三上博史の渾身の演技に注目したい舞台『タンゴ・冬の終わりに』、その初日前日に行われた公開舞台稽古とロビー会見の模様をレポート! [公開稽古レポート]

 約30年前の初演を観た時から「いつかこの役をやりたい」と切望していたという三上博史が、その念願叶っていよいよ立つことになった舞台が『タンゴ・冬の終わりに』。清水邦夫によるこの脚本を、今回は映画監督の行定勲が演出する。待望の初日を前日に控えた9月4日、PARCO劇場にて本番さながらの公開舞台稽古が行われた。その様子を、直前のロビー会見の模様と併せてお届け!

自らと重なる役柄を「命がけで演じています」と三上博史

 まずは劇場ロビーに集まった記者やカメラマンたちの前に、演出を手がける行定勲、そして一幕冒頭場面の衣裳をまとった三上博史、倉科カナ、神野三鈴、ユースケ・サンタマリアが登場。登壇するなり「みなさん、ようこそいらっしゃいました!」と飄々と声がけするユースケに、会場は一気に和やかムードに。

 演出の行定は今回の舞台にかなりの手応えを感じている様子で「清水邦夫さんの脚本が本当に素晴らしく、特に僕は映画人なので映画館がこの物語の舞台になる設定にものすごく惚れこんでしまいまして。観客の方々に最後に持ち帰っていただきたいものは、主人公たちが発するセリフの中に込められています。そこをしっかり感じて帰っていただける舞台になっていますので、楽しみに観ていただければと思います」とコメント。

 主人公の元俳優、清村盛(きよむらせい)を演じる三上は「実はこの劇場で30年前、まだ自分がガキんちょの頃にこの芝居を観させていただいて、その時に「いつかこの役をやりたい!」と思ったわけなんですが。でも改めて台本を読み直した時には「失敗したなー」と思ったくらい大変な芝居なので、もうヘロヘロになりながら命がけで今、演じています」と、まずは苦笑い。実際、盛というキャラクターを演じるのはハードだったようで「とにかくずっとしゃべりまくっていますし、その一言一言が全部俳優としての言葉だったりするので、それが妙に自分と重なってしまってどうしても客観的には発せられなくて。自分自身を置いて演じようとは思っているんですが、どうもこの盛という役にのっかっちゃうんです。本当に苦しいけれど、それは喜びでもあるので、一言一言のセリフを大事に語らせてもらっています」と話し、役柄、作品への深い思い入れが伝わってきた。

 盛と以前、恋愛関係にあった若い女優、名和水尾(なわみずお)を演じる倉科は「台本を読んで自分でイメージしていた水尾と稽古に入ってからの水尾が180度違う印象だったので最初はとまどいましたが、でも毎日の稽古がとても楽しくて。みなさんがお芝居に向かう姿勢や考え方など、惜しみなくいろいろなことを教えてくださるので私もお芝居に真摯に向き合うことができました。明日から本番ですが、この愛憎の物語の中で激しく、しっかりと生きていきたいと思います」と笑顔で充実感たっぷりに発言。

 さらに精神のバランスを欠いた盛を支える妻、ぎん役の神野は「本当に今回は宝石のようなセリフが多くて。観客の方々、それぞれの心にも届くセリフがきっといっぱいあると思います。私の役に関しましてはひとりの才能のある男を最後まで見届け、愛し抜いた女性だと思うので、女性の方のみならず、誰かの人生を見届けた方、見るという立場の人たちにも届けられたらうれしいです。とにかく今は三上さん演じる盛のことを見つめ続けた、影のような存在になれるように、ぎんという役を作っています」と力強く語った。

 そして水尾の夫で売れない役者でもある名和連(なわれん)を演じるユースケは「今回は大人のカンパニーで非常に落ち着いた中、いい緊張感を保ちながら稽古を重ねてきました。あとはなんとか降板しないよう、明日の初日を迎えたいのですが、いまだにギリギリまで戦っています(笑)。僕が演じるのは、本当にみじめったらしい役。連は水尾と結婚しているんだけど、結局水尾の心に自分はいない。それを半分わかっていても、でも好きで仕方がないみたいなね。今までもみじめな役はいろいろやってきて自分の真骨頂だと思う部分でもあるけど今回はその集大成、みじめさを極めたいですね!」といつものハイテンションで応じた。

