寺山修司による頽廃美溢れる傑作『毛皮のマリー』を、美輪明宏の演出・美術・主演で7年ぶりに上演![インタビュー]

 寺山修司の代表作のひとつとして広く知られる『毛皮のマリー』が美輪明宏主演で7年ぶりに上演される。妖しさに満ち頽廃的な雰囲気の中、語られるのは伝説の男娼・マリーとその息子として育てられた美少年・欣也の美しくも残酷な物語だ。
 1967年の初演時に、寺山が美輪にあてて書いた戯曲ということもあり、徹底した美学を貫く美輪本人でしか表現できないと言っても過言ではない、独特の世界が舞台上に広がる。今回の美少年・欣也役はオーディションで倍率約300倍の激戦を経て、注目の若手俳優、勧修寺保都(かんしゅうじ たもつ・19)に決定した。そのほか、おなじみのキャストに新たなキャストも加わって、この2016年バージョンがまさに決定版中の決定版になりそうだ。
 今回もまた自ら演出、美術も手掛けることになっている美輪に、作品への想いを語ってもらった。

寺山のことをみんなは怖いと言っていたけど、 わたくしはカワイイと思っていました(笑)

――『毛皮のマリー』は今回、ずいぶん久しぶりの上演になりますね。

 約7年ぶりです。前回(2009年)の時はクライマックスでイケメンの男性がズラリと丸裸で並んでラインダンスをする場面があったりしたので大騒ぎでした。

――あれは、すごい迫力でした。

 最前列のお客さまなんて、みなさん下を向いて目のやり場に困っていらして。あとになって「もったいないことをしました」っておっしゃっていました(笑)。でも最近ではみなさん、テレビでも平気で本音を言うようになったでしょう。昔だったら「胸毛OKよ」とか「おへそのところに毛が生えているほうがセクシー」なんて言ったら「はしたない!」って言われてしまいましたから。それがいやだから本当は大好きでも「うわ、汚らわしい」とか「胸毛やすね毛は気持ち悪い」なんて嘘をついていたんです。

――比較的、おおっぴらに何でも言えるようになりましたね。

 そうでしょう? だからきっと今回はみなさん、目を伏せないで凝視なさるんじゃないかしら(笑)。そもそも寺山の世界って、コンテンポラリーでなんでもありなんです。わたくしのような昭和の怪物と呼ばれるものや、女相撲や、昭和初期のレトロなものも好んでいましたけれど、とにかく醜怪な人間というものが大好きでした。彼自身、腎臓を若いころから患っていて虚弱体質だったから、同病相憐れむで弱きものに対する共通意識みたいなものを持っていたんでしょう。

――初演は1967年でした。

 アートシアター新宿文化という映画館で、映画上映が終わったあとに上演したんですけれども。東由多加が演出ということになっていますが、東くんは当時まだ大学生でプロの演出家ではありませんでしたから、寺山とわたくしが口をはさみながらやっていたようなものでした。いつだったか、天井棧敷の劇団員に「寺山は我々劇団員が“てにをは”のひとつでも間違えたらしつこいくらいに怒るのに、美輪さんは演出を変えるわ、台詞を変えるわ、好き放題やっていて。なのに寺山はいつも「それで結構です」って言うじゃないですか。なぜ美輪さんだけえこひいきされているんですか」って言われたんです。「わたくしのことが、よほど恐ろしかったんでしょ」って答えたんです(笑)。寺山とは同い年で、彼は寡黙だったけれど実は話し出すと止まらないの。ツーと言えばカーという関係だったんです。

