ミュージカルについての発見多い舞台――ラミン・カリムルー、「プリンス・オブ・ブロードウェイ」を語る[インタビュー]

  いよいよ10月23日に初日の迫った「プリンス・オブ・ブロードウェイ」。ブロードウェイの伝説的プロデューサー&演出家、ハロルド・プリンスがミュージカルと共に生きてきた人生をつづる、画期的な舞台の世界初演だ。彼が手がけた作品群の中から名場面、名ナンバーを抜粋、超一流のスタッフ&キャストが新たな演出&振付で臨む。「オペラ座の怪人」のファントム役や、「レ・ミゼラブル」のジャン・バルジャン役を務め、日本でも人気の高いミュージカル・スター、ラミン・カリムルーに、作品の仕上がりと意気込みを尋ねた。

ラミン・カリムルー インタビュー

――ハロルド・プリンスさんはあなたにとってどのような存在ですか。

 まさにレジェンドだよね。多くの役者、作曲家、演出家、プロデューサーたちに道を開いてきた。数々の成功を収め、それと同じくらい失敗もあったと思う。でも、成功も失敗もあったからこそ、彼は今の彼であって、敬意と信頼とを集める存在になったんだと思うんだ。実際に会うと、最初の日からもう友達だと思わせてくれる気さくな部分があって、そのことが役者としての僕に大きな自信をもたらしてくれた。そんな彼の人生を描く作品に出られることは光栄としか言いようがない。僕はスロースターターなところがあってね。今回は特に、「レ・ミゼラブル」に出演していてリハーサルに遅れて参加したから、キャストを見ていてちょっとおののいちゃって。みんな、作品に何か特別なものをもたらすことのできるすごい才能の持ち主ばかりだから、何回か、「ちゃんとやっていけるかな?」って、家にいる妻に電話しちゃったよ(笑)。なじんできてからはみんなともう家族のような絆で結ばれて、今ではこの作品に携わることは単なる仕事じゃなくて喜びに思えているんだ。

――他の方々はラミンさんを「すごい!」と思って見ていたかもしれませんよ。

 そうだといいんだけどね(笑)。でも、この作品に携わったことが、僕に新たなインスピレーションを与えてくれた。率直に言えば、もう「オペラ座の怪人」と「レ・ミゼラブル」からは卒業、そう思っていたんだ。もちろん、何事にも絶対はないけれども、いつまでも同じ場所にいるのではなく、限りなく成長していきたいからね。ただ、では自分は何を望んでいるのだろうと思ったら、それもすぐには答えが出なくて。もちろん、映画やテレビの仕事もしていきたいと思っているけれども。でも、今回稽古場で、シュラー・ヘンズリーの演じる「スウィーニー・トッド」のナンバーやトニー・ヤズベックの演じる「フォリーズ」のナンバーを見ていたら、これがもう本当にすばらしくてね。僕自身も「カンパニー」のボビーのナンバーを歌うんだけれども、ああ、「スウィーニー・トッド」もいいな、「カンパニー」もやってみたいなって、あれこれ夢が広がってきたんだ。

――この作品についてプリンスさんにインタビューしたとき、「昔はよかった」と過去を懐古するのではなく、すべてを新しくし、未来に向かっていく作品にしたいとおっしゃっていたのが一番印象的だったのですが、今のラミンさんのお気持ちともリンクするのかなと思いました。

 うん、僕が今後「オペラ座の怪人」や「レ・ミゼラブル」をやるとしても、今までとは違った風に取り組んでいきたいと思うし。そういう意味では今回、コメディあり、ダンスありとさまざまな事柄、役柄を学び、挑戦している中で「オペラ座の怪人」のナンバーも歌えるというのは、新たな風を吹き込めることになるなって、自分でも楽しみにしているんだ。