凄絶で美しいクライマックスシーンは必見

 続いて劇場内で行われた公開舞台稽古は、先ほどの会見中に「今日はゲネプロですが一切、力を抜かずにやります!」とユースケが宣言していた通りに凄味と哀しさが切々と伝わる、稽古とは思えないステージング。作品世界の良質さはもちろんのこと、役者たちのこの舞台へ賭ける思いが溢れ出るものとなっていた。舞台の上にはこちらに向かって古びた椅子が並べられ、廃墟のようでもあるがまさに映画館の客席そのもの。この物語は最初から最後まで、この昔ながらの映画館の場内で語られることになるのだ。なんだか知らずに迷い込み、映画館のスクリーンを裏側から覗いてしまったかのようなオープニングもとても美しく、印象的だ。

 日本海に面した、とある町。この古い映画館は盛(三上)の生家でもあるのだが、弟の重夫(岡田義徳)と叔母のはな(梅沢昌代)の会話から、どうやら近いうちに取り壊してスーパーに建て替えることが決まっているようだ。引退した天才役者、盛は客のいない客席で多くの時間を過ごしている様子で、妻のぎん(神野)のことを亡き姉と認識していたりしていかにも精神のバランスが崩れてきている。そこに若く美しい女優、水尾(倉科)とその夫の連(ユースケ)がやってくる。かつて盛と水尾は恋愛関係にあったのだが、盛にはその記憶がない模様。実は彼らを呼び寄せたのはぎんで、盛を正気に戻したいがための企みだったのだが……。

 後半になるまで真実のところがなかなか明らかになっていかない謎めいた物語展開はスリリングで、清水脚本のセリフのみずみずしさも相俟って雰囲気満点。物語が進むにつれ徐々に、しかし確実に狂気に蝕まれていく盛を演じる三上の凄味ある演技は必見ものだ。盛と連、三上とユースケが対峙する場面、水尾とぎん、倉科と神野ふたりのシーンもヒリヒリと迫力があって見応えあり。そんな緊張感溢れるやりとりの合間に繰り広げられる弟と叔母、岡田と梅沢との現実的な会話や、盛の見ている幻影たち(有福正志、有川マコト、小椋毅)の存在感がとてもいいアクセントとなっていてしばしばホッとさせられた。

 開幕前のインタビュー時に語っていたように、まさに舞台上で「身を削る」かのように盛という役を演じている三上の姿は凄絶そのもの。特に後半、盛が水尾と踊るタンゴもドラマチックだが、クライマックスシーンもとてもインパクトのある美しい名場面となっている。

『タンゴ・冬の終わりに』はこのあと東京・PARCO劇場での上演は9月27日まで。続いて大阪、金沢、福岡、愛知、新潟、富山、宮城でも公演あり、どうぞお見逃しなく。

[取材・文=田中里津子]
[舞台写真撮影=引地信彦]

公演概要

パルコ・プロデュース 『タンゴ・冬の終わりに』

<公演日程・会場>
2015/9/5(土)〜9/27(日)  PARCO劇場 (東京都)
2015/10/3(土)〜10/4(日)  森ノ宮ピロティホール (大阪府)
2015/10/12(月・祝)  キャナルシティ劇場 (福岡県)
2015/10/16(金)〜10/17(土)  東海市芸術劇場大ホール (愛知県)
2015/10/23(金)  りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 劇場 (新潟県)
2015/10/25(日)  富山県民会館 ホール (富山県)

<キャスト・スタッフ>
作:清水邦夫  演出:行定 勲

出演: 三上博史  倉科カナ 神野三鈴
岡田義徳 有福正志 有川マコト 小椋 毅 梅沢昌代
ユースケ・サンタマリア 他

2015-09-08 18:36 この記事だけ表示