――初演では、4日前に台本が完成したそうですね。
「今日は3枚届きました」という感じで、稽古場に届いたコピーしたての台本が少しずつ配られて、「あ、私、次のシーン出るんだ!」と知る(笑)。
そのコピーしたての紙から伝わってくる温かさから、井上先生が生み出したばかりの“命”を直で感じられたというか。だから、「ここに書かれている一字一句間違えちゃいけない」と思ったことを覚えています。

――そういった状況の中、プロレタリア作家・小林多喜二の恋人・田口瀧子を演じることについて、どのように役作りをしましたか?
瀧子は、最初の方、多喜二の姉・チマさんと一緒に(同志の借家にいる)多喜二を訪ねるシーンで、多喜二との関係が割としっかり説明されるんです。「死ぬ気で抱きついたのに多喜二が触れてくれない」とか、「多喜二を呼ぶ時に“兄さん”を付けるから深い関係に進まない」とか。そういった会話から、キャラクターを掴んでいきました。

――瀧子の多喜二への想いについてはどのように考えていますか?
貧しい家族が食べていくために酌婦になっていた瀧子を救ってくれたのが多喜二。そして「女性も手に職をつけないといけない」とか、それまでは思いもよらなかったことをたくさん教えてくれた多喜二から、おそらく瀧子は大きな刺激を受けたと思う。そうして頼るようになって好きになって。
それでも瀧子は、一家の大黒柱として、目先の生活のためのお金を稼がなければならないという現実から逃れることができないんです。遠い未来を思い描けず、今日一日をどうしのぐかに追われていた瀧子みたいな人間って、当時はとても多かったんじゃないかな。

――逆に、多喜二にとって瀧子はどんな存在だったと思いますか?
多喜二と瀧子の関係はとても複雑です。
多喜二が自分には全く触れてくれない一方で、同志であり傍にいるふじ子さんとは同じベッドで寝る。でも瀧子には、多喜二の自分への想いも分かってはいて……。
本当に多喜二が幸せにしたい人は、瀧子なんだと思います。多喜二は、瀧子のような人こそ幸せにならなければいけないと考えて、頑張って活動している。厳しい現実の中でも頑張れる原動力みたいな存在だと思うんです。

――瀧子は多喜二の希望だったんでしょうね。
だから、自分と一緒に隠れて辛い想いをさせるよりも、自立して幸せになってほしいと願っていた。ただ多喜二は、瀧子を見ながらも、その先に、「日本国民みんなが幸せなってほしい」と、物事をもっと壮大に捉えている。そんな多喜二のことを、なんて大きくて深い人なんだと思うと同時に、その思想を自分は完全に理解できない……。瀧子にはそんな情けなさや苦しさもあったと思います。

――この『組曲虐殺』が井上ひさしさんの遺作になってしまったことについてはどう感じていますか?
この作品の小林多喜二って、井上先生そのものですよね。体全体でぶつかって物を書こうとすると、胸のあたりにある映写機のようなものがカタカタ動き出して、その人にとってかけがえのない光景を、原稿用紙の上に、銀のように燃え上がらせる。そんな多喜二の台詞があるんですが、これって先生ご自身のことを書かれていると思うんです。それは初演で瀧子を演じながらも感じていたんですけど。
この作品で演じる人物としての想いというより、その先にある先生の想いを私たちは背負っていて、それを深いところで伝えないといけない。この作品はどうしてもそんな気持ちになります。

――井上ひさしさんとのエピソードは何かありますか?
お会いした時は必ず私のことを褒めてくださって。確かゲネの時は、すごく泣きはらした顔で楽屋までいらっしゃって、握手をしながらずっと褒めてくださいました。あの時の顔、そして手はいまだに忘れられません。
あとはいつもニコニコされていて、「私は瀧ちゃんの、(ふじ子が多喜二に)『呼び捨てにされるっていいな』という台詞が好きなんです」とおっしゃっていたことも覚えています。

――最後に、劇場に足を運ばれる観客のみなさんにメッセージをお願いします。
初演の時は、台詞や立ち位置、振付を短期間で覚えるのに必死で。今回は、井上先生が命を削りながらも伝えたかった想いを、もっと丁寧に伝えたられたらなと思っています。3年前よりも進化した作品をお見せしたいと思いますので、近ければ、いや、近くなくても(笑)、ぜひ劇場に足を運んでください!