――出演シーンについて教えていただけますか。

 「オペラ座の怪人」や「ラブ・ネバー・ダイ」あたりは僕一人で担当するシーンだけど、グループで取り組めるシーンがとりわけ楽しい。「くたばれ! ヤンキース」の場面で始まるんだけど、みんな野球選手の扮装をしていてね。スーパーマン姿で登場するシーンもあって、ここではマリアンド・トーレスが見事な歌声を披露する。すばらしい歌手で女優である彼女のパフォーマンスにあれこれリアクションできるパートで、ここも気に入っている。「カンパニー」からはボビーのナンバー「ビーイング・アライブ」を歌うんだけど、今回の作品がきっかけとなって、いつか演じてみたい役の一つと思うようになった。生きてきていろいろあった中で、今こそあのナンバーがわかる、心に沁みるなと。「ウエスト・サイド・ストーリー」のトニーも担当するけれども、もう、最初の1音を聴いただけで、僕自身、作品世界に連れて行かれてしまうところがあるなと思うよ。

――出演していないけれども、観ていてすごい! と思うシーンはありますか。

 トニー・ヤズベックが「フォリーズ」のナンバー「ザ・ライト・ガール」を歌うんだけど、歌といい、演技といい、驚異的なんだ。これまでの人生で目にした中で一番すごいパフォーマンスだと思う。日本ではあまり知られていない作品かもしれないし、僕自身、いくつかナンバーを知っているくらいで、実際の舞台を観たことはないんだけれども、彼のパフォーマンスを観たら、この作品観たいなあと思うようになった。「オペラ座の怪人」や「エビータ」のような作品の大ナンバーって、ポップ・ヒットみたいなところがあるじゃない? でも、「フォリーズ」はもっと控えめな感じで、それでいて人生の真実があるんだよね。真実の人間関係が描かれていると思う。

――プリンスさんご自身も、とりわけ好きな作品として「フォリーズ」を挙げていました。その当時、仕事に時間を割きすぎていて、家族との関係にあまり時間を傾けることがなかった思い出を語り、その上で、ヒットしなかったからこそ好きな作品なのかもしれないと。

 ああ、そう聞いて何だか、よくわかるな。そのインタビュー、僕も読みたいな。

――プリンスさんの人生を描く一方で、ミュージカルという舞台形式についての作品でもありますよね。ミュージカルについてさまざまな発見があり、また、さらに愛を深めることのできる舞台なのではないかと期待しているのですが。

 きっとそうなると思うよ! 何しろ、ハロルド・プリンス=ブロードウェイ・ミュージカルだからね。そして、ただのコンサートではなくて、さまざまな要素が巧みにより合わされているから、それぞれのナンバー同士に関連性が見出せるところもあると思うし、過去なくして未来はないということが伝わるんじゃないかな。

――ラミンさんご自身もミュージカル・スターとしてご活躍されていますが、ミュージカルというジャンルに寄せる思いをぜひおうかがいしたいです。

 僕自身は、ミュージカル俳優になりたいと思ってきたわけじゃないんだよね。とにかく役者になり、役を演じたかった。だから特に歌のレッスンも受けたことがないし。「オペラ座の怪人」のファントム役を演じるなら、歌えなくちゃいけないな、そんな感じで。今回の仕事を受けたのも、新しいこと、より多彩なことに挑戦できると思ってのことなんだ。僕にとっては、映像もミュージカルも違いはないんだよね。演じることは演じること。役柄を通じて物語を語ることだ。だから、もし違いがあるとしても、その違いに敢えて無知でいたいと思っていて。ただ、ジャンルによって多少技術の違いがあるだけだと思う。

