ノーベル賞作家ユージン・オニールの「演劇史上最高の自伝劇」と言われる『夜への長い旅路』。次男・エドマンド役、満島真之介にインタビュー![インタビュー]

 ノーベル賞作家のユージン・オニールが、自らの家庭をモデルに描き「演劇史上最高の自伝劇」とも言われている『夜への長い旅路』。様々な問題を抱える一家が、お互いの愛憎やわだかまりをむき出しにしていく様子を、朝から夜中にかけて定点観測するような視点で見せていく会話劇だ。一見特殊でありながらも、実は普遍的な家族の姿をあざやかに描いている本作で、オニール自身を反映した次男・エドマンドを演じるのが満島真之介。最初から親密な空気が生まれているという稽古場の風景や、まさに“旅”となりそうな舞台の展望について直撃してきた。

「家族に見える」という段階は、超えている。

――母親役の麻実れいさんと演出の熊林弘高さんは、デビュー作『おそるべき親たち』でもご一緒されていますね。

 そうですね。特に麻実さんの存在は、僕にはとても大きいです。(俳優)デビューという、この世界で僕が誕生した瞬間に立ち会っているからか、昔から僕のすべてを見てくれていたような感覚があります。それは熊林さんにしても同じ。だから「初めまして」から(稽古を)始めるのとは、全然違う感じがありました。麻実さんの体に触れると、一体になる感じですよ。壁も感じないし、すうっと磁石のようにくっつくのが当たり前という、そんな状態からスタートしていました。

――長男役の田中圭さんと、父親役の益岡徹さんは初共演です。そこはどう「家族」になろうと思っていますか?

 お2人との関係は、実際の男家族の関係性に近いんですよ。自分と父親もそうですけど、父と息子は生まれた時から、1人の男同士という距離感がある気がするんです。常に相手を気にかけているけど、あまりベタベタせず「背中を見ろ」という感じ。それは兄弟の関係もそうだし、今はそれがすごく絶妙なバランスになっていると思います。実際、まだ稽古が始まって一週間なのに、もう家族みたいになってるんですよ(笑)。「(この4人が)家族に見えるか?」という段階はもう超えたと思うので、今はもう少しその奥にあるものを探っている所です。

――戯曲を読ませていただきましたが、異常にト書きが多いですよね。

 そうなんですよ。特にエドマンドの台詞には、ほとんどト書きがあるんです。「気が抜けたように」「憎悪の目を向けながら」とか。やっぱりユージン・オニールが、自分の記憶や経験を赤裸々に吐露(とろ)したんだなあと。感情とかすべてが書かれていて、余白がないです。

――それって演じる側としては、がんじがらめになった気がしませんか?

 それは熊林さんとも話したんですけど、エドマンドと僕は生きる時代も違えば、環境も違う。だから利用できるものは利用するけど、むしろ自分の中から出てきたものを素直にやっていこうと。オニールはこう感じたんだろうけど、でも僕はこう感じるんだという、自分のト書きを作ればいいということです。それにこの役は、自分で作るというより、全員の呼吸で作るものじゃないかと思いますしね。実際の家族でも、一人で突っ走っても解決しないことってたくさんあるはずだから、みんなで一緒に作っていきたいなあと思います。

人間であれば、家族について何かしら考えることになる。

――ということは、ト書きから離れた物言いになっても別に大丈夫だと。

 そうですね。だから僕自身あまり固め過ぎないように…稽古前は「病弱な人ってどうなんだろう?(註:エドマンドは結核患者という設定)」という、ディティールばっかりに頭がいってたけど、もうそこは重要じゃないなと。むしろその日の状態を、そのままこの3人…家族と共有するってことになればいいと思うんです。日々の体調とか、投げかけられた台詞に対する素直な気持ちを、そのまま相手に投げ返そうと。だから多分、毎日芝居が違ってくる気がするんですよ。でもそれは間違いじゃなくて、ちゃんと“その日”の家族の姿を見せるということ。その日の足音や目線とかで、お互いの体調がわかるぐらいまで行けば、本物だと思います。

――ここに注目したら面白くなるかもしれない、というポイントはありますか?

 熊林さんが作るものだから、身体的なもので表現することも、たくさん出てくると思うんです。キス一つとっても、これは相手をごまかすためのキスなのか、本物の愛のキスなのか、とか。あるいは座る位置によって「あ、今はパーソナルスペースに入ってほしくないんだな」っていうのを、かもし出してくるかもしれない。文字では書ききれない部分を、どう身体で表すのかというのが、今回の肝になる気がします。

――観た人にとっては、家族について考えざるを得ない作品になりそうですね。

 人間であれば、何かしら考えることになると思います。他人同士が結婚して突然「家族」になることや、親と子は絶対離れられないもの。そういう今まで当たり前だと思っていたことに対する疑問が、ポンポン出てきているんです。もう演じている僕ら自身が、答がない世界に入った気がする。でもこれで僕らが答を出そうとするのは、あまり良くない気がしているんです。観ている人自身が家族という集合体に対して、ふと感じたものを持ち帰る事。それがいいと僕は思います。

――まさに家族について一緒に考える、長い旅路に出るような舞台に。

 そうなんですよ。正直言って他の芝居だと、割とストーリーに身を任せれば流れていけるっていうのがあるんですけど、これはずうっと動き続けている波のように、押しては引いての繰り返し。でも意外と、その波に身を任せたら面白いものになると思うし、それを感じてもらうしかないかもしれませんね。観てもらわないと何も始まらないし、旅にも出られない…という舞台になりそうです。観客の皆さんも、僕らも。

[取材・文=吉永 美和子]

公演概要

『夜への長い旅路』

<公演日程・会場>
2015/9/7(月)〜9/23(水・祝)  シアタートラム(小劇場) (東京都)
2015/9/26(土)〜9/29(火)  シアター・ドラマシティ (大阪府)

<キャスト・スタッフ>
作:ユージン・オニール 
翻訳・台本:木内宏昌 
演出:熊林弘高 
出演:麻実れい/田中圭/満島真之介/益岡徹

2015-08-28 18:33 この記事だけ表示