>井上芳雄さんのインタビューはこちら
>高畑淳子さんのインタビューはこちら

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2012-09-28 18:10 この記事だけ表示

タレント・構成作家として人気作を世に送り出している鈴井貴之が、自身の原点である「演劇」に立ち返り生み出した新作『樹海-SEA of THE TREE-』。4人の自殺志願者が“最期の場所”として選んだ樹海で鉢合わせしたことから始まる悲喜劇を描く本作で、ワケアリの中年男性を演じる石井正則に、作品への手応えを聞いた。


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2012-09-13 14:56 この記事だけ表示

 過去に二度、地球ゴージャスのステージを経験し、舞台俳優としての素質を眩しいほどに発揮させていた三浦春馬。彼が次に挑むことになった舞台が、劇団☆新感線『ZIPANG PUNK〜五右衛門ロックIII』だ。この作品はこれまで、2008年に『五右衛門ロック』、2010年に『薔薇とサムライ〜GoemonRock OverDrive』として上演し大好評を博した五右衛門シリーズの第3弾。天下の大泥棒・石川五右衛門が今回は日本を舞台に大暴れする、痛快無比な大冒険活劇となる。劇団の看板役者、古田新太がもちろん今回も五右衛門を演じるほか、蒼井優らがキャスティングされているこの豪華なステージで、三浦は明智心九郎という"名探偵"的な役まわりで登場する予定だ。


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2012-09-06 10:34 この記事だけ表示

 余命わずかな少年・オスカーと、口の悪い病院ボランティア・ローズさんとのやりとりを描いた感動作『100歳の少年と12通の手紙』。世界40カ国の読者が涙したという、このベストセラー作品はフランスの作家エリック=エマニュエル・シュミットによるもので、日本では初めての舞台化となる。今回は“観る朗読劇”というスタイルで、リーディングキャストは日替わりで12組24名の華やかな面々が揃う。レギュラーキャストとしては注目のダンサー・中島周が、平山素子の振付でパフォーマンスを披露するなど、朗読に音楽とダンスが加わる構成となる。演出を手がけるのは、スタイリッシュなステージングで知られる鈴木勝秀。果たしてどんな新鮮な朗読劇を生み出そうとしているのか、その思惑を聞いた。


 
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2012-08-31 19:45 この記事だけ表示

(左から)小野寺修二、中山ダイスケ

 国内外で活動を行い、各方面から高い評価を得ている演出家にして振付家でもある小野寺修二。最近ではケラリーノ・サンドロヴィッチや白井晃が演出する舞台の振付を担当するなど演劇界からも引っ張りだこの小野寺が、振付はもちろん、構成と演出も担当する舞台がこの『日々の暮し方』だ。原作は別役実による同名の戯曲ならぬ、エッセイ。そして美術、アートディレクションを世界を股にかけて活躍中のアートディレクター、中山ダイスケが手がけることになっている。これまでになかった、新鮮なステージングが期待できそうだ。小野寺と中山に、どんな舞台を創造しようとしているのか、その企みを聞いた。


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2012-08-22 11:45 この記事だけ表示

 八人の犬士の冒険と友情を壮大なスケールで描く「里見八犬伝」が、この秋、フレッシュなキャストを得て舞台化されることとなった。演出を手がけるのは映画監督、故・深作欣二の息子、深作健太。父の代表作ともなったこの作品にいかに新たな風を吹き込むか、注目される。八犬士の一人、犬川荘助を演じる渡部秀にとっては、これが本格的舞台初挑戦。その意気込みを直撃した。


 
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2012-08-22 10:38 この記事だけ表示

 ここ最近舞台でも活躍している若手俳優たち、植原卓也、橋本淳、田島ゆみからに、加藤啓、吉本菜穂子、市川しんぺー、伊藤正之らクセもののベテラン勢を加えた青春群像劇『阿呆の鼻毛で蜻蛉をつなぐ』。脚本は赤堀雅秋が渾身の最新作を書き下ろし、演出は河原雅彦が手がける。どちらも自ら作・演出もやり、個性派役者としても注目を集めて演劇界を牽引する二人だが、意外にもこれが初めての顔合わせのため演劇ファンの注目度が高い舞台だ。まだ稽古前ではあるが河原にどんな舞台を狙っていくつもりなのか、直撃した。


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2012-08-17 14:04 この記事だけ表示

 1956年12月4日、テネシー州メンフィス。サム・フィリップスなる男が構える小さな録音スタジオに、四人のミュージシャンが集まってくる。ジョニー・キャッシュ。ジェリー・リー・ルイス。カール・パーキンス。そしてエルヴィス・プレスリー。ロックンロール史に名を残す男たちは、その夜、たった一度だけ四人で集い、後に"伝説"と呼ばれることとなるセッションを繰り広げた。
そんな実際の音楽的事件にインスピレーションを受けたブロードウェイ・ミュージカル「ミリオンダラー・カルテット」が、この秋、渋谷の新名所、東急シアターオーブで上演される。ジェリー・リー・ルイス役をオリジナル・キャストで務め、トニー賞最優秀助演男優賞に輝いたリーヴァイ・クライスに、作品の魅力について語ってもらった。


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2012-08-17 10:49 この記事だけ表示