中島らも幻の傑作戯曲『ベイビーさん〜あるいは笑う曲馬団について』出演の池田純矢&鈴木勝吾にインタビュー![インタビュー]

 希代の作家・中島らも没後11年となる今年、彼の幻の戯曲と呼ばれていた『ベイビーさん〜あるいは笑う曲馬団について』が17年ぶりに上演される。演出は、中島らもの劇団リリパットアーミー以外で唯一らも戯曲の演出が許されているG2。昭和16年の満州、慰問に向かうサーカス団に軍が視察に来たことから始まる謎の動物“ベイビーさん”をめぐる摩訶不思議な物語──独特の次元を彷徨う本作に挑む池田純矢と鈴木勝吾の、高まる胸の内とは。

どうしたらこのモノスゴくおススメしたい思いが伝わりますか?(笑)

――本作の出演が決まったときのお気持ちは?

鈴木最初の最初は「あ、また純矢と一緒だ」です(笑)。なにしろ今年はこれで3本目になるので。

池田もう半年くらいは一緒にいるかもね。

鈴木…というのもありつつ(笑)、ちょっと不思議な縁を感じました。というのも、僕の周りの若い役者たちと話していると、最近「G2さんの芝居に出てみたい」という声を良く聞いてて…。それまで僕はG2さんの舞台を拝見するチャンスがなかったんですけど、どんな方か気になってこれまでの作品なんかを調べたりしてたんです。出演のお話はその矢先のことだったので「おおっ!と」。自分にとっては急に来たチャンスという感じで、嬉しかったしビックリしました。

池田あれだね。G2さんのこと話してたうちのひとりは僕だと思うよ。

鈴木あ〜、そうだったかも!

池田うん。第一線で活躍されているG2さんといつかご一緒できるように、そのためにも日々頑張らないとって思っていました。今回、そこに主役として呼んでいただけるなんて「ウソだろ〜!」って感じ。それこそみなさんに「『ベイビーさん』やりますよ」って発表されるまでは、もしかしたら実現しないかもしれない、ウソかもしれない…って、ずっとドキドキしていました(笑)。

――謎の動物、ベイビーさんをめぐる不可思議な童話のようなこの作品世界の印象はいかがでしたか?

鈴木ピュアでありながらねじれているというか…自分自身、そういう風に生きていきたいなって思うこともあるので、そういう空気が台本から匂い立っているのはスゴイですよね。ベイビーさんが見る人によって様々な異なる動物に見えるという、現実の中の抽象的なところとかもスゴく好き。

――そもそも「ベイビーさんって、いったいなんなんだ!?」と思いますよね。

鈴木そこがずーっと曖昧なまま芝居が進んでいくのがまたなんともいえない気持ち悪さをまとってていいんですよ。むしろ、その気持ち悪さが僕らの芝居によって気持ちよさとして伝わったらいいな。ホントに面白い物語なので読んだときはスッと世界観にハマってしまいましたけど、同時に役者としては手強さと難しさも感じられて…でも今は面白いほうが勝ってます。いや、もっと複雑かな。手強い相手に手強いと思ってかかっていったほうがいいのか、むしろなにも考えず自然に向き合えばいいのか。役柄との兼ね合いもありますけど、そういうスタンスさえも悩んでしまう層の厚さもさすがですね。

池田僕は元々らもさんがスゴく好きで…作家としてだけでなくて、らもさんの様々な活動の全部が好みなんです。素晴らしいクリエイターです。『ベイビーさん』ももちろん初見からめちゃめちゃ面白くて思わず興奮してしまいました。ショー的に見せるところもあるし、コメディの要素も多いし、収束に向かってグッと心に迫る部分もあって。表面的にはとてもエンターテインメントな舞台だと思いました。で、さらにその裏側にもっと何重にも何重にも思いが積み重なっているのも感じられ…一筋縄ではいかない作品ですよ。20年以上前の作品なんですが、この時代のために書いたのかと思うくらい、今の社会の空気にもマッチしているのもスゴイですよね。

鈴木スゴい。やっぱり人間の中にある普遍的なテーマが核にあるからなんだろうな。

池田人によってベイビーさんがいろんな姿に見えるのって、目の前にあるものに対して誰もわからず、誰も決め付けず、誰も縛らないって状況ですよね? 僕はそこに「自由」を感じる。今はちょっとなにか動くとなんだかんだと評価され、決めつけられてしまうところがあって…特に表現をしようと思ったときに「自由じゃないな」って感じることばかり。この作品はそんな世間に向け、「誰もがなにかを感じるし、その感じたすべてが正解なんだ」っていう根本的なところを皮肉を込めて表現できるんじゃないかなって思います。

