結成10周年を控え、劇団メンバー総出演!柿喰う客、18ヶ月ぶりとなる完全新作公演『天邪鬼』稽古場リポート![稽古場レポート]

 柿喰う客、1年半ぶりの新作本公演『天邪鬼』。覗いたのはその初日まで10日を切った、沸点ギリギリに熱した稽古の風景だ。登場人物全員が5歳児という設定に合わせたかのように、稽古場はかつて学校だった建物。一歩踏み込んだ瞬間から、自分まで虚構に取り込まれたような不思議な感覚にとらわれる。

会話はテレパシーで!? ハイ・テンション&ハイ・ボルテージの稽古から生まれる舞台は、演劇を遊び倒す野心作

 扉を開けると、既にウォーミングアップに余念のない俳優たちの姿が目に入る。外で打合せをしていたという劇作・演出家にして、代表の中屋敷法仁の登場とともに稽古が始まった。

 幕開きは恒例だというシアターゲーム(言葉と動きをさまざまに連動させ、集中力や想像力、反射神経などを磨く演劇的手法を活かしたゲーム)から。出演者6人で円を作り、言葉と、それに連動する動作を驚くべき俊敏さで互いにぶつけ合っている。稽古の準備運動のはずだが、身体能力の高い俳優がそろう柿喰う客では、その準備すら「芸」として成立させてしまう。今回、俳優としてもフル出場の中屋敷も、他の俳優に遜色ない反応のよさを見せていた。

 10分程度といつもより短めにゲームを終えると、早速芝居の世界へ。「頭からやるつもりだったけれど、稽古量の少ない場面からやろうかな」と中屋敷が言い、劇団員たちは少しの動揺もなくアクティング・エリアにスタンバイする。

 その日見た稽古の様子を表す言葉をひとつ選ぶなら、間違いなく「速い」だと思う。まず、中屋敷が次々に繰り出す演出上の指示、これがすこぶる速いのだ。

 演出家の「Go!」の掛け声とともに、俳優たちは指定したシーンを演じる。それを受け取るや否や、中屋敷は演技に加味して欲しいテイストを、独自の表現で矢継ぎ早に浴びせかけていく。

 「そこ、ブルース・ウィリスのようなたっぷりした感じで」「もっとスナック菓子みたいな芝居にして欲しいんだよね」「『目を覆いたくなる』と観客に思わせるような芝居をして」などのオーダーから、「みんなありがとう、楽しませてもらったよ」とカット箇所を告げる前の決めぜりふ(?)まで、中屋敷語録とも言うべき名言がズラリ。「脳の思考するスピードに、口の筋肉がついていけていないのでは?」という疑問すら生じるアヤしい早口は、慣れぬ耳では正直聞き取れない言葉も多々あるのだが、俳優たちはちゃんと意図をキャッチし、新たな引き出しを開けて見せている。

 なかでも抜群の反応の良さを見せるのは玉置玲央だ。バネのようにしなる身体は、言葉―思考―反応の過程をマッハで飛び越え独自の表現に変換する。自身の役に留まらず、後輩たちの場面や演技にも目を配り、演出のサポートとなるアドバイスまで渡す手つきは見事というほかない。

 抜群の安定感と多彩な表現で演出に応える七味まゆ味、トリッキーな声音や表情で視線を引きつける葉丸あすか、演技の硬軟明暗を巧みに操る永島敬三、高身長+末っ子感のミスマッチが魅力の大村わたる。飛び道具としてのキレと演技力を兼ね備えた、劇団員たちが立ち上がる劇世界に目を奪われるうち1時間半はあっという間に過ぎ、1回目の休憩に入った。

 休憩と言っても喫煙所に向かうメンバー以外は、各自の机で台本の確認などに余念がない。隙を見て、演出家の指示は聞き取れているのかを副団長・七味に問うてみた。柔らかい微笑とともに返ってきたのは、「ほとんどテレパシーでやり取りしている感じです」という言葉。さもありなん、という説得力たっぷりの解答だったのは言うまでもない。

 再開した稽古はさらにボルテージを上げ、立体化し始めた作品世界は、衣裳も照明もなく、音響すら仮のものしかない段階から見る者を引き寄せる。

 奇妙なリアルさで“戦争ごっこ”に興じる子どもたち。強靭な想像力が武器の彼らの闘いは、『桃太郎』など既存の物語の世界観を借りながら、次第に子どもたち一人一人の内面へと深く潜り、やがて彼らが抱える「闇」が見え始める。アニメやコミックから抜け出てきたようなデフォルメされたキャラクターたちが、一転していじめや虐待、環境汚染など日常に迫る危機にさらされる場面には、鳥肌が立つような凄みが感じられた。それら危機を時に揶揄しながら、また時には悲痛なまでの真摯さで受け止め、傷つきながらも子どもたちは戦いをやめない。そのタフさは、柿喰う客の芝居づくりそのもの。どんなに重いせりふ、シリアスな場面づくりに臨むときでも、芝居づくりの喜びを手放すことのない中屋敷を筆頭にした劇団員たちのありようが、劇中の子どもたちにそのまま重なる。

 気づけばまた1時間余りが過ぎ、稽古は二度目の休憩に入る。

 膨大な言葉と動きにまみれた3時間は、見ているだけの身をも消耗させる。だが、俳優たちにも演出家にも疲れは見えない。

 遊びに夢中の子どもたちが、早く訪れる夕暮れに不満を抱くように、彼らも演劇を遊ぶ限り、飽くことは知らないのだろう。『天邪鬼』はそんな、演劇の“恐るべき子どもたち”が能力全開で遊ぶ世界の物語。向き合う観客もまた、劇場で彼らの遊びに巻き込まれ、思いもよらぬ“ごっこ”を体験できるに違いない。

[取材・文=尾上そら]

公演概要

柿喰う客 「天邪鬼」

<公演日程・会場>
2015/9/16(水)〜9/23(水・祝)  本多劇場 (東京都)
2015/9/25(金)〜9/28(月)  AI HALL (兵庫県)

<出演・キャスト>
【作・演出】中屋敷法仁
【出演者】七味まゆ味/玉置玲央/永島敬三/大村わたる/葉丸あすか/中屋敷法仁

◆柿喰う客『天邪鬼』出演者降板のお知らせ
『天邪鬼』に出演を予定しておりました深谷由梨香が妊娠により出演を取りやめることになりました。
深谷由梨香の出演を、楽しみにしてくださっていたお客さまをはじめ、関係各位に深くお詫びを申し上げます。
降板に関する詳細は、公式Webサイト(http://kaki-kuu-kyaku.com/)に掲載致しましたので、ご覧いただけますと幸いです。

曲目・演目:※各ステージ終演後、メンバーによるアフタートークを行います。
※9/21(月・祝)19:00 【乱】乱痴気公演、乱れ過ぎにご注意!?柿喰う客恒例「乱痴気」公演!!全配役をシャッフルして上演する特別ステージとなります。

2015-09-16 12:46 この記事だけ表示