
映画「SAYURI」のチャン・ツィイー、トリノ五輪のフィギュア・スケートで「トゥーランドット」を優雅に舞い、金メダルを獲得した荒川静香など、アジアの女性たちの美しさは今や世界を席巻しつつあるといってもいい。バレエやダンスの世界でもアジアのダンサーの勢いは目覚ましいものがあるのだが、この秋、ずばり「アジアンビューティ」をコンセプトとするバレエ公演が登場することになった。それが草刈民代のプロデュースする、「ソワレ Soiree de Danse Roland Petit〜ASIENCE Discovers the Asian Beauty in Ballet」である。
(c)Seto Hidemi
ローラン・プティといえば、20世紀の半ばから現在まで精力的に活動を続ける大振付家。『コッペリア』『こうもり』など、洒落たセンスに彩られた華やかな物語バレエや、ピンク・フロイド、デューク・エリントンなどの音楽を軸に振付けたプロットレス・バレエは、日本の観客にも高い人気を誇る。
いっぽう草刈は古典からモダンまで幅広いレパートリーを持つ、日本を代表するプリマだ。プティの作品にもたびたび出演し、クリアな踊りと恵まれたプロポーション、さらには持ち前の美貌で作品に得難い魅力を与えてきた。なかでも『若者と死』で踊った死神のうっすら霜をまとったような美しさ、『アルルの女』のヴィヴェットの透明な哀しみをたたえた演技などは、多くの人の胸に深い印象を残している。

プティの生まれ故郷パリを出発点に上海、台湾、香港、日本を巡演する「ソワレ」では、草刈が選んだプティ作品を、草刈をはじめとするアジアのダンサーたちと、プティの心を熟知したベテランのダンサーたちが踊る。中国では芸術祭への参加も決まっているといい、当地の関係者の意気込みが伝わってくるようだ。
このツアーに先立つ2005年6月、草刈はすでにプティ作品をセレクトした公演の企画・主演を体験している。愛・地球博の会場で上演された〈愛と祈りー星降る夜のパ・ド・ドゥ〉がそれだ。普通の劇場とは桁違いの約2万5千人という観客の前で踊り、圧倒的な期待と手応えを肌で感じたという草刈は、その経験を今回の公演にも生かしたいと考えている。
「プティはバレエの歴史の上でも重要な振付家ですが、作品は華やかで、純粋に踊りとしてわかりやすいのが魅力。踊り自体の楽しさを観客に伝えるにはぴったりです。スター・ダンサーが踊る場合はつい踊り手に目が行ってしまいがちだけれど、今回はぜひ作品そのものをじっくり見てほしいですね」
そう語る草刈が紹介する出演者は、いずれも確かな実力の持ち主。予定される7人のうち、プティの片腕として知られるルイジ・ボニーノと、ベルリンを中心に活躍するレモンド・レベックを除いた5人がアジアの血を引くダンサーである。まず注目したいのは、中国中央バレエ団のプリンシパル、ワン・チーミンとリー・チュン。幼い頃からきびしい身体チェックとレッスンを課される中国のエリート・ダンサーらしく、すらりとしたプロポーションと確実なテクニックはほれぼれするほど。『カルメン』『アルルの女』『タイス』などプティの代表作ともいうべきパ・ド・ドゥは彼らにまかされており、どんな演技を見せてくれるか期待が高まる。
(c)Seto Hidemi
草刈はレベック、リエンツ・チャンらとともに『ランデヴー』『ピンク・フロイド・バレエ』のパ・ド・ドゥを披露するほか、『チーク・トゥ・チーク』をボニーノと組んで踊る予定だ。愛知でも息の合ったところを見せた2人、今回も軽快なステップを見せてくれるだろう。さらに期待されるのは、プティが彼女とチャンのためにリシャール・ガリアーノの新作で振付ける新作だ。まだその全貌はわからないが、しなやかで都会的な草刈とたくましくエキゾティックなチャンは、見るからにプティの創作意欲を刺激しそうなカップル。どのような作品に仕上がるか実に楽しみだ。
観客を沸かせるという意味では、ボニーノがソロで踊る『チャップリン』や『コッペリア』も見逃せない。ことにお洒落な老人コッペリウスが自作の人形コッペリアを抱き、恋人同士のようにダンスを繰り広げる場面は、プティ本人の十八番として知られたもの。茶目っ気たっぷりのボニーノが踊れば、また独特の魅力が放出されることだろう。

愛妻ジジ・ジャンメールがそうだったように、プティはつねにその時代の最も美しく魅力的な(特に女性の)ダンサーたちと仕事を続けてきた振付家。フランスの粋を凝縮したようなその作品の中で、草刈、チーミンら、美しいアジアのダンサーたちの魅力が十二分に発揮されたとき、この公演はプティ自身にとっても記念すべきものになるに違いない。プログラムにはこの他にも、牧阿佐美バレヱ団で活躍するモンゴル出身のダンサー、アルタンフヤグ・ドゥガラーとチュンが踊る『プルースト』のデュエットや、『デューク・エリントン・バレエ』から4人の男性ダンサーと草刈が華麗に踊る『ソフィスティケイテッド・レディース』など、魅力的な作品が並んでいる。1人でも多くの人にぜひ足を運んでほしい。
文/新藤 弘子(舞踏評論家)
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