日本人初トニー賞受賞プロデューサーが贈るビートルズ・トリビュート・ライブの決定版「LET IT BE」[インタビュー]

 ロンドン・ウエストエンドやブロードウェイで上演され、昨年の日本公演も好評を博した「LET IT BE」。ミュージシャンたちがビートルズのステージの再現を行なうトリビュート・ライブの決定版で、11月18日からの再来日公演では1966年の伝説的な武道館コンサートのシーンも付け加えられることとなった。作品のプロデューサーの一人である川名康浩は、2013年、「キンキー・ブーツ」のプロデュースを手がけて日本人として初めてトニー賞を受賞したことでも話題を呼んだ。「LET IT BE」の魅力を語っていただこう。

川名康浩氏インタビュー

――川名さんとビートルズの出会いを教えていただけますか。

 中学生のころ、初期のアルバムを聴いて、雷が落ちたみたいに思ったんですよね。それで当時出ていたすべてのアルバムを買い集めて、コピーバンドをやるようになって。リビングに、昔ですから家具みたいに大きなステレオがあるんですけれども、親が寝静まってから仲間とそこでアルバムを聴いて、朝がしらじらと明けるまで語り合って。ビートルズってリバプールから世界に出てきたんだよ、イギリスも日本も同じ島国だ、いつかは僕たちも…みたいな夢ですよね。その一方で、僕は幼稚園のときから演劇に目覚めてもいて。大好きだった先生にほめられて、本当にうれしくて、将来俳優になるんだと思った(笑)。

 歌と踊りと演技があるミュージカル映画との出会いも、MGM映画とかじゃなくてビートルズの作品でしたね。その後、劇団四季で役者としてミュージカルをやっていましたが、1993年に片道切符でブロードウェイに渡ったときもビートルズのカセットテープを持って行ってね。プロデューサーたちのところに行っても相手にされない日々、狭いアパートの部屋に帰っては、家でビートルズを聴いていました。中学生のころ、世界に出たいと思った夢も甦るし、それに、ミュージカル作品にビートルズ・サウンドが入っていることにも気づいて。アンドリュー・ロイド=ウェバー作品もそうですし、ブロードウェイのミュージカルの若い作曲家もみんな影響受けてますしね。

ビートルズがいなかったら、音楽にしてもミュージカルにしても、いや、エンターテインメントってどうなっていたんだろうと思いますよね。僕自身、ビートルズに出会わなかったら、ブロードウェイのプロデューサーになっていなかったと思うし。2007年に「リーガリー・ブロンド」でプロデューサーとしてブロードウェイ・デビューした後も、何かビートルズの楽曲を用いた作品に関われないかと思って、ミュージカルの役者が歌って踊るものなど、いろいろ企画してはいたんです。けれども、ロンドンでこの「LET IT BE」に出会ったとき、ビートルズはこれでいいんだ、シンプルに、ミュージシャンが楽曲を歌うだけでいいんだ、そう思った。彼らの歴史自体にドラマがあるから。それに、歌詞も皮肉が効いていておもしろいから、セリフがなくても演劇的なんです。この作品をニューヨークで上演したいと相談を受け、ブロードウェイ版をプロデュースすることを決めました。「キンキー・ブーツ」の次がこの作品で、だから、2013年は、トニー賞を獲るというのと、ビートルズに関わる作品をプロデュースする、その二つの夢が叶った年なんです。

――以前、ジョージ・マイケルを取材した際、ワム! の楽曲を用いたミュージカルの話も来ているけれども、ミュージカル俳優に自分の歌を歌われることに違和感が…と彼が話していたことを思い出しました。川名さんとしては、ミュージシャンの歌唱とミュージカル俳優の歌唱の違いとはどこにあると思われますか。

 歌唱のベクトルが違うんだと思う。ミュージシャンは音楽に人生を賭けているわけですよね。ミュージカル俳優は何でもできなくちゃいけない、シェイクスピアも現代劇も、それこそ役としてミュージシャンにもなれなくちゃいけない。その一方でミュージシャンは音楽だけでしょう。そこにいかに自分の人生を出せるかの勝負だから。「LET IT BE」に登場するのも全員ミュージシャンなんです。

――そんな彼らが体現する「LET IT BE」の魅力とは?

