舞台「夜の姉妹」稽古場見学レポート[稽古場レポート]

 舞台「夜の姉妹」の稽古場にお邪魔し、稽古の模様を見学させてもらった。この稽古の模様と、稽古の合間に伺ったキャスト陣、脚本・演出のわかぎゑふの声を織り交ぜながらお届けする。

稽古場レポート

 稽古場に入ると、床にステージの形にマットが敷かれたこじんまりとした空間、そしてその奥には5本の大きな柱が並ぶ。客席とおぼしきところには脚本・演出のわかぎゑふら、スタッフの席が並んでいる。

 と、そこへ、わかぎが茶色のキャリーケースをコロコロ引いて登場。

 「みんなこれを着て」中から次々にレースが付いたり、ヒラヒラしたドレス風のケープを出す。男子でも裾が床をこするくらいの長丈だ。形も色もバラバラだが、わかぎがキャストの雰囲気をイメージしながら一着ずつ手渡していく。Tシャツ&ジャージの上から羽織る男子たち。

 「ヨゼファは…これね」と黄川田将也に手渡したのはなんと白いメイドエプロン。「これ、着方がわからないんですけど…」と布地と格闘する黄川田にたまらず笑い声が沸き起こる。

わかぎゑふ:今回(山本)裕典くんがいいキャストですね。たぶん本人は「垣根」があまりない人なんだと思います。男といても、知らない女の子としゃべっていても、男女差、年齢差などの垣根を持たず、人として接することができるタイプ。だから今回、中性っぽいアレクサンドル・デュマ・フィスは女だったというキャストにぴったりです。しかもフランス人なので、ドイツのお硬い人たちがいる街に飄々とした雰囲気をもたらす役どころがあってますね。

 あと、以前「一郎ちゃんが行く。」のときに、平野良くんに出演してもらったんですが、そのとき彼が、果敢に攻め、演出にも自分のプランを提示していく姿を観て、どの役でもいいから私の演出する作品にまた出てほしいと思ってオファーしました。

 あと、3人のおじさん(八代進一、近江谷太朗、粟根まこと)は、100%私のオーダーで(笑)。コング桑田も出演できるのならハンナ役をやってほしかった。彼には「母性」があるから。でも他の舞台の都合でこっちの稽古に出られないことがわかったので、コングのような「母性」を持つ方となれば太朗ちゃんだな、って。「母性」「父性」つまり人間的な優しさを持つ人物がほしかったんです。

 あと、ラインハルト役は、できたら宝塚歌劇団出身で、「娘役」だった人がいいな、という希望がありました。「男役」ではなく「娘役」。宝塚で男役の人たちが何をしてきたか目の当たりにしてきた人がいちばんこの作品のスピリッツを理解してくれるんじゃないかなと思いまして。そこで彩乃かなみちゃんの名前があがり、彼女なら大丈夫だと思いました。

山本裕典:(デュマ役についてわかぎさんから何かリクエストは?) 特になかったなぁ。まあ、僕が女装しているだけで面白いと思うので(笑)物語の内容は謎解きあり、暗めでシリアスなところもあり。稽古が始まったばかりなので、まだ予想がつかないんですが、僕自身、面白いことをやるのがそもそも好きなので、どんどん物語の世界に入っていきたいなと思います。

彩乃かなみ:初めての読み合わせの日、男性役にならなくてはと声を低くして読んだ所、それは気にしなくていいとのご指摘をわかぎさんより頂きました。なので声色にこだわらず、人間性や中身での表現を深め突き詰めたいと思っています。

 おのおのが仮の衣装を着用した状態で早速稽古スタート。アンナ・エグロシュタイン男爵夫人(粟根)、そしてその秘書であり女教師のヨゼファ(黄川田)が、女子生徒の娘4人(佐藤永典、宮下雄也、原嶋元久、田中崇士)に淑女としてのマナーを教える場面だ。男爵夫人が「みなさんの夏の成績がよかったら、秋には王妃様が見学にいらっしゃる…」と口走った瞬間、「キャアアアア」と興奮のあまり男爵夫人めがけて群がる娘たち。

