日本映画の傑作『幕末太陽傳』を江本純子の上演台本・演出により舞台化! 破天荒だが粋で憎めない佐平次役に、青木崇高が挑む![インタビュー]

 さまざまな映画人、演劇人に影響を与えたと言っても過言ではない、川島雄三監督による映画『幕末太陽傳』。古典落語の『居残り佐平次』や『品川心中』、『三枚起請』などさまざまな噺をひとつの物語として紡いだストーリーはまさに傑作だ。この不朽の名作が、毛皮族主宰の鬼才・江本純子による上演台本、演出で舞台化されることになった。そして映画版でフランキー堺が演じていた“居残り佐平次”を演じるのは、これが舞台初主演となる青木崇高。数々の映像作品で印象に残る演技を披露してきた青木がこの舞台で果たしてどんな佐平次像を作り出し、それを演じ切るか、興味は尽きない。さらに田畑智子、MEGUMI、小林且弥、矢田悠祐、高橋龍輝ら個性の強い役者たちも加わり、猥雑でエネルギッシュな時代劇が繰り広げられそうだ。9/4の初日を前に着々と稽古が進む都内下町の某スタジオを訪ね、青木に作品への想いを語ってもらった。ちなみに取材当日は夏祭りの真っ最中。稽古着の浴衣のままで外に出て近所を練り歩いていた神輿の前でポーズを決めれば、現代版佐平次が早くもここに降臨した!

翼のない、力を持たないヒーローともいえる佐平次は美しくて魅力的

――『幕末太陽傳』を舞台化すると聞いた時には、どんな感想を持たれましたか。

 まずは「佐平次は誰がやるんだろう?」って思いました。そうしたら、自分にという話だったので「これはこれは!」と思いましたね。

――出演することはすぐに決心がつきましたか、それとも悩みました?

 わりと早かったほうじゃないですかね。とんでもないことだなとも思いましたけど。原作の映画のことは当然知っていて、ブルーレイで持っていたくらいですし。一応、悩みはしたんですが、変な言い方ですけどどのみちやるんだろうな、これは挑まないといけないことだとも思ったので、迷う気持ちには「黙れ」と自分で言い聞かせて「はい、やります」と言いました。

――映画版のどういうところがお好きでしたか。

 この映画を初めて観たのは自分が20代の時で、当時はこの面白さがそれほどわかっていなかったんです。でもその10年後にまた観てみたら、その間に落語に出会ったりしていたこともあって面白さがわかるようになっていた。強い力で制圧するヒーローや特殊な能力を持っているヒーローではなく、ただ常識というものをはずして自由な発想の中で生きるということだけでひょうひょうと市井の世界にヒーローとして存在できるのが佐平次なんですよね。また、この脚本の妙も魅力です。きっと今観ても違う魅力が見つかるだろうし、さらに5年後、10年後に観てもたぶん楽しめると思う。そういう意味でも本当に懐の深い傑作だと思います。

――改めて、佐平次の魅力とはどういうところでしょうか。

 物語の舞台は幕末とはいえ、たぶん普遍的なものがあると思うんですよ。今だってみんないろいろと不平不満を持ちながら生きている社会じゃないですか。その中を逆手に取って自由に生きていく。そんな翼のない、力を持たないヒーローの姿は美しいと思いますし、逆を言えばそういうものにがんじがらめになっている人たちが多いからこそ、みんな佐平次を羨ましく思うんじゃないかな。結局、何を持っているとかそういうことではなくて、どういう精神でいられるか。そこがたぶん佐平次の魅力でもあり、きっとあの精神とか、思想とかそっちなんでしょうね。佐平次本人としたら、いろいろなことを考えているだろうし、孤独もあるでしょうし、悲しみも実は人一倍持っているのかもしれないですけど。

――今回の上演台本と演出を手がけるのは江本純子さんです。江本さんのことは以前からご存知だったんですか。

 お名前はもちろん知っていましたけど、舞台は拝見したことがなかったんですよ。とても自由な発想を持っていらっしゃる方で、女版・佐平次なのかもしれないなと思っています(笑)。常識をいかにはらえるか、いかにその瞬間から可能性を紡ぎ出せるかということを常に考えていらっしゃるみたいですし。あと、すごく年齢不詳な感じがします。まあ、僕と同世代ではあるみたいですけど、謎の経歴の女ですね(笑)。

『幕末太陽傳』と書いて、これは『挑戦』と読むんです!(笑)

