関西の劇団「維新派」11月の話題作について主宰の松本雄吉へインタビュー[インタビュー]
壮大な野外劇で名を馳せる関西の劇団・維新派。ここ最近は屋内公演が続いているけど、その分野外では実現不可能な、実験色の強い作品に挑んでいる。6〜7月に大阪で上演した新作『nostalgia』(注:93年の『ノスタルジア』とは別作品)では、なんと身長4mもの人型モンスターが登場。〈彼〉が20世紀初頭の南米で過ごした日々を、巨大スクリーンを使った映像と洗練さを増したダンスで見せ、観客の間では早くも「今年度最高の舞台」の声まであがっていた。ちなみに本作は、2010年まで続く〈彼〉の三部作の第一部となる。
そして11月には、この話題作が「彩の国さいたま芸術劇場」で上演される。主宰の松本雄吉に、大阪公演を振り返ってもらう形で、今回の作品について語ってもらった。



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──今回はやっぱり〈彼〉が最大の見どころになったと思いますが、なぜ巨人を出そうと思われたんですか?
松本 奈良の平城宮址で野外劇をやりたいという考えが、まず先にありましてね。すごい草ボウボウな所やねんけど、そこにでっかいモンスターが立ったら、圧倒的なぐらい似合うんちゃうかなあと。あと奈良には、東大寺みたいにでかい仏像のあるお寺が多いから、そこから影響を受けたというのもあるでしょうね。(余談:実は本作のチラシetc.に使われているイメージ写真は、その平城宮址で撮影されたもの)

──じゃあ「巨大なモンスターありき」で話が進んだと。
松本  それと埼玉公演や海外ツアーが早くから決まってたので、三部作形式の芝居にするというのも、何となく考えてはいたんです。何か「旅の道連れ」みたいなもんを一緒に連れてって、そいつをいろんな劇場や風景の中に立たせてみるという舞台を、シリーズでやりたいなあと。それで2年前に公演を打ったブラジルで感じたことなんかも取り入れて、「20世紀三部作」というテーマでやってみよう、ということになりました。

ishinha_IMG_4709s.jpg──何かブラジルで、芝居にしたいと思うような強烈な体験があったんですか?
松本 その時ブラジルに呼んでくれたんは現地の日系移民やってんけど、彼らがしゃべる日本語って、すごい独特なんですよ。純粋すぎて言霊が宿っていないという感じで、それが衝撃的やった。日本人のブラジル移住って1908年開始なんで、だったら20世紀全体を振り返るような物語を、ここから始めたらちょうどいいかなあと思ったわけです。

──今回の作品って、ここ最近の舞台の中ではめずらしくストーリー性が高かったですよね。それは何か「そろそろドラマが書きたい」とかの理由があったんですか?
松本 20世紀を旅するということで、主人公がいろんな所に行くロードムービー風の……ちょうどラテンアメリカを舞台にした『モーターサイクル・ダイアリーズ』みたいな話にしたいというのがあって。ロードムービーで、しかもラテンが舞台となったら、どうしても肉の感覚……要するにエッチなシーンとか欲しいなあと(笑)。

──ああ、男と女が旅の途中で出会って、みたいな(笑)。
松本 だったら何かストーリーみたいなんがいるやろうと、ごく自然にね。それと最初のシーンで、旧約聖書の「ノアの箱船」の一節を使うてるねんけど、最後の結びが「すべての生き物の中から、それぞれ二匹ずつ箱舟に連れて入り、あなたと一緒に生き残るようにしなさい。それらは雄と雌でなければならない」となってる。それで余計に、男と女の始まりみたいな物語になったのかもしれない。それはまあ、偶然やってんけど。

──あの「ノアの箱船」の暗唱シーンは、冒頭最大の見せ場ですよね。でもあれは最後の方ではノアの子孫の名前が、じょじょに南米の地名へと移行してましたが。
松本 あれはジェイムズ・ジョイスが『ユリシーズ』って本の中でやってたこと。「ノアはハム、セムを生み……」という一節から系図が始まって、いつの間にかイギリスの、それもいかがわしい繁華街とかの地名になっていく(笑)。せやけど地名って日本でもそうやけど、ある土地に神様が降り立ったら、その名前が地名になったりするでしょ? やっぱり地名に宿る神話性というのは、どこの国でもあると思う。特に南米の地名なんて「マチュピチュ」とか「ナスカ」とか、なんか響きだけでワァッと来るようなのが多いから、もうそれだけで1曲書けるわって思いましたね。