 ビートルズは存命のメンバーがもう二人しかいないから絶対にライブを観ることはできないし、初期中期後期とある中で、中期以降はライブ活動をやめてスタジオにこもってレコーディングに専念していたんですね。逆回転だったり、さまざまな機械を使って新しい音に挑戦していった。今回のステージでは、キーボードは一人加わっていますが、テクノロジーの進化により、ライブでは演奏できなかった中期以降の楽曲も聞くことができます。逆に、アンプでもPAでも進化してしまっていて、初期の音をいかに再現するかというところが大変で。それも技術によってクリアしていますけれども。

――膨大な楽曲の中から演奏曲を選ぶのも大変な作業だったのではないでしょうか。

 これはもうプロデューサーの趣味でね、昨年の日本公演は自分の好みを全部入れました。ロンドンでは少なかったジョージ・ハリソンのナンバーを増やしてね。僕、ジョージが好きで息子にも同じ名前をつけたくらいなんですよ。彼は優れたミュージシャンであるだけでなく、初めてチャリティ公演を行なった人物でもある。そんな優しい人間になってほしいなと思って。今回は昨年の公演と異なり、1966年の武道館でのコンサートのシーンがさらに加わっています。それこそ中学生のころ、海賊版で武道館のコンサートを聴いていた僕としてもぜひ観たいなと思って。

――日本でよくある物真似やそっくりさんショーと異なるトリビュート・コンサート・ショーの魅力とは?

 “トリビュート”とは“捧げる”という意味で、その意味では僕自身がビートルズに感謝を捧げているところもありますよね。ブロードウェイって別にミュージカルとストレートプレイだけをやらなきゃいけないところじゃなくて、コンサート・ショーというジャンルもあるんです。コンサートだけどショーアップされている、小芝居はしないけれどもちゃんとショーとして成立しているという。今回も、ミュージシャンそれぞれが、ジョンをデフォルメしたり、ポールのスタイルで演奏したりするわけですけれども、その中から彼ら自身の生き様も浮かび上がってくればいいなと思っていて。ダブルキャストですから、歌い方だったり歌への姿勢だったりが違っていたりもする。本当にルックスが似ているキャストもいれば、ルックスは似ていないのにだんだん本当に似ているように見えてくるキャストもいたり。基本的にはミュージシャンが演奏するだけなんだけれども、決してそれだけではない、なぜあの時代にビートルズが必要だったのか、なぜ後の世に大きな影響を与えたのか、映像も駆使して描くような構成になっています。
 ビートルズをリアルタイムで好きだった世代って、今だと70、80代ですけれども、みんな元気ですよね。昨年の公演には、僕の母もおばと一緒に来て盛り上がってましたからね。その世代から、そのお子さんの世代、そしてそのお子さんのように若い世代まで、幅広く楽しんでいただけるショーだと思いますね。立ち上がってくださってもいいし、一緒に声を出して歌っていただいてもいいし。

――プロデューサーとしての川名さんのモチベーションの原点とは?

 あるショーを作る上ですべての責任を負うのがプロデューサーの仕事なんですね。そして僕は、自分の伝えたいメッセージをショーとして届けたいと思っていて。だから、メッセージのないショーは作らない。ブロードウェイには世界中から観客が来てショーを観ますが、その人たちがメッセージを持ち帰って、そうやって世界がリンクしていい方向に行ったらいい、大げさかもしれないけれどもそんな感覚でやっています。
 これからも新しいものを作っていきたいですね。典型的なブロードウェイ・ミュージカルではなくてね。ブロードウェイって基本的には実験劇場なんですよ。ブロードウェイ・ミュージカルという伝統を継承していなくちゃいけない場所ではない。進行中のプロジェクトもいくつかあるんですが、どんどん新しいものを作っていきたいと思っています。

[取材・文=藤本真由(舞台評論家)]
[撮影=Paul Coltas]

公演概要

LET IT BE〜レット・イット・ビー〜

<公演日程・会場>
2015/11/18(水)〜11/22(日)  東京国際フォーラム・ホールC(東京都)

2015-11-09 11:25 この記事だけ表示