小出恵介×黒島結菜で描く、倉持裕の最新作舞台「虹とマーブル」初日開幕![観劇レポート]

 劇団ペンギンプルペイルパイルズを主宰し、不条理の中空に宙吊りにされるようなコメディ作品を得意としてきた劇作家・演出家、倉持裕。彼が作・演出を手がける最新作「虹とマーブル」は、1960〜70〜80年代の日本を、野心をもって生き抜こうとする男を中心に描く、新ジャンル挑戦の意欲作である。22日の初日に先駆けて公開されたその舞台稽古を観た(21日、世田谷パブリックシアター)。

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演劇人・倉持裕は新たな境地へと敢然と踏み込んだ。

 いずれも50分以内の三幕構成で、それぞれの幕ごとに60年代、70年代、80年代と時代が移り変わってゆく。昭和史を彩るさまざまな大事件への言及や、服装、ヘアスタイルなどで時代時代が表現される。スピーディーな展開ながら描写はしっかりなされており、くっきりとしたアウトラインの作劇が光る。倉持十八番の観る者を思わずクスリとさせる笑いも盛り込まれている。舞台いっぱいに作られたセットも、場面場面で鮮やかな変換を見せる(美術・中根聡子)。

 主人公の鯨井紋次(小出恵介)は小悪党。やくざ者の陰山桂三(小松和重)と意気投合し、あくどい金儲けにいそしむ。紋次の腹違いの弟、南田静馬(木村了)は頭脳派として兄を助ける。そんな彼らの前に現れた少女・芹沢蘭(黒島結菜)は、没落した名家の娘。政財界の大物を顧客とする銀座のクラブのオーナー、元吉冬香(ともさかりえ)の援助も受け、紋次は蘭をスター女優の座に押し上げ、興行界にも進出。だが、とある事件をきっかけに冬香と対立、堕ちてゆく紋次。蘭にも去られ、起死回生を狙う彼は、あの収賄事件へと手を染めてゆき――。

 主人公を演じる小出恵介は、激動の時代を生き抜くにふさわしいポジティブな泥臭さが役どころにぴったり。クールながらも心優しき弟を好演する木村と激しく心をぶつけ合うシーンは、作品の大きな見どころの一つだ。ヒロインに扮した黒島結菜は、これが初舞台とは思えない堂々とした舞台姿で、不思議な透明感があり、ギラギラとした時代を生き抜く人々の中にあって清涼剤ともなる。やくざな男を演じる小松和重は、物語大詰とそれまでとでの表情の違いが心に迫り、作品の深奥をも掘り下げる演技を見せる。欲望の時代を誰よりもしたたかに生きる冬香役のともさかりえは、淡々とした風情に却って底知れぬ凄みを感じさせる。彼女がモデルばりに着こなす個性的な衣装も目を楽しませる(衣裳・兼子潤子)。

 新ジャンル挑戦の倉持を、ペンギンプルペイルパイルズの三人の芸達者が頼もしく支える。ぼくもとさきこは、劇中“あどけない”とも形容されるあの独特の魅力の声をも武器に、緊迫感の中に好ましい笑いの脱力の瞬間をももたらす。二幕一場のあの時代ならではのいでたちは爆笑ものだ。小林高鹿は、紋次の相棒のチンピラ、チャラい芸能人、苦労人風の社長、商社マンなど、コスプレさながら、さまざまな役どころを演じ分けてみせる。陰山の舎弟のケチなやくざ、調子のいいテレビマン、国籍不詳のプロレスラー、そして大物政治家を演じる玉置孝匡が舌を巻く巧さ。コミックリリーフぶりがプロレスラー役で頂点に達したところから一転、政治家役で見せる重厚な存在感がたまらない。

 物語で描かれるところの欲望の病理は、80年代から30年を過ぎた現在でも今なおこの国に巣食う問題である。我々はどこから来て、どこへ行こうとしているのか。正面から向き合いながらも、笑いを忘れることなく、演劇人・倉持裕は新たな境地へと敢然と踏み込んだ。その今後を見守るためにも、見逃せない舞台である。

[取材・文=藤本真由(舞台評論家)]
[撮影=坂野則幸]

公演概要

M&Oplaysプロデュース「虹とマーブル」

撮影:三浦憲治

<公演日程・会場>
2015/8/22(土)〜9/6(日) 世田谷パブリックシアター(東京都)
2015/9/8(火) 島根県民会館 大ホール(島根県)
2015/9/10(木) 広島JMSアステールプラザ 大ホール(広島県)
2015/9/17(木) 仙台電力ホール(宮城県)
2015/9/20(日) シアター・ドラマシティ (大阪府)
2015/9/22(火・祝)〜9/23(水・祝) 刈谷市総合文化センター 大ホール(愛知県)
2015/9/25(金) アクトシティ浜松・大ホール (静岡県)

<キャスト・スタッフ>
作・演出:倉持裕
出演:小出恵介、黒島結菜、木村了/小林高鹿、ぼくもとさきこ、玉置孝匡/小松和重、ともさかりえ

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2015-08-28 13:25 この記事だけ表示