――稽古場の雰囲気はいかがですか。

 僕はいい感じだと思っていますよ。あまり他の稽古場のことは知らないですけど、楽しくやれているんじゃないですかね。映像も演劇も、表現する、伝えるということでは一緒で相反するものでは決してないと思いますし。ただ、使っている筋肉が違うような感じはします。身体を動かすということはすごく好きなので稽古は面白いし、いろいろな発見もある。ただ、自分にとってはそれほど慣れていない世界ではあるので、そこに飛び込むということがまず重要だったんですよね。結果はもちろん大切ですけど、まずは挑戦することのほうが大事だった。もちろんいい結果が出ることを望みますが、その結果は選べない。だけど挑戦するかどうかは選べるじゃないですか。

――確かに、そうですね。

 常に挑戦はし続けなきゃいけないと思っているんです。この作品にしても、出演の依頼を断ることは容易です。それで、たとえばこの映画を観るたびに「実はこの舞台の話が自分にあったんだけどね…」ってある意味、自分の身を安全なところに置きながら、ちょっとかっこいい仕立てで語れたのかもしれない。でもそんなことより、とにかく挑戦するということのほうが重要だったんです。

――たとえリスクがあったとしても。

 いや、むしろリスクがあったほうがいいんですよ。リスクがあるからこそ飛び込まなければいけない。それこそが佐平次であり、この作品の精神性にもつながっているように思います。だから『幕末太陽傳』と書いて、これは『挑戦』と読むんです(笑)。それと同時に『本多劇場』と書いても『挑戦』ですね!

――佐平次とご自分とでは共通点ってありますか。

 わりとあるんじゃないですかね。わーっと楽しく騒ぎたいタイプだし、女性が好きだったりお酒が好きだったり。それでもひとりになりたい時はひとりでぼーっとしていたいほうだし。人間を好きなところや、それでいて束縛を嫌うところにもとても共感できる。昨日の稽古で別れの場面があったんですが、普通に俺、泣きそうになってたんですよ。たぶんこのキャラクターは自分と重ねすぎるとあぶねえなと思いつつ、でもまあそういうところも大事にしたいかな。と思ったりもしていて。そうやって、だんだん入れ込んできてはいるんですけど、佐平次は明るいキャラクターだったからそういう意味ではとてもありがたいです。

――入れ込んでもそれほど負担にはならない。

 そうですね。どちらにしろ、とても楽しく生きられるんで(笑)。でも一生のうちにはこういう素敵な役、素敵な作品をやれるということはうれしいことではありますから。自分としてはそういうサイズで見るようにしています。大丈夫かなと不安になったりした時も、いやいや、もっと俯瞰で見ればこの作品と出会えて挑戦できたことが喜びなんだから、その喜びで心の中を支配させるほうがいいんだと思うようにしています。

――お客様にぜひ観ていただきたい、この作品の見どころは。

 それはやはり、佐平次の生き様ですね。自分自身もそこが惚れこんでいるところですし。あとはこれから作っていくのでどういう形になるかはまだわからないんですが、江本さんの作る世界観。女郎小屋にしてもそういう建物があるわけではなく、自分たちの芝居でそこにそういう空間を作っていくわけですから。それこそ『幕末太陽傳』という作品が持っているパンク性というか、既存のものを打ち破るような姿勢がそいうところにも出てくると思うんですよ。江本さんもきっと、ご自身が持たれてる佐平次的精神をすべてぶつけていくんだろうと思いますし。彗星のごとくやってきて彗星のごとく去っていく、でもそのあとにはなんだかいい風が残るようなすがすがしさがあるんじゃないですか。きっと台風一過の澄み渡った空みたいな感じが残る作品になりそうな気がします。

――ではお客様も観終わったあと、スカッと気分よく帰れそうですね。

 そうなると思います。これは僕が勝手に思っていることですけど、すごく二面性がある作品でもあると思うんです。生と死、男と女、愛憎、苦楽、墓場と女郎小屋、相反する陰と陽がすごくある。死がちゃんと介在するからこそ生がくっきりと際立つ、影があるからこそしっかりと強い光が感じられる。こういう作品で、こういう役柄を演じる体験を通じて、きっと自分自身もすごくいろいろ深いことを感じられるのではないかと、そんな気がしています。

[取材・文=田中里津子]
[撮影=渡辺マコト]

公演概要

舞台『幕末太陽傳』

<公演日程・会場>
2015/9/4(金)〜9/13(日)  下北沢 本多劇場 (東京都)

<キャスト・スタッフ>
【原作】映画『幕末太陽傳』((c)日活株式会社 監督:川島雄三
脚本:田中啓一 川島雄三 今村昌平)
【上演台本・演出】江本純子
【出演】青木崇高/田畑智子 MEGUMI 小林且弥/矢田悠祐 高橋龍輝
清水優 佐久間麻由/野中隆光 富岡晃一郎 加藤啓/宍戸美和公 金子清文/ほか

2015-08-26 17:20 この記事だけ表示