――そうだったんですか。

 「稀代の名女優だから」という風にいろいろな人に言ってくれていたらしいです。そしてこの『毛皮のマリー』には名台詞があって。「世界は何でできてるか考えたことある? マドロスさん。表面は大抵みんなウソでできているのよ……(中略)。歴史はみんなウソ、去っていくものはみんなウソ、あした来る鬼だけが、ホント!」っていう台詞なんですけれど、ある俳優さんや女優さんに「わけがわからない」なんて言われたので「いいえ、これは大変なことを言っているの。人生哲学なの」って教えたことがあります。「表面は大抵みんなウソでできているのよ」っていうのは、つまりみんな洋服を着ているじゃない。お化粧もしてる。政治家にしても何もかもみんなウソばかり言う。陰で軍事産業が動いているから、戦争が起こると困る人がいっぱいいるけれども戦争が起きないと困る軍需産業の連中だっていっぱいいるわけでしょう。軍事産業で食べている連中、またはその家族。そんな人たちは「戦争反対」なんて口では言っていてもみんなウソをついているんです。今の企業だってそう。一流企業が食品偽装をやったりインチキな工事をやっている。だけど、その中にはホントもある。生まれっぱなしの肉体はどんな身体でも真実なんです。「歴史はみんなウソ」っていうのは昔から権力者によって真実の歴史は書き換えられてきています。そして「あした来る鬼だけがホント」。いろいろなことを言いながらも結局、明日になって会社に行けばいじめはあるし、お得意さんにはわがままを言われ、上司には恥をかかされ、同僚とは足の引っ張り合いがある。そして家に帰れば鬼女房や不良の子供がいたりする。

――現実世界にしても、つらいことばかりだと。

 つまり、明日になればこの世の中、鬼なんてどこにでも必ずいるわけですよ。これは紛れもない真実でしょう。それで、わたくしが「こういう解釈でいいの?」って聞くと寺山は「あなたは怖ろしい人だ…!」って言っていました(笑)。それにいつだったか、芝居をしている最中にわたくしの目の前まできて「俺、こんないい芝居書いたかなあー」って言ったこともあった(笑)。カワイイの。

――美輪さんにとって、寺山さんはカワイイ人だったんですか。

 ええ。みんなは怖いと言っていたけど、わたくしはカワイイと思っていました。だから「修ちゃん、修ちゃん」って呼んでいたんです。

今回の舞台もいろいろな要素をごった煮にしたい。
それこそが、寺山修司ですから

――『毛皮のマリー』の戯曲を、初めて読まれた時はどんな感想をお持ちでしたか。

 その時はわたくし、寺山のお母さんの寺山はつさんのことを既に知っていました。あの方のことも劇団員は怖がっていましたけれど、どういうわけだかわたくしのことは気に入っていらして。聞くと「自分をあんなに美しく表現してくれる人はいない」っておっしゃっていらしたそうです。『毛皮のマリー』は修司ちゃんによると、青森の青函連絡船の発着場の港にいつもヘタな女装をした老残の男娼がうろうろしていて、それが最初のヒントだったんです。だけどわたくしは「それは最初のヒントだったかもしれないけれど、本当はこれはあなたとお母さんの母子の物語、私小説よね。男の子とおばさんの話にするとバレるから、男娼ともらわれてきた男の子という他人事にすりかえたんでしょ?」って言ったんです。そうしたら、何も返事をしませんでした。

――美輪さんにはお見通しだったんですね。そして今回、『毛皮のマリー』を再びやろうと思われたのはなぜだったんですか。

 ずっとやっていなかったですから。『黒蜥蜴』はこの間の上演で最後にしたわけですけれども、それで他の作品まで全部引退したと思われくはないですし、80歳になれば引退して当たり前みたいに思われるのもいやです。だって音域にしても昔と全然変わっていませんから。

――それは素晴らしいことですね。

 だいたい50歳過ぎると音域は狭くなって、低音のしゃがれ声になっていくんです。でもわたくしの場合は2オクターブ半出せますから。三島由紀夫さんの台詞にしても寺山の台詞にしても、音域が広くないとあの長台詞はきちんとしゃべれないんです。だからこの音域が自由自在にできる間は演じ続けようと思っています。ただ、相手役の目の前にこうしてスッと手を出せなくなったらやめようと思っています。失礼じゃないですか、シミだらけ、皺だらけの手では。でも、まだわたくしの手には全然シミもないです。

――本当ですね、ツルツルだからまだまだいけそうです(笑)。そして今回、美少年・欣也役は現時点ではオーディションの最中とのことですが。それ以外で決まっているキャストの方は。

 寺山は怪人を並べるのが好きでしたから、小人から極端に背の高い人、ボディビルダーみたいな人とか、そういう方々に今回も出ていただくのと、あとは先日の『黒蜥蜴』でも評判が良かった木村(彰吾)くんが船乗りの役で出ます。

