2016年3月上演決定!舞台「家庭内失踪」作・演出の岩松了&小泉今日子にインタビュー[インタビュー]

 劇作家・演出家・俳優の岩松了が1989年に書き下ろして初演し、岸田國士戯曲賞を受賞した「蒲団と達磨」。その後日談ともいえる「家庭内失踪」が、ヒロインに小泉今日子を迎えて上演される。年の離れた夫からの性的要求に嫌気がさしていた後妻は、彼の性的不能のきざしに内心快哉を覚える。そこへ、夫と前妻との間の娘が出戻って来て――。岩松と小泉のトークをお楽しみいただこう。

インタビュー

――「蒲団と達磨」の後日談と銘打たれた作品です。

岩松「蒲団と達磨」は先妻の娘が結婚した日の話なんですが、その続きを書いてみたいなという気持ちはあったんですね。その当日に、夫からの性的要求に嫌気がさしていた後妻が別居を申し出る。それから何年か経って、夫が不能になってきて、妻は「やった! 勝った!」と思うという(笑)。若いころから苦しんだことから解放されるわけだから。最近は薬とかもあるし、それで終わるかどうかはわからないですけど(笑)。僕ね、夫婦の話って延々と書いてる気がして。何か、汲めども尽きせぬものがあるんでしょうね、夫婦って(笑)。嘘とか矛盾とかがすごく固まったもののような気がして、だから惹きつけられる。出戻った娘が、夫婦についてずっと観察して日記を書いていて、読めとばかりにそこらへんにおいてある。実際そういうことが劇中起きるかどうかはわかりませんが、人間関係としてはそんな感じにしたいなと。

――「家庭内失踪」というタイトルの心は?

岩松キョンキョンが演じる後妻と、風間杜夫さんが演じる夫、そのメインの夫婦の話でもあるし、娘は離婚はしていないらしいけど出戻ってきているし、それを連れ戻そうとしている娘の夫の部下は後妻にたぶらかされているかもしれないし、そういう風に錯綜していく話にしたいなと。あと、僕が演じる役はね、妻に失踪したと思わせておいて、自分は近くにアパートを借りて、妻の様子をずっと見張っている男の役なんです。それで、変装して友人である風間さんのところに遊びに来る。ナサニエル・ホーソーンの「ウェイクフィールド」という小説があって、それが、失踪したことにして近くからずっと妻を見張っている男の話なんですよ。20年くらい経ってひょっこり帰ってくるという。それを妻側から書いた「ウェイクフィールドの妻」という本が出てるんですけど。
 キョンキョンはこれまでも僕の作品に出てくれていますが、生活感のある役ってやったことがないなと思って、今回はそっちに行こうかと。普通に家の中で生活している人。「あなた、お茶」みたいな。

小泉そうですね、なかったですね。謎な人とか、とっぽい役が多かった。名前からしてジーナとか(笑)。

――小泉さんからご覧になって、岩松作品、演出の魅力とは?

小泉最初に拝見したのが、本多劇場での「水の戯れ」の初演だったんですね。……わからない。今まで観たことがない。それで、その“わからない”をどうしたらいいんだろうと思って、あきらめよう、そう思ったら観ていてすごく楽しくなってきて。その後楽屋に行って、出演されていた竹中直人さんとかと一緒にご飯を食べようということになって、途中までついて行ったんですけど、一人になりたいと思って、やっぱり今日帰りますって言って、走って逃げた(笑)。一人で余韻というか、何を観たんだろうか、そういうのをまとめたくて。それで、下北沢の遊歩道のベンチで、暗い中、3、40分、一人で座って。
 そういう気持ちは自分が実際演じていてもありますね。こう相手とセリフを交わしている。そのセリフと、実際に相手と頭の中で投げ合っている感情が違う。それって、実生活でも普通にあることだけど、舞台にいてその感覚って普通はあまりないところ、岩松さんの作品にはあるんですよね。それがとても不思議で、おもしろくて。岩松さんとお仕事できるのはとにかくうれしいですね。頑張らなきゃとか、不安もありますけど、楽しみの方が強い。

――夫役は風間杜夫さんです。

小泉何か、ぴったりな感じがしますね。岩松さんの「ジュリエット通り」をシアターコクーンに観に行ったときに、エアカレーを食べるシーンがあって、それがすごくおもしろくて。こんなの風間さんにしかできないなと思いました。どんなときにもものすごく説得力がある。「恋する妊婦」で夫婦を演じたときは、まだ自分もいっぱいいっぱいだったので、今回どんな夫婦を演じられるか楽しみですね。

岩松すごくおもしろくなりそうな気がするんだよね。後妻だし。

小泉ちょっとやらしいよね(笑)。

岩松しかも、後妻は自分の父を軽蔑してるかもしれないと娘は思っている。これってドラマでしょ?(笑)

――岩松さんから見た、舞台女優・小泉今日子の魅力とは?