 その後も男爵夫人が「王妃様のお世話も…」「あわよくば大公様のお世話も…」と口走るたびに野獣のような娘たちが狂喜乱舞しながら男爵夫人に襲いかかる。アイドルを見つけた瞬間の女子高生というか、韓流の誰かを追いかける妙齢のマダムたちのような迫力。今はステージを模した床の上で演じているが、この場面、下手をすると粟根がステージから落とされるかもしれない!?そのやりとりに山本も、演技をつけたわかぎほかスタッフも笑いが止まらない。

粟根まこと:(男爵夫人のモデルは?)「アルプスの少女ハイジ」に出てくるロッテンマイヤー夫人ですね。あとはルキノ・ヴィスコンティの作品に出てくる貴婦人のイメージ。でも実はあまり「女性を演じる」ということは気にしないでいようかと。稽古が始まった段階で、あまり動きを作りすぎないように、とわかぎさんから言われていて。ガチガチに女性を演じないようにしようと思っています。

わかぎ:(同じ笑いを何度か繰り返すとか…どことなく関西の笑いがあるように思いますね、という問いに)…関西小劇場テイストね!(爆笑) この作品は悲劇ですが、悲劇は最後の最後だけでいい。本当の悲劇を、観客の胸にズドンと落とすためにそこに至るまでは遊んで、人間らしくいてください、とみんなに話をしています。「(ここまで笑わせておいて)まさかこうくるとは!」とやる方が胸に刺さるから。お客様をいい意味で裏切ろうと思わないと、悲劇なんて全然伝わらないよと。最後の20分で笑っていた人を全員泣かせるくらいのことをしないとダメだよ、と話しています。

 まあその点は、おじさんたち(八代、近江谷、粟根)が十分理解しているので。まるで演助(演出助手)のようですから。粟根が常に演助のようにいて、その後ろに八代と太朗ちゃんがいて、まこりん(粟根)が時代背景やネタを常に人に植えつけに行く…。「演助、いりますか?」って最初聞かれたんです。「いや、粟根がいるから演助はいりません」って返しました。

 中でもルーシー役の宮下が演じる娘の強烈さに目が釘付けだ。なんでもこの娘、食欲と性欲にしか興味がないらしい。例えるなら休み時間に大口あけてゲラゲラ笑いながらスカートをめくって下敷きで中を仰いでいるようなガサツ女子高生…。

 さんざんこの場面で笑いを取ったあと、男爵夫人が娘たちに日頃教育されている淑女の心得を一人ずつ指名して答えさせる。みんな台本のとおりにマジメに答えていくが、「何か質問は?」という粟根男爵夫人の声にルーシー宮下が「前々から気になっていたんですが…劇団☆新感線でもそんな感じなんでしょうか?」、すると粟根男爵夫人が「あたりまえです!でなきゃなんで私がこのTシャツを着ていると思ってるの?!」と着ていたケープを肩脱ぎして、中に着ている劇団☆新感線Tシャツを披露。そこからその姿のままステージ上を軽くランウェイウォーキング。たまらず全員爆笑。

わかぎ:先日の飲み会では粟根が「石田三成の水攻め」について夜中からしゃべりだしまして。次の日、宮下(雄也)くんに、この場面で「ここは粟根に訊きたいことを訊いていいよ」と言っておいたら、早速「すみません!昨日の水攻めについて訊きたいんですが…石田三成の水攻めってなんですか?」って。すると「歴史を調べなさーい!!」と粟根が一喝。負けずに「いや、居酒屋で夜の10時からあの話は理解しがたいッス」と突っ込み返していました。

粟根:わかぎさんが「あの場面の宮下くんの“質問”は日替わりネタに」と言っています。本番どうなるかまだわかりませんが。宮下くんも大阪出身でよしもとの人なので、笑いを取っていいところは貪欲に攻めてくれるんです。それにしっかり応えていこうと思います。この作品、やろうと思えば完全にギャグなしのゴシックホラーとして作り上げることもできるんですが、どうしても性(さが)ですかね。わかぎさんの性なのか、われわれの性なのか。「やっていい」と言われると笑いを増やしていこうとしてしまう。ならば、笑えるところは笑ってもらい、後半は一気に美しい悲劇に向かっていきたいと思います。