――前回、美少女・紋白役だった若松武史さんにも、また出ていただけるとか。

 あの役は、若松さん以外にはできませんから。ユーモアの解釈にしても何にしても、寺山のところのアングラ劇で鍛えられていますし。それからもうひとり、これまで麿赤兒さんが演じてくださっていた下男・醜女のマリー役は今回初めてWAHAHA本舗の梅垣義明くんにお願いすることにしました。従順な下男から、急にバカバカしい二丁目のオネエみたいになったりしなければならない役なので、切り替えができてああいう存在感を出せる方ってなかなかいないんです。ライブでわたくしの歌を歌ってくださっていたこともあるという噂を聞いたこともありますが、実際に聴きに行ったことはないんです。前に、テレビで鼻から豆を飛ばしているのを見たことはあるので、今回もしかしたら劇中劇のショーの場面の時にでも、あれ、やってもらおうかなあ(笑)。

――本当ですか?(笑)

 ええ(笑)。まあ、そんな感じで、とにかくサービス満点の舞台なんです、『毛皮のマリー』という作品は。

――2015年は生誕80年ということもあって今もさまざまな作品が上演され続けていますが、現代人も魅了し続ける寺山さんの魅力について、美輪さんはどのようにお考えですか。

 現代とか、それから過去とか未来とか、そういう時間は天才には関係ないんです。ミケランジェロが古くなります? シェイクスピアは? 黙阿弥などの歌舞伎、観阿弥、世阿弥の能・狂言、みんな古くなりません。よく「また再演ですか」なんて言ってくる評論家やジャーナリストがいますけれど「じゃあ、シェイクスピアはどうするの、歌舞伎はどうするの?」って言いたいです。文学にしても音楽にしても演劇にしても何にしても、本物であれば時間なんて関係ございません。だからこうして寺山の作品が色あせないということは、やはり彼自身の持っていた芸術が本物だったということでしょう。

――そして今回は、美輪さんとしてはどういう演出にしようと思われていますか。

 前回上演したものがほぼ決定版に近いようなものだったので、今回はあれをもうちょっとふくらませる程度にしたいなとは思っています。エンディングのほうでは東北の民謡、『南部牛追い唄』を流して土着的な匂いをさせて。洗練されたフランス風な古き良き時代の雰囲気の中にも、昔の女剣劇とかドサまわりのチャンバラ劇みたいな感じも入れたほうがいいと思うし。レトロな懐かしさに、エレガンスな匂い。そういった、いろいろな要素をごった煮にしたいんです。それこそが、寺山修司ですから。

――決定版中の決定版の『毛皮のマリー』になりそうですね。

 ぜひ、そうしたいと思っています。きっと寺山も、はつさんも、奥様の映子(九条今日子)さんも、みんな観に来ると思います。稽古の時から来るんじゃないかしら。うわあ、今日だってもう来ているかもしれませんね(笑)。こわいよう(笑)

[取材・文=田中里津子]
[撮影=御堂義乘]

公演概要

毛皮のマリー

<公演日程・会場>
2016/4/2(土)〜4/17(日)  新国立劇場 中劇場(東京都)
2016/4/27(水)〜5/3(火・祝) PARCO劇場(東京都)
2016/5/28(土)〜5/29(日) KAAT神奈川芸術劇場 ホール(神奈川県)
2016/5/6(金) 東京エレクトロンホール宮城(宮城県)
2016/5/17(火) 福岡市民会館(福岡県)
2016/5/24(火) 愛知県芸術劇場 大ホール(愛知県)
2016/5/26(木) アクトシティ浜松 大ホール(静岡県)
2016/6/2(木)〜6/5(日) シアター・ドラマシティ(大阪府)
2016/6/8(水) 郡山市民文化センター 大ホール(福島県)
2016/6/10(金) 新潟県民会館 大ホール(新潟県)

<キャスト・スタッフ>
【作】寺山修司
【演出・美術・主演】美輪明宏
【出演】
美輪明宏 勧修寺保都
木村彰吾 若松武史 梅垣義明

江上真悟 大野俊亮 プリティ太田
小林永幸 真京孝行 大曽根徹 田中 稔

2015-12-25 12:23 この記事だけ表示