――鈴木さんが演じるのはサーカス団に拾われた戦争孤児の少年。池田さんが演じるのはサーカス団からベイビーさんを捕獲しようとする軍人の内海少尉。共に戦争の時代だからこそ存在したキャラクターです。

鈴木自分の固定概念からすると、戦争孤児の少年ってあまりにも辛い経験をし過ぎて荒んでるんだろうな、ダーティーになってしまっているところがあるのかなと思ったんですけど、彼はすごくピュアなんですよね。読みながらそれを感じたとき、すごく嬉しかった。過去にどんなことがあっても、残っている芯の部分は変わらない。確かに状況は悲惨だけど、彼は心の中がキレイなままで、ここからがまた人生の始まりになっていく――チラチラとですけどね、少年の核のところが見え始めているので、これからもっと知っていきたい。見つけた手がかりをたぐり寄せながら、少年を生きたいですね。

池田内海少尉はこの物語の中で一番“普通の人”なのかもしれない。当時、国のために戦う人々の意思ってスゴく強固なモノだったと思うので、彼はなにかをきっかけに自我が芽生えることを嫌っているんですよね。でもサーカス団に関わるうちにどんどん自分が自分に逆らえなくなっていくというか、本当の気持ちが抑えられなくなっていくんだけど…やっぱり表面上はそれを絶対出さないようにしている。難しいですね、とっても。表面上の台詞は固い軍人でも心はまるっきり逆の気持ち。でもそれを見せてはいけない。普通であるから突飛なことはできないので、あくまでも内面の芝居、心の内で動かせるところで創らないと成立しないですし。とても我慢が必要なキャラクターです。

――おふたりのファンの方々は、こうしたタイプのお芝居に出る姿を見るのは新鮮な体験かもしれませんね。

池田まあ…でもどんな作品でも演じるということに対する意識は同じですし、やっていることは変わりませんからね。台本があり、演出家の解釈に従いながら、自分の役をどう肉付けし血の通ったキャラクターにしていくか。

鈴木うん、同じだと思う。原作のある2.5次元作品でも、小劇場のストレートプレイでも、誠実に台本と向かい合えばおのずと結果につながるというか…その作品に必要な説得力のあるキャラクターとして存在できるので。逆にいうと、僕らを今回初めて観ると演劇ファンのみなさんにも、そこはもうみんな「同じなんだ」ってことを確認してもらえたらいいですね。

――では最後に改めて『ベイビーさん』本番に向けての意気込みをお願いします。

鈴木僕は最近「ひとりでも多くの人に、少しでも多くの作品を、少しでも違ったタイプの役とメッセージを以て伝えていきたい」っていう思いがスゴく高まっているんですけど、この『ベイビーさん』はまさにそんな気持ちにぴったりの舞台。観てくれた方に絶対に「面白い」と思ってもらえる多面的なお話なので…もちろんそれを具現化するのは僕たちですが…ああっ、もう! どうしたらこのモノスゴくおススメしたい思いが伝わりますか?(笑)。うーん…そうか、頑張りますので観てくださいね…としか言えないのか。でもホントに観て欲しいなぁ。頑張りますのでとにかく観に来てください! 

池田まずは…単純・純粋に「面白い作品である」というのはもう胸を張って言えます。素晴らしい戯曲と素敵な役者さんたちが揃ったら、劇場という空間に面白いモノが生まれるのは必然なので。そこは僕も今から胸を張ってます。もちろんただ面白いだけではなく、なにか人生観が変わるような出会いになるエッセンスが詰まった作品だとも思いますので…すべての人が変わるモノ、生まれるモノ、それぞれになにかしらを持って帰れる舞台です。どうぞよろしくお願いいたします。

[取材・文=横澤由香]
[撮影=平田貴章]

公演概要

ベイビーさん 〜あるいは笑う曲馬団について

<公演日程・会場>
2015/11/7(土)〜11/14(土)  Zeppブルーシアター六本木 (東京都)

<キャスト・スタッフ>
作:中島らも  演出:G2
出演:池田純矢 鈴木勝吾 井澤勇貴 入来茉里 /小須田康人/松尾貴史
久保酎吉 植本潤 木下政治 林希 坂元健児 六本木康弘 横山敬

2015-09-25 13:23 この記事だけ表示