廻飛呂男 浅野彰一 柳内佑介 金子仁司 ごまのはえ 奈良坂潤紀 岩永徹也 奈良京蔵 占部房子 青葉市子 金子紗里 高安智実 笹野鈴々音 山口惠子 浅場万矢 秋月三佳

2015-08-26 14:51 この記事だけ表示