 場面が変わり、舞台の上手ではデュマ(山本)とラインハルト(彩乃)がご挨拶代わりのカードゲームをしている。カードの持ち方、見せ方もその次の動きにつながるよう、わかぎが一つ一つ丁寧に指示している。セリフも動きもまだぎこちない二人に、たまらずわかぎが「ここに台本を置きましょうー」と二人の間に。しばらく一つ一つの段取りを確認しながら進めていた。

山本:僕の役が、お客さんにいちばん近い存在だと思うんです。この作品の謎、バーデン大公国の謎に巻き込まれていくデュマは、たいした解決をする訳ではないのですが、そこにいて「事実を知る」役。舞台を観るお客さんもストーリーを追いながら「いや、まだ何かあるんじゃないかな?」って思いながら観ていくと思うので、「お客さん目線」を大事にしてやっていきたいです。だからこそ、毎公演毎公演、ピュアな気持ちでやりたいし、目の前で起きていることに巻き込まれていきたいですね。

 その後、再び男爵夫人とヨゼファ、女子生徒の娘4人の場面へ。「登山列車の場面ね。フニクリフニクラを歌って」とわかぎ。すると娘たちは電車ごっこをするような仕草で繋がったが「で、フニ・・ってどんな歌ですか?知らない・・・」若者の衝撃発言!年長者に静かな動揺が走る。わかぎが出だしを歌い粟根も一緒になって歌う。これは大変だ。こんなちょっとしたところにジェネレーションギャップが!

 「とりあえずやってみよう!」と繋がってみる4人。その前後にヨゼファと男爵夫人も繋がり「フニクリ、フニクラ…♪」と歌いながらステージ狭しとシュッシュッポッポ。ステージ中央まで来ると粟根が「次は終点〜終点ドイツ〜ダァシェリアスッ!(※ドア、閉まります)」と言いながら列車の前後を指さし確認。自然すぎるアドリブに顔がほころぶ娘たち。

佐藤永典:いろいろな出来事や人物への嬉しさや興奮や悲しみなどの表現を女学生のリンダとして、もっともっとやらなければなと思っています!

平野 良:(共演者たちは)皆、演劇にまっすぐで気さく。ユーモアたっぷりにコミュニケーションをし、楽しみながら、しかし締める所はビシっと作品を積み上げている印象。男女入れ替えですがこのメンバーだからこその世界が出来ると思います。

 稽古が始まって数回目。まだまだ様子を伺いながら動いてみる、という段階だったが、それにしても何かと笑いが起きる現場。「ゴシックホラー」のゴの字も感じさせない、明るい現場だった。ここからどうやって悲劇に突入するのだろうか。

わかぎ:ちゃんとした悲劇を上演することが最近ないな、「なんとなく悲劇っぽいモノ」が上演されることが多いなと思うんです。震災以降、特に骨太の悲劇が上演されることがないな、という話をしていて、ならば、と、この作品をやることになりました。

 この作品も悲劇でゴシックホラーだったんですが、女優と男優がそのまま演じても全然面白くない。怖くもないしちっとも綺麗じゃない。では我々がやる理由はどこにあるんだろう、と思って、一度稽古場で男女総入れ替えしてやってみたらすごいよくて。精神と肉体のバランスを壊してみたら、逆に悲劇の本質に近づいてきました。肉体が持っているパワーとか逆に引き算とかをうまく演劇に仕立てていく…それが私の中でたどり着いた答えだったように思います。

 男と女が入れ替わっていることで、どこか歌舞いた感じにみられるかもしれませんが、本当は骨太な悲劇なので、「人間」を観に来てほしいです。人の本質を入れ替えることで明確にしていく悲劇。ぜひ楽しみにしてください。

[取材・文=濱田みゆき]
[撮影=平田貴章]

公演概要

「夜の姉妹」

<公演日程・会場>
2015/12/11(金)〜12/20(日)  品川プリンスホテル クラブeX(東京都)
2015/12/23(水・祝)〜12/27(日) 近鉄アート館(大阪府)

<スタッフ・キャスト>
脚本・演出:わかぎゑふ
出演:
山本裕典
彩乃かなみ 佐藤永典
平野良 宮下雄也 原嶋元久
菊地美香 黄川田将也 八代進一
近江谷太朗  粟根まこと 他

2015-12-04 19:03 この記事だけ表示