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ishinha_IMG_4714s.jpg──今回も野外ではなく屋内の公演となりましたが、前回の『ナツノトビラ』で照明の使い方を工夫したように、バックの映像使いが特に印象的でしたね。
松本 ロードムービー風と言うからには、主人公のいる場所がどんどん変わっていく必要があるし、また風景の説明もある程度必要になる。だけど大阪・埼玉・京都の3つの劇場をツアーで回る予定やったんで、だったらあまり大がかりなセットは持っていかれへんなあと。なので今回は最初から、背景に映像をいっぱい使おうと決めてました。

──維新派は「なんでも人力」という勝手なイメージがあるんで、映像を使うと聞いた時は意外な気がしました。
松本 でも一昔前には、全編映像を使った作品もあったんよ。『あらし』(85年)とか。うちは舞台より映画のスタッフの方が多いから「何か撮ろう」という話になったら、すぐにカメラを持ってきて大道具を叩いて撮影できるからね。

──あと今回の目玉である〈彼〉の造形は、相当苦労したんじゃないかと思いますが。
松本 いや、あれは意外と早くできたね。美術スタッフの1人が、ずうっとあれのことばっかり考えて(笑)、割と初期段階で構想を立ててましたよ。最初は2人で操作するとか言うててんけど、最終的には1人で動かす形になりました。

──〈彼〉が出てきた瞬間は、なんか異様すぎて笑ってしまいましたね。
松本 俺らも初めて歩く姿を見た時は「こらおもろいわ」と(笑)。あれは最初、舞台の上に立ってるだけでもええなあと思ってたけど、操作するスタッフが「結構いろんなことできますよ」と、公演が始まってから言い出して(笑)。だから最後の方では、走ったりもしてましたよ。あれはホンマ、お客さんがようウケとったねえ。

ishinha_IMG_4725s.jpg──もう1つ目を見張ったのが、役者の動きでしたね。すごいピシッとそろってて。
松本 もうね、今回は本当に役者を褒めたってほしい。あれは相当難しいことやってんねん。上半身と下半身でリズムが違う振付とかあるもん。上は4拍子で下は3拍子とか。

──……聞いただけでクラッと来ますね。
松本 来るやろ?(笑)これはね、体のコントロールだけでできる動きじゃない。リズムを頭に叩きこんで、稽古を重ねて覚えるしかないねん。でもそういう動きって、実際に見たらすごくキレイよ。上と下とがまったく一緒の振付だと、見ていてそのうち飽きてくるけど、やっぱり苦労の甲斐あって、いつまでも見飽きない動きになりましたね。

──さて11月には埼玉公演がありますが、何か変化しそうなところはありますか?
松本 まずバックの映像が、大阪よりもクリアーになるやろうね。大阪は機材の関係で見えづらくなってしまったシーンがあったりしてんけど、埼玉の劇場は倍ぐらい明るいらしいから、満足のいくものをお見せできると思います。それと中盤に、洗濯物のシーツをいっぱい広げるシーンがあるねんけど、あれも舞台の奥行きを生かして、もっとパァーッとさわやかな風景にできるんとちゃうかな。

──ちょっと早い気もしますが、第二部の平城宮址公演の実現の可能性は?
松本 まだ何とも言われへんなあ。長年暖めてきた発想やから、やる意志はすごくあるけど。場所自体がすごい所やし、実現したら本当の意味での“野外”の良さを出せると思うねん。だから余計にこの公演を成功させて、上演許可が取れるようにしたいね(笑)。

──第一部は、最後に…………(←ネタバレなので自主規制)の風景が現れて終わったわけですが、二部で〈彼〉が旅をするのはどの辺りになる予定でしょう?
松本 まだ具体的には考えてへんね。ただ今回〈彼〉は、日本のゴミ溜めみたいな島で目覚めて登場したわけだから、三部の終わりには「なぜ彼がそこにいたのか」がわかるようにしようとは思ってる。〈彼〉はこれからどんどん巨大化させる予定でいるから、その頃には20メートルぐらいになってるかもわからんね(笑)。

取材・文/吉永美和子


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