ナイロン100℃『消失』11年ぶりにオリジナルキャストで復活![インタビュー]

 兄弟が住む部屋を舞台に、6人の男女によるワンシチュエーションの悲喜劇を描いた作品『消失』。2004年に初演されたこの舞台を大倉孝二、みのすけ、犬山イヌコ、三宅弘城、松永玲子、八嶋智人という、当時とまったく同じオリジナルキャストで再演する。基本的に登場人物たちのやりとりはやたら可笑しいのだが、やがて切なくなったりだんだん怖くなったりしつつ、根底に流れているものは愛だったりもするので、笑ったりしんみりしたりとさまざまな感情に浸れる稀有な作品でもある。劇団主宰で作・演出のケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)ならではの緻密に計算されたナンセンスな笑い、SF仕立ての独特の世界観が楽しめるこの傑作舞台について、再び久しぶりにナイロン100℃に客演する八嶋と、劇団の看板女優の一人でもある松永に語ってもらった。

「松永さんはこう見えて燃費の悪い、アメ車みたいな女です」(八嶋)

――今回、『消失』を初演と同じメンバーで再演すると聞いた時は、どんな感想でしたか。

松永なんといっても、初演から11年もたっているらしいのでね。あれから11歳も年をとってしまったから、八嶋くんに会った時に「『消失』でまたよろしくお願いします、だけど11歳年をとったから当時のあのけなげな感じはもうできないと思う」って言ったら。

八嶋いやいや、できるよ。

松永そう、「できるよ、今のほうがきっとさらに純粋だよ」なんて言ってくれてね(笑)。

八嶋5年くらいだったらそうでもないけど、確かに10年という単位になると人って結構、変わっているはずだとは思うんですよ。根本的には変わらないかもしれないけど、積み重ねというものが必ずあるはずですから、どんなにぼんやり生きていたとしても。そういう意味でも、これだけ時間がたってから改めて同じ作品を上演することって僕はすごくいいことだと思うんですよ。

――振り返ると初演時のことで、特に思い出されることってありますか。

八嶋さっき、パラパラっと当時のパンフレットを見ていて思い出したんだけど。これは僕なりの考えなんですけど、KERAさんのお芝居はナイロンの俳優さんがやるのが一番いいとずっと思っていたんですよ。だけど僕ひとりが客演した場合はそこでハマろうが浮こうが、どっちにしろKERAさんの作品としては成立できる気がしていて。つまり、異物が異物のままでいても構わないように思えたんですよね。だからそういう意味では前回同様、今回もすごく楽観的に考えています。それと僕は最初の1時間くらいは舞台に出てこないんです。だから前半は稽古場にいってもやることがなくて、みんなの芝居を見ては「ああー、みんなすごいなすごいな」と思ったりしていましたね。芝居以外では不思議な行動をしている人たちも多くて。

――それはどういうことですか?

八嶋まず、三宅さんはコンビニの袋がうるさい。

松永えー、そう?(笑)

八嶋稽古場で静かな時間でもガサガサガサガサなんかやってて。さすがにKERAさんが一回「三宅、うるさい」って注意していましたね。みのすけさんは基本的にご自分にものすごく興味が強い人で、KERAさんが僕にダメ出しをしている時、ふたりの間を平気で通ったりしてくるし。

松永そうだっけ(笑)。

八嶋みのすけさんには僕、逐一、注意してました。「そういうことしちゃいけないんだよ」って。こうして思い返すと、他にもいろいろありますよ。大倉くんは身体が弱くて、すぐ風邪をひくし、すぐしんどいって言う。犬ちゃんは、ふだんは「ワシが…」ってちょっと中性を気取っていますけど、思いのほかとっても女の子で、本当に少女のような部分があるんです。この作品で演じていたスワンレイクさんという役柄のせいかもしれないですけど、一緒におしゃべりしていると本当にかわいくって何度もキスしてやろうかなって思いましたよ(笑)。そして松永さんはこう見えて、ものすごく燃費が悪い。

松永アハハハ!

八嶋長めの芝居ではあったけど、それほどバタバタ走り回ったりするわけでもないのに、途中でものすごく大きなおにぎりを2個くらい食べないと「無理やねん、でけへんねん」と言い出して。

松永食べないと動けなくなっちゃうんですよ、本当に。

八嶋こう見えて、アメ車みたいな女です(笑)。

松永八嶋くんとは楽屋で一緒にいる時間が長かったからね。そのせいで八嶋くんもどんどん太っていったという。人が食べているのを見ると。

八嶋そう、つい自分も食べたくなっちゃうので。最初、KERAさんには「八嶋のパブリックイメージとは違うものをやらせたい」なんて言っていただいていて、それって役者としてはとても幸せなことだなと思っていたんですよ。つまり、結構カッコつけた役だったりもしたので。

「八嶋くんは客演なのに、誰よりも劇団員みたいだったよね」(松永)

――八嶋さんが演じたジャック・リントという役は、かなりハードボイルドなイメージのキャラクターでしたね。

八嶋はい。それなのに日々ちょっとずつ太ってしまって「カンニングの竹山さんみたいだ」って言われるまでになっちゃった。衣裳がツナギだったから、太るとダイレクトに丸くなって見えるんですよね。今回はそうならないように、松永さんのおにぎりは見ないようにしなきゃ。まだ、あのくらい食べてるの?