――それでも、ミュージカルに何か特別なもの、他のジャンルに対する優位性があるとすれば、それは何だと思われますか。

 それが、さっき話したトニー・ヤズベックの「ザ・ライト・ガール」に集約されていると思う。僕自身はダンサーというわけじゃないから、ダンスがどうのこうのという話をされてもわからない。でも、あのナンバーでのトニーのパフォーマンスを観ていると、まずはそれがライブ、生であることに打たれる。それから、感情が歌声だけではなく彼の身体からも伝わってくることに感動する。それは僕にとって本当に大きな発見だった。感情的な真実と同じくらい、身体的な真実というものも大きな意味をもつものなんだと。それらすべてが融合されているのがミュージカルの魅力なんじゃないかな。アスリートが何か神業を見せるとして、そのとき、彼の肉体にもやはり何らかの感情の動きというものがあるわけだよね。ミュージカルにおいてはそこにさらに歌声が加わるわけで、それを観る、聞くということには、何らかの科学的な反応が必ずや起きているんだと思う。そこには何らかの、ほとんど宇宙的なと言ってもいいかもしれない“力”の働きがある。ルチアーノ・パヴァロッティ(三大テノールの一人だったオペラ歌手)のあの高音を聞くとき感じるのと同じ類の“力”が。

――シアターオーブで公演されるのは初めてですね。

 新しい劇場で設備も整っていて、すばらしいよね。ニューヨークやロンドンって古い劇場が多くて、楽屋もどこも狭かったりするから。「4 Stars」(2013)に出演したとき二ヵ月渋谷に住んでいたから、あちこち懐かしくて。

――日本の観客についてはいかがですか。

舞台芸術に対する情熱もすばらしいし、心温まるサポートをしてくれて、本当にありがたい存在だなと思っている。「レ・ミゼラブル」出演中も、日本からはるばる、それも週末だけとか、わざわざ飛んできて僕の舞台を観に来てくれて…。だから、今度は自分がお返しする番だ、自分が日本に飛んでいかなくちゃ、そうじゃなきゃフェアじゃないって思って今回もやって来たんだよ。

――唯一の日本人キャスト、柚希礼音さんについてはいかがですか。

 鍛錬されていて、日々エネルギーに満ちあふれていて、いつもにこにこしていて、毎日違う服を着ていて(笑)。「スーツケースいくつ持ってきたの?」って思わず聞いちゃったよ。言葉だと多少意思疎通が難しくても、音楽って国境を超えるところがあるじゃない? 舞台上で何か新しいことを試みると、彼女もちゃんとそれに反応してくれて、すばらしいなと思うよ。

――お話を聞いていても、何だか新しい雰囲気の作品ができあがってきていると感じます。

 そうそう、僕自身も最初、レビューみたいな感じになるのかなと思っていたんだよ。でも、ハロルド・プリンスとスーザン・ストローマンによって、単なるプリンス作品のコンサートではなく、何だかちょっと説明し難い、とてもユニークな作品が生まれつつあるなと感じていて。みんなそれぞれ自分自身、例えば僕ならばラミン・カリムルーとしてやってきて、さまざまな役柄を演じ、そして最後には自分自身として終わる。オーディションを受けてきて、役柄を得て、演じるみたいに。そんな作品なんだ。そうなると何だか、自分の人生、キャリアをもオーバーラップしてくるように感じるんだよね。僕だってそうやってキャリアを積んできたわけだから。情景をつなぎ合わせたんじゃなくて、一本、確かな線が通っている。少なくとも、僕自身はそう思って作品に取り組んでいるんだけれども、みんな作品を観てどう感じることになるのか、僕としても楽しみなんだ。ぜひ劇場に足を運んで、楽しんでもらえたらと願っているよ!

[取材・文=藤本真由(舞台評論家)]
[撮影=横山将勝]

公演概要

ワールドプレミア ミュージカル『プリンス・オブ・ブロードウェイ』

<公演日程・会場>
【東京】2015/10/23(金)〜11/22(日)東急シアターオーブ
【大阪】2015/11/28(土)〜12/10(木)梅田芸術劇場メインホール

<料金(全席指定・税込)>
SS席17,000円 S席14,000円 A席10,000円 B席7,000円
チケット一般発売日:2015/7/25(土)

★下記の日程にて<e+貸切公演>が決定しました!
■東京公演
10/31(土)12:30 11/5(木)18:30 11/11(水)13:30

■大阪公演
11/29(日)12:30 12/8(火)18:30

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2015-10-22 17:29 この記事だけ表示