二つの演劇賞をもたらした舞台「猟銃」。2016年春、再上演に挑む意気込みを主演中谷美紀が語る![インタビュー]

 一人の男に宛てた三人の女性の手紙が浮き彫りにする、ある不倫の恋――。井上靖の小説を原作に、中谷美紀が三人の女性を演じ分けた「猟銃」は、2011年にカナダ・モントリオールと日本で上演され、初舞台を踏んだ中谷に二つの演劇賞をもたらした。その舞台が、2016年春、再び上演される。再演に挑む意気込みを尋ねた。

女性の美しさ、醜さ、恐ろしさ、すべてが詰まっている作品

   


前回公演より(撮影:阿部章仁)

――5年ぶりの再演に挑む心境は?

 初演の時点では、演出家フランソワ・ジラールさんのご指導のもと、そのとき自分が持てるすべてを出したつもりですが、その後、三谷幸喜さん演出の「ロスト・イン・ヨンカーズ」、マックス・ウェブスターさん演出の「メアリー・ステュアート」と二つの舞台を経験したことで、「猟銃」の完成度をさらに高めたいと思うようになりました。それまでずっと逃げ続けていたのが、初めて舞台に立つことを決めて、一生懸命創り上げた作品なので、やはり大切にしていきたいなと…。どれだけ成長しているかわかりませんが、この5年の歳月によって、作品をさらに深く理解できるようになっていればと思いますし、日本語の一つ一つの言葉をより大切に演じたい、という思いがあります。一つ一つの言葉にこめる思いを、自分の中にもっとリアルにイメージし、発していきたいと思っています。

――ジラールさんの演出から得て大きかったと感じるものは?

 自分にとって一番大きかったのは、演じる上だけのことではなくて、限界とは、自分自身の心が勝手に設け、定めているものなのだとわかったことでした。舞台に上がる上では身体能力に長けていなくてはならないとか、声楽やダンスを身につけていなくてはいけないとか考えていたのですが、フランソワさんの求めていたものは決してそういうものではなかったんです。日本語がわからなくても、私が発した言葉を本当に想い描いているかどうか、フランソワさんには見えるようなんですね。そういった意味では本当に信頼できる演出家だと思っています。

――中谷さんが一人でセリフを発し、後ろでもう一人の出演者ロドリーグ・プロトーさんがパフォーマンスを見せるという独特の構成の舞台です。

 ロドリーグさんは、日本人以上に日本人のような、寡黙で忍耐強い、まるで高僧のような方なんです。何かキューがあるわけではなく、日本語を理解されているわけではないのに、すべて私のセリフに応じて演技をなさっていて、本当にすばらしいですよね。ある日、いいところを見せようと頑張るあまり、ほとんどすべてのセリフを間違えてしまった舞台があったんですが、終演後に会ったロドリーグが「今日のことは忘れろ」と言ってくれて、わかったんですね〜と愕然としたことがありました(苦笑)。

   


前回公演より(撮影:阿部章仁)

――袖に入ることもなく三役を演じ分けるという難しさについてはいかがですか。

 そのあたりは演出家が舞台装置の転換でもとてもうまく表現してくださって、助けられたと思っています。水が張ってあったのがなくなって石張りになり、そして板張りになる。それによって自分の気持ちも自然に変わるように仕向けてくださいました。とはいえ、三人を演じるというのが、ペース配分の上でも、最初の女性が終わると三分の一終わったなとか、二人目が終わったところであと30分だなとか、今日は二回公演なのに一回目でこんなに一生懸命演じてしまって最後まで持つかしらとか、いろいろ考えていたりして(苦笑)。今また台本を読み返しているのですが、とにかく分量が多いので、読んでいるだけで時間がかかるんですね。一日48時間あったらいいのにと考えてしまうくらい。ただ、読み返すと初演のころより深く感動する部分もあって。男の愛人である彩子という女性が一番悲しいのかな、いや、三者三様にどうにも救いようがなくて、悲しいのかなと…。彩子の娘の薔子はまだ若いだけ未来がありますが。三人の女性から同時に別れを告げられる三杉穣介という男も悲しいですけれども。

――三人の中でとりわけ近い、または遠い存在は?

 どの人物も自分とは異なり、そしてどの人物も自分の中にもいるような気がしますね。薔子は若さゆえの潔癖さをもつ女性で。親というものは完璧でいないといけないと信じていて、その信じていたものが揺らいでしまったという、何とも言えない気持ちがある。実際にはそんな大したものでもないのに、自分自身ですら清いものと信じているような部分は、自分自身の若かりし頃のようだとも思いますし。薔子には、母である彩子のような側面もあって、いずれ同じ道をたどるのかなと。男の妻であるみどりは、一見ふしだらな有閑マダムにも思えますが、仮面夫婦を続けてきて、自分の中に何も残っていないという、やはりとても悲しい人ですよね。その悲しさは、演出を受けて初めて気づいたことだったんですが。男女の関係においてだけでなく、例えば友人や仕事仲間であっても、理解し合えないのに理解しているようにふるまったり、相手の気を引こうとしてあらぬ行動をしてみたり、そういったことってありますよね。彩子がもっとも共感しづらいようで、実は多くが共感できる女性なのかもしれません。三杉穣介に決して復讐しようとしたわけではなく、あくまで誠意をもって接した結果だったとは思うのですが。

   


前回公演より(撮影:阿部章仁)

  女性の美しさ、醜さ、恐ろしさ、すべてが詰まっている作品だと思うので、女性のお客様には、この舞台をご覧になって、普段できない男性への復讐を果たしていただければ。男性のお客様にとっては、そうですね、女性を大切にしないとこういうことになりますよという教訓のようにご覧いただければ(笑)。装置も本当に美しいですし、シルク・ドゥ・ソレイユの舞台でも活躍しているロドリーグさんの強靭な肉体が見せる神業にも注目していただけたらと思います。

[取材・文=藤本真由(舞台評論家)]

公演概要

猟銃

<公演日程・会場>
2016/4/2(土)〜4/24(日) PARCO劇場(東京都)
2016/5/4(水・祝) りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場(新潟県)
2016/5/7(土)〜9(月) ロームシアター京都 サウスホール(京都府)
2016/5/14(土)〜15(日) 穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール(愛知県)
2016/5/21(土)〜22(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール(兵庫県)
2016/5/27(金)〜29(日) 北九州芸術劇場 中劇場(福岡県)
※北九州公演のe+での取扱いはございません。

<キャスト・スタッフ>
原作:井上靖『猟銃』
翻案:セルジュ・ラモット
日本語監修:鴨下信一
演出:フランソワ・ジラール
出演:中谷美紀/ロドリーグ・プロトー

2015-11-04 18:37 この記事だけ表示