岩松もう30年以上のつきあいがあって、けっこう身近にいるから語るのはなかなか難しいですけど、できあがってないよさがあるような気がしますね。本人は、私は下手だからとか言うんですよ。何か、さあ女優ですみたいなものがない。それはずっと変わらない気がしますね。役者って見られる仕事だから、見られることに対する怯えと、見せる快感、その快感の方が勝っていったときに、見る方としてはだんだん嫌気がさしてくるというのがあるじゃないですか。そのバランスを欠いた状態がいわゆる“女優”だとしたら、そういう女優ではないなと。アイドルだったから、見せることのプロではあったと思うんだけど。

小泉性格もあると思うけど。アイドル時代は、ものすごく責任感と義務感をもってやっていたような気がします。ファンの人たちを目の前にしてやっていて、全部顔が見えちゃうし、こっちも全部見られちゃう。ガチの勝負みたいなとこがあって、そこでウソをつきたくなかったし、目の前で応援してくれてるこの人たちの気持ちに責任取らなきゃって、勝手に背負いこんでるようなところがあったと思います。でも女優の仕事のときは、これは私自身の感情じゃない。私の言葉でもない。それがすごく、荷物を下ろしたような気持ちになって。だから、見て! という感じにならないのかもですね。歌ってるときも恥ずかしいっていう気持ちがずっとあったから。それはなくなりはしないのかもしれないけど。

――女優として演じていても、ご自分が出るというのはありませんか。

小泉それはもちろんあると思いますし、だからこそいろいろな役者さん、女優さんが必要なんだと思うんですけど、出ちゃうのと出すのとではなんかこう色っぽさが違うというか、そんな気がして。

岩松役者って嘘でいいけど、アイドルって正面切ってるところがあるから、そこが違うんじゃないかな。役者って、客観的に見て判断して、みたいな嘘のつき方だと思うし。僕としても、あんまり立派過ぎる役者、女優と仕事するよりは。僕の芝居って、言い方難しいですけど、軸があんまりしっかりしていると困るというか、何か、浮遊していないとだめだという感じがあるんですよね。

小泉“浮遊”ってよくわかりますね。それがさっき言った不思議な感覚とつながってくるんだと思う。向かう場所がどこか違うというか。

岩松変な話、セリフにあんまり意味がないんで。だから、セリフに意味をこめる力のある人は、逆に不満、物足りなく思うかもしれないなと。

小泉釈然としない部分とかね。岩松さんの書く女の人自体が、ちょっと変わっていたり、謎だったりするし。でもきっと、人ってみんなそうなんじゃないかなって。私もね、昔夫婦喧嘩みたいなものをしたときに、すごく真剣に話してたんだけど、つけっぱなしだったテレビで、すごくおもしろいこと言っていて。すごく見たいんだけど、今目をそらしたらきっと怒られるだろうな、でも見たい。そういうことが演劇として書かれてるように思うんですよね。それを技術的にやれと言われるとちょっと気持ち悪くなるだろうけど。岩松さんの舞台を観に行くと、セリフをしゃべっている人じゃない、周辺の人が気になって、それが3、40分後に、あ、こういうことだったんだなと気づくというか、そういう見方をすることができる。

岩松今回ね、とにかく変な話だと思いますよ(笑)。でも、よくよく考えれば変じゃないみたいな。

――岩松さんご自身、言い方は何ですが嬉々として変な役を演じられている印象が……。

岩松いやいや。でも、変なはずだから、見えるものはすべて。舞台で“変なもの”という提示をするかもしれないけど、日常生活の方がもっと変であって。

小泉そうそう。みんな変だから。

岩松そういう風に変に見えないから人は正常でいられるわけで。日常生活のその変、本当のことをすべて見てしまっていたら、人は狂うしかないから。そうやって、狂気の一歩手前でとどめているのが生活だと、僕は思うんですよね。

[取材・文=藤本真由(舞台評論家)]
[撮影=平田貴章]
[スタイリング=伊賀大介]
[ヘアメイク=大和田一美]

公演概要

M&Oplaysプロデュース 家庭内失踪

<公演日程・会場>
2016/3/29(火)〜3/30(水) 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール(愛知県)
2016/4/3(日) 静岡市清水文化会館(マリナート) 大ホール(静岡県)

<キャスト・スタッフ>
作・演出:岩松了
出演:小泉今日子/風間杜夫/小野ゆり子/落合モトキ/坂本慶介/岩松了

2015-12-02 12:30 この記事だけ表示