松永いやいや、ずいぶん減ってきたから、日本車程度ですよ。

八嶋おっ、ハイブリッドになってきた?

松永なったかなあ(笑)。私がすごく覚えてるのは、むしろ客演の八嶋くんのほうが誰よりも劇団員みたいだなーって感じがしてたこと。

八嶋ハハハハ。そうかもね。

松永八嶋くん自身もカムカム(ミニキーナ)の劇団員で、劇団というものを知ってる人だからというのもあるんだろうけど。KERAさんが何か言った時に誰も「はい」って返事をしないでいると「わかった時にはちゃんと「はい」って返事をしようよ」って。

八嶋そうそう。だって特にみのすけさんとか、聞いているんだか聞いていないんだかわからないんだもん。たとえ無言でも大倉とか犬山さんは聞いてる雰囲気があるけど、みのすけさんの場合は、こいつ本当に聞いてねえなって思う瞬間があったりするので。

松永そう、だから八嶋くんはちょっとチームリーダーみたいな感じだった。

八嶋いや、単にオバチャンなだけです。

松永あとみのすけさんに「失敗した時にはごめんなさいって謝ろうね」って。「ごめんなさい」という言葉をみのすけさんに教えた、貴重な人でもある(笑)。

八嶋そんなみのすけさんだけど、この『消失』という作品の中では抜群にチャーミングなスタンリーという役を演じてらっしゃるんですよね。もう…作品から飛び出してこなければいいのに…。

松永アハハハハ。だけど私、前回は自分がいっぱいいっぱいだったんですよ。初演のパンフレットで「松永を泣かせるのが今回のテーマだ」みたいなことをKERAさんが言っていたくらいに、この時演じたエミリア・ネハムキンという役は劇団公演で自分がいつもやるような役柄ではなかったものだから、何をしていいかわからなくって。最終的にも、さっぱりわからないままだったなあ。

八嶋へえ、そうだったんだ?

松永なんか、この役、苦手だなーってことだけが残ってた。

八嶋でもそういう葛藤みたいなものが見えたことで、松永さんが女優としてもだけど、役柄としてもよりセクシーに見えたんじゃないかと僕は思いますよ。

松永当時、自分がインタビューに「言われたことが何もわからなくて光も見えなくて、でもなにかになろうとはしている」みたいに答えていたのを読んで、「若いなぁ〜、一生懸命だったんだねえ、キミ!」って思っちゃった。

――じゃ、今回はまた、その役柄と違う取り組み方ができそうですね。

松永そうですね。でも年齢と共にどんどん、ずぼらであつかましくなってきてもいるから、どうなんでしょうねえ(笑)。

八嶋だけどさ、『消失』に出てくる人って全員がけなげだよね。そういう感じを持ったまんま、11年という時間をどういう風に僕らが醸し出せるか。まあ、わざわざ醸し出そうとしなくても出ちゃうんだろうけど、実際に腰とか膝とか痛くなってくる度合いも高いだろうからね(笑)。

――ではお客様へ向けて、お誘いのメッセージをいただけますか。

八嶋11年前、この『消失』をナイロン100℃の他の役者の方々が観に来てくれて「ものすごく良かった」と言ってくれたのを僕はすごく覚えています。そんな、KERAさんの作品を熟知している人たちにそう言ってもらえてとてもうれしかった。きっとお客様にとってもとてつもなくいい、それぞれの中に必ず何かが残る作品になると思います。ぜひとも、劇場でそういう感覚を味わってもらいたいですね。

松永どこがどういう風に面白いかを私もすごく説明したいんですけど…、そこを語るとどうしてもネタバレになってしまいますからね。とりあえずはどうにかしてチケットを買って、観に来ていただけたらうれしいです!(笑)

八嶋より、面白くなっているでしょうからね。チケットもそれほど高くないですし、東京は本多劇場にて約一カ月もやっていますから。二度、三度と来ていただいても、僕たちは一向に構いませんよ!(笑)

[取材・文=田中里津子]
[撮影=渡辺マコト]

公演概要

<公演日程・会場>
2015/12/5(土)〜12/27(日)  下北沢 本多劇場にて上演決定!

2015-09-25 18:44 この記事だけ表示