開幕!大坂の陣400年記念 大阪平成中村座 初日観劇レポート[観劇レポート]

 歌舞伎俳優たちが自主的に企画する個性的な公演の中でも、トップクラスの人気を誇る「平成中村座」。江戸時代の歌舞伎小屋を模した仮設劇場で、スタンダードな古典から近代の名作まで、様々な作品を1ヶ月以上に渡って上演する。この小屋を立ち上げた18世中村勘三郎の早すぎる逝去後、しばらく中断されていたが、勘三郎の息子である中村勘九郎、中村七之助兄弟や『平成中村座』馴染みの俳優たちが揃って今年の春に浅草で復活。そして10/25から、勘三郎が「大坂夏の陣400年の年に必ず戻ってくる」と宣言していた通り、大阪城西の丸庭園にて「大阪平成中村座」の公演が開幕した。今回はその、夜の部の模様をレポートする。

初日観劇レポート

 夜の部のオープニングは、2010年の大阪平成中村座公演でも上演された『俊寛』。前回は勘三郎が演じた俊寛を、今回は中村橋之助が勤める。平清盛に陰謀を企てた罪で、鹿児島の鬼界ヶ島に流された俊寛一行。苦しい流人生活の中でも、全員が疑似家族のようにむつまじくつき合い、励ましあって日々を送っていた。そこに思いがけず、恩赦のために彼らを連れ戻しに来た使者の一行が島に到着。しかし使者の妹尾兼康(片岡亀蔵)が読み上げた赦免状の中に、俊寛の名前はなかった…。

 「島を出られるのは誰か」で二転三転する展開にハラハラするのはもちろん、橋之助演じる俊寛の、激しい喜怒哀楽の変化に釘付けになる舞台だ。仲間の成経(中村国生)と島の女性・千鳥(坂東新悟※11/11以降は中村鶴松)の結婚祝いの宴を楽しみ、迎えの船が来たことに歓喜したかと思うと、自分が恩赦の対象にならず、妻も殺されたことを知って激しく嘆く。しかし一転、千鳥の乗船を許さず、妻の敵であることも判明した兼康には強い怒りを向ける…。そのときどきの俊寛の感情を、体いっぱい使ってあざやかに表現。結局自ら島に残る道を選んだものの、それでも未練から船を追いかけるシーンは、体中から悲しみと絶望のオーラがほとばしるようだ。しかし幕が閉まる直前、何かを悟ったようにキッと顔を引き締めた俊寛の表情には、哀れさよりもむしろ神々しさが感じられた。

 『俊寛』上演後には30分の休憩があるが、この時間も楽しみがいろいろ用意されているのが、サービス精神たっぷりの平成中村座ならでは。女子トイレが長蛇の列になっても、案内のお茶子さんたちが「平成中村座のトイレは観客参加型ですー」などと、ユーモアたっぷりかつキビキビと誘導するので、列に並ぶのがむしろ楽しくなってくる。また場内外の18ヶ所には、勘三郎の目元のイラストがこっそり描かれた「隠れ勘三郎」がいるので、ぜひ見学がてら場内を一巡りしてほしい。

 続いてはお膝元の大阪城にちなんで、豊臣秀吉が登場する『盲目物語』を上演。谷崎潤一郎原作で、17世勘三郎が初演を勤めた、中村屋にとって重要なお家芸の1つだ。織田信長の妹・お市の方を愛した2人の男──木下藤吉郎(後の豊臣秀吉)と、お市の按摩師兼音曲指導者として仕えている盲人の弥市の、それぞれの叶わぬ愛が描かれる。弥市と藤吉郎は一人二役で演じられるが、新たな中村屋の看板となった勘九郎がこの難役に初めて挑戦するのが、今回の最大の見どころだろう。

 『盲目物語』は、血なまぐさい戦国の世を舞台にしながも、谷崎らしいロマンチシズムと官能性にあふれた作品だ。特に弥市が、お市(中村扇雀)への熱い思いを胸に秘めながら、療治のために彼女の衣服を脱がせ、身体をさすっていくシーンは、その危うい禁欲にゾクリとさせられる。愛情を押し隠してただ側にいたいと願う弥市と、強引にお市に迫って何とか自分のものにしようとする藤吉郎と、その愛し方は非常に対照的だ。ただ勘九郎はこの2人をきっぱり演じ分けるというより、むしろ同一人物が演じることで、人間誰もがこういう愛の二面性を持っているのでは…ということを意識させるような感触を受けた。

 ラストでは、お市の娘の淀君(中村七之助)を手に入れることで自らの愛に決着を付けた藤吉郎と入れ替わるように、物乞いに身を落とした弥市が登場。彼が琵琶を取り出して曲を奏でると、その後ろに琴を弾くお市の幻影が浮かび上がるという、夢のような光景が現れる。続いて舞台の背後の壁が開き、なんと本物の大阪城が観客の目に飛び込んでくるという、この劇場でないと不可能な大仕掛が! これだけでも感嘆の声を上げずにはいられないのに、さらに勘三郎を偲ばせる演出まで加わって、感動の上に感動がさらに積み重なるという何とも言えない気持ちに。幕が下りても、歌舞伎公演には珍しくカーテンコールの拍手が鳴り止まなかったことが、この新生・大阪平成中村座の成功を何よりも明確に物語っていた。

 昼の部は『女暫』『三升猿曲舞』『狐狸狐狸ばなし』の3本を上演。できればどちらの部も観ておきたいが、歌舞伎というジャンルのバラエティ性を知りたいなら昼の部、ドラマ性を楽しみたいなら夜の部がオススメかも。劇場というよりも、歌舞伎の楽しさがギュッと詰まったアトラクションのような「大阪平成中村座」は、11/26まで上演中。

[取材・文=吉永美和子]

公演概要

大坂の陣400年記念 大阪平成中村座

<公演日程・会場>
2015/10/25(日)〜11/26(木)  大阪城西の丸庭園内 特設劇場大阪府)

<スタッフ・キャスト>
出演:中村扇雀、中村勘九郎、中村七之助、坂東新悟、中村国生、中村虎之介、中村鶴松、中村歌女之丞、片岡亀蔵、坂東彌十郎、中村橋之助

曲目・演目:昼の部(11:00開演)
一、女暫(おんなしばらく)
二、三升猿曲舞(しかくばしらさるのくせまい)
三、狐狸狐狸ばなし(こりこりばなし)

夜の部(16:30開演)
一、俊寛(しゅんかん)
二、盲目物語(もうもくものがたり)

2015-11-12 16:08 